二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる

第二十五章【ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる】

maitreya uvâca
iti sandisya bhagavân
bârhisadair abhipûjitah
pasyatâm râja-putrânâm
tatraivântardadhe harah
25-1




マイトレーヤは述べられり
「斯くの如くにシヴァ神は プラチェータスの面々に
秘法を伝授なされると 名残り惜しげに見送りつ
深き感謝をたてまつる 王子等残し 消えゆかる





rudra-gîtam bhagavatah
stotram sarve pracetasah
japantas te tapas tepur
varsânâm ayutam jale
25-2




注意深くて賢明な プラチェータスは聖シヴァに
授けられたる讃頌さんしょうを 王子等すべて低唱ていしょう
しかして彼等全員は 水のなかでの一万年
立ちたるままで苦行せり





prâcînabarhisam ksattah
karmasv âsakta-mânasam
nârado 'dhyâtma-tattva jnah
krpâluh pratyabodhayat
25-3




おおヴィドゥラよ そのかんに 真理のずいに精通す
偉大な聖者ナーラダは
プラーチーナバリ(王子等の父バルヒサドのこと)国王に
心にひそむ欲望を “供犠の施行しこう”に転化せず
<憐れみ深き王たれ>と 斯くの如くに教えらる







363

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



sreyas tvam katamad râjan
karmanâtmana îhase
duhkha-hânih sukhâvâptih
sreyas tan neha cesyate
25-4




〈おお国王よこの世にて 生命いのちを持ちし者たちで
苦難を除き幸得んと 思わぬ者が居ましょうや?
御身は如何な手段てだてにて 究極の幸 安寧を
手に入れなんとなされしや? 如何に願いを重ねても
全ては己が行為にて 定められると思われよ〉






râjovâca
na jânâmi mahâ-bhâga
param karmâpaviddha-dhîh
brûhi me vimalam jnânam
yena mucyeya karmabhih
25-5




プラーチーナバリ国王は 斯くの如くに答えたり
〈おお神仙よこの吾に 何とぞ教え給えかし
如何なる行為する者が 有徳の王になれるかを
そして穢れを払うには いかなる行為 すべきかを






grhesu kûta-dharmesu
putra-dâra-dhanârtha-dhîh
na param vindate mûdho
bhrâmyan samsâra-vartmasu
25-6




俗世に生きる吾々は 泡沫うたかたのごと現世うつつよ
実の世界と誤謬して 家庭や子供 財のみに
愛を注ぎて執着す かかる無知ゆえ本質を
知り得ぬ者に 願わくば 真実の理を明示して
輪廻の道を断ちたまえ〉








364

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



nârada uvâca
bho bhoh prajâpate râjan
pasûn pasya tvayâdhvare
samjnâpitân jîva-sanghân
nirghrnena sahasrasah
25-7




ナーラダ仙は述べられり
〈国を治めて生物せいぶつを 愛育すべき王侯よ
御身おんみがなせし数々の 犠牲祭にて供されし
数千頭の動物を 目を見開きて御覧ごろうじろ
無慈悲にほふり 殺したる 群れをよくよく御覧ごろうじろ






ete tvâm sampratîksante
smaranto vaisasam tava
samparetam ayah-kûtais
chindanty utthita-manyavah
25-8




おお国王よ 其方そなたにて 危害受けしを記憶する
殺害されしけものは 御身おみが死界へきたるのを
鉄でできたるつの ぎて 刺し通すべく怒気どき荒く
待ちかまえるを知るがいい






atra te kathayisye 'mum
itihâsam purâtanam
puranjanasya caritam
nibodha gadato mama
25-9




斯かる所業しょぎょうに関連し 遠き昔の話とて
言い伝えらる物語 プランジャナなる帝王の
その出来事を この吾が 謳いて聞かす そのかん
とくと考え 学ばれよ









365

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



âsît puranjano nâma
râjâ râjan brhac-chravâh
tasyâvijnâta-nâmâsît
sakhâvijnâta-cestitah
25-10




