【聖なるシュカは述べられり】
子の亡骸（なきがら）のそば近く　倒れ伏したる父王は
さながら死体のごとくなり
悲運嘆いて落胆す 〔チトラケートゥ大王〕に
永遠の法（のり） 教えんと
〔アンギラス仙〕〔ナーラダ仙〕 二人の仙が 近づきぬ

「王のなかでの最高者 〔チトラケートゥ大王〕よ
御身（おんみ）が悼（いた）むその息（そく）と　其方（そなた）は如何（いか）な過去(前世) 持つや？
現世（げんせ）は父子（ふし）で そして又　来世は如何な関りを
持つか 其方はご存知や？

河の流れに身をまかせ　揺蕩（たゆた）いながら 或る時は
共に流され 或る時は　遠く離され 流れゆく
砂丘の砂は或る時に　小山を作り 或る時に
風に吹かれて舞い立ちぬ　被造されたる人間は
〔時〕の流れに従いて　縁（えにし）を結び 又絶（た）たる

同じ種子（たね）でも殻付（からつ）きは　種まき用に保存され
他は食料として用（もち）いらる　斯くの如くにある物は
次世代を生み 他の物は　食料として他を生かす
被造されたる物 全て　至高の神のマーヤーで
あらゆる変化 強いられる

一つの種（しゅ）から他の種（たね）が　生れる如く おお王よ
肉体を持つ父親の　一つの種子（しゅし）が 母親の
肉体に在る 胎（たい）に入り　一人の子供(肉体) 誕生す
この肉体を器とす　個魂（ここん）は永久（とわ）に 不滅なり

御主（みす）の分かれの分魂（ぶんこん）(ジーヴァ・個魂)と　グナから生ず 肉体は
同じでないと 原初より　定められたることなるに
無知から出（いで）し誤謬（ごびゅう）にて　同一なりと妄信す」

【聖なるシュカは述べられり】
偉大な〔ドヴィジャ(婆羅門)ナーラダ〕と
その兄弟の〔アンギラス〕 二人の仙に諭（さと）さると
〔チトラケートゥ〕国王は　やつれし顔を手で拭い
次の如くに語りたり

チトラケートゥ 斯く述べり
「偉大な聖者 聖仙を　更に凌駕（りょうが）す 最高の
聖知に満ちし お二方（ふたかた）　遠き秘境の彼方（かなた）より
此処（ここ）に到着 為されしは　どなた様にてご座ろうや？

御主（みす）の寵愛享（う）けられし　ブラーフマナの方々は
まるで狂いし者のごと　装（よそお）いながら この穢土（えど）の
彼方（あちら）こちらを流離（さすら）いて　吾の如くに知性無き
無明に墜ちし 者達を　救済さると聞き及ぶ

〔サナトクマーラ〕〔ナーラダ仙〕
〔リブ〕〔アンギラス〕〔デーヴァラ〕や
〔ドヴァイパーヤナ ヴィヤーサ仙〕
〔マールカンデーヤ〕〔ガウタマ仙〕

〔パラシュラーマ〕や〔ヴァシシュタ仙〕
〔シュカ仙〕そして〔聖カピラ〕
〔ドゥルヴァーサス〕や〔ジャーツカルナ〕
〔ヤージュニャヴァルキャ〕〔アルニ仙〕

〔ダッタトレーヤ〕〔ローマシャ〕や
〔チャヴァナ〕〔アースリ〕〔パタンジャリ〕
ヴェーダの長や〔ダウミヤ〕や
〔パンチャシィカ〕や そしてまた

〔ヒランヤナーバ〕〔カウシャリヤ〕
〔シュルタデーヴァ〕〔リタドワジャ〕
これ等偉大なリシ達や　神秘力持つ方々が
真（まこと）の真理 伝えんと　世界各地を巡らると…

聖アンギラス 述べられり
「嘗（かつ）て其方（そなた）が子を望み　願いをかけし その時に
子を与えしは おお王よ　アンギラスなる吾なりき
更にこの場におられるは
〔ブラフマー神〕を父に持つ 〔ナーラダ仙〕で おわすなり

息子亡くせし悲しみに　無明の闇を彷徨（さまよ）いて
悲歎の底に沈む様（さま）　見るに耐えざる行為なり
至高の御主（みす）を信奉（しんぽう）し　民を愛する御身には
相応（ふさわ）しからぬ 所業（しょぎょう）ゆえ

斯かる御身を気遣いて　吾等二人が おお王よ
此処に到着 いたしたり
至高の御主（みす）を信奉す　クリシュナ神の帰依者には
底無し沼に沈むごと　果て無き闇は 適（てき）さざり

過日に吾は其方（そのほう）に　最高聖知与えんと　その宮殿を訪れり
然れど御身（おみ）は それよりも　世俗のものを求めたり
それ故吾は息子のみ　授けてその場 離れたり

〔チトラケートゥ大王〕よ　今の御身は哀れにも
渇望（かつぼう）したる子宝を　失くせし親の悲しみの
痛苦に喘（あえ）ぎ 呻吟（しんぎん）し　吾が身の不幸 嘆くなり
おおしかれども其の方は　良き妻 そして宮殿や
多種の権利や財産を　持ちて栄華（えいが）を 誇るなり

土地や王権 権威（けんい）など　大臣 友人 同盟者
感覚満たす対象や　召使いとか 女官（にょかん）たち

〔シューラセーナ〕の大王よ
これ等 御身を喜ばす　物質界の諸々は
深き悲しみ 幻想や　恐怖 悩みを齎（もたら）せる
〔マーヤー〕により造られし　夢 幻（まぼろし）に過ぎぬなり

斯かる夢幻（むげん）の現世（うつつよ）は　過去の行為のカルマにて
造り出されし様々（さまざま）な　心に起きし 絵空事（えそらごと）

五大元素と感官の　肉体を持つジーヴァは
多種多様なる心痛や　苦悩 悲哀を味わいぬ
これら辛苦（しんく）の原因は　この肉体の仕業（しわざ）なり

蓮華の御足（みあし） お慕いす　シヴァ神始め 神々は
迷妄の因（もと） 二元性　そを断ち切りて 忽（たちま）ちに
無比なる栄え 獲得す　おお大王よ 御身様（おみさま）も
それを望みて励むなば　長き時間がかかれども
卓越したる永久（とこしえ）の　至福の郷（さと）に至るらん

第十五章　終了