かつて昔のことなれど プランジャナなる有名な
あるくにおさが居たるなり されど彼には不確ふたしかな
“未知なる者”と呼ばれたる 影の如くの存在が
居る と巷間こうかん伝えられ その活動がささやかる






so 'nvesamânah saranam
babhrâma prthivîm prabhuh
nânurûpam yadâvindad
abhû sa vimanâ iva
25-11




自分の地位に相応ふさわしき 城を持たんと意図したる
プランジャナ王 しかる時 土地を求めて全世界
探し求めて旅すれど 見出すことが出来なくて
意気消沈し ふさぎ込む





na sâdhu mene tâh sarvâ
bhûale yâvatî purah
kâmân kâmayamâno 'sau
tasya tasyopapattaye
25-12




相応ふさわしき土地なきことで 落胆したる国王が
次なる思い立ちしこと そは享楽を求むこと
彼は感覚満足を 得なんと思い またしても
諸国巡行じゅんこうしたれども やはりそれらは見出せず
更に落胆深めたり










366

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



sa ekadâ himavato
daksinesv atha sânusu
dadarsa navabhir dvârbhih
puram laksita-laksanâm
25-13




一縷いちるの望みいだきたる 王は雪降るヒマラヤの
南の尾根を探したり するとそこには九つの
門をかまえし城塞じょうさいが そびえ立つのを見つけたり







prâkâropavanâttâla-
parikhair aksa-toranaih
svarna-raupyâyasaih srngaih
sankulâm sarvato grhaih
25-14




とりでのなかに公園や 見張塔やら塹壕ざんごう
窓孔まどあな 塔門とうもん 見受けられ 金銀銅で造られし
丸き屋根やら尖塔せんとうを もつ家々が彼方此方あちこち
散在するが 見受けらる







nîla-sphatika-vaidûrya-
muktâ-marakatârunaih
klpta-harmya-sthalîm dîptâm
sriyâ bhogavatîm iva
25-15




サファイヤ 水晶 猫目石 エメラルドとかルビーとか
貴重な真珠輝きて 宮殿の壁 ゆかなどが
光り輝く美しさ ボーガヴァティーと呼ばれたる
天上界の宮殿も 斯くやとばかりきらめけり










367

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



sabhâ-catvara-rathyâbhir
âkrîdâyatanâpanaih
caitya-dhvaja-patâkâbhir
yuktâm vidruma-vedibhih
25-16




町には会堂 集会所 公園 十字路 大通り
商店街や遊戯場 旗やのぼりが風に舞い
珊瑚のテラス 花飾り 憩いの場所も完備さる






puryâs tu bâhyopavane
divya-druma-latâkule
nadad-vihangâli-kula-
kolâhala jalâsaye
25-17




繁華はんかな町の郊外に 見事な樹林広がりて
土地這う草や 蔓草つるくさが 年経としへし庭と 思わせる
そこかしこにはや池に 澄みし真水がたたえられ
鳥のさえずりえわたり 蜂が羽音はおとを震わせて
奏でる音色ねいろ 優雅なり







hima-nirjhara-viprusmat-
kusumâkara-vâyunâ
calat-pravâla-vitapa-
nalinî-tata-sampadi
25-18




氷が融けし滝水の 飛沫しぶきしげく飛び散りて
春待つ木々に降りかかり 新芽に目覚め 促せり
蓮華が繁茂はんもする池も 春の香りがそよ風に
届けられるとつやめいて 華やかな色 濃さを増す









368

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



nânâranya-mrga-vrâtair
anâbâdhe muni-vrataih
âhûtam manyate pântho
yatra kokila-kûjitaih
25-19




広き森には様々な 動物たちが共生きょうせい
まるで遊行の聖者等を 護るごとくに気遣いて
豊かに棲息したるなり その森からは楽し気に
ボーボーと鳴く郭公かっこうの 声が旅人 誘うかに…






yadrcchayâgatâm tatra
dadarsa pramadottamâm
bhrtyair dasabhir âyântîm
ekaika-sata-nâyakaih
25-20




誘われるままおとないし その庭園で帝王は
たぐいなきほど美麗なる ある貴婦人と出会いたり
各百人の下僕げぼく持ち その貴婦人にかしずける
従者十人 引き連れし 豪華な旅の 途次なりき






panca-sîrsâhinâ guptâm
pratîhârena sarvatah
anvesamânâm rsabham
apraudhâm kâma-rûpinîm
25-21




彼女はおのの意図のまま 姿を変える力あり
五つのかしら 持つ蛇が 護衛をしたるその上に
兵士達にも守られて その貴婦人は最高の
夫と巡り合わんとて 諸国を訪ね 邂逅かいこう
えにしなんと願いての 旅を続けていたるなり









369

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



sunâsâm sudatîm bâlâm
sukapolâm varânanâm
sama-vinyasta-karnâbhyâm
bibhratîm kundala-sriyam
25-22




美しき鼻 真白き歯 まだ うら若き頬の色
ひいでしひたい 形良き 両の耳には見事なる
きらめくかざり ゆらぐなり







pisanga-nîvîm susronîm
syâmâm kanaka-mekhalâm
padbhyâam kvanadbhyâm calantîm
nûpurair devatâm iva
25-23




魅力的なる妖艶な 臀部でんぶに纏う褐色の
黄色を帯びし腰布を 金のベルトで引き締めし
浅黒き肌 よく映えて アンクレットの鈴鳴らし
歩く姿は天女てんにょかと まがうばかりの美しさ







stanau vyanjita-kaisorau
sama-vrttau nirantarau
vastrântena nigûhantîm
vrîdayâ gaja-gâminîm
25-24




その早乙女さおとめの胸のは はち切れるほど充実し
胸の谷間の深きこと 恥じらいながらサリーにて
覆い隠しつ楚々そそとして うつむき気味に歩を運ぶ











370

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



tâm âha lalitam vîrah
savrîda-smita-sobhanâm
snigdhenâpânga-punkhena
sp rstah premodbh ramad-bhruvâ
25-25




ちらりと王に流し目を 送りし時のまなじり
矢の先端に付けられし 羽の如くに国王の
憐れな胸に突き刺さり はにかむ如き微笑みは
なお一層に美しく 弓の如くに弧を描く
凛々しき眉がひとしおに 魅力を深め 国王は
躊躇ためらいつつも貴婦人に ついに言葉をかけられり





kâ tvam kanja-palâsâksi
kasyâsîha kutah sati
imâm upa purîm bhîru
kim cikîrsasi samsa me
25-26




〈〈蓮の花弁かべんの如き目の おお可憐なる早乙女さおとめ
そなたは何故なぜにこの庭で 散策さんさくなされ給いしや
さぞや其方そなたは名の高き 係累けいるい持ちし方ならん
おお内気なる貴婦人よ このお近くに住まわるや
はたまたここのあるじから 招待されし御方おんかたや?






ka ete 'nupathâ ye ta
ekâdasa mahâ-bhatâh
etâ vâ lalanâh subhru
ko 'yam te 'hih purah-sarah
25-27




十人ほどの従者連れ 十一番目は護衛兵(武装した)
何故なにゆえ斯くも厳重に 固き警護をなされるや?
そして多くの女性にょしょうや 先導するかの蛇たちは?
おお明眸めいぼう早乙女さおとめよ 其方そなた出自しゅつじ 明かされよ







371

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



tvam hrîr bhavâny asy atha vâg ramâ patim
vicinvatî kim munivad raho vane
tvad-anghri-kâmâpta-samasta-kâmam
kva padma-kosah patitah karâgrât
25-28




そなたはハリー?さもなくば
パールヴァティーか サラスヴァティー
もしやラクシュミー女神かも… 苦行の聖者多く住む
この寂静の隠遁いんとん地 この場このめる御身様は
蓮華の御足持つ君を 探し求めてこられしや?
もしやラマーであるならば 指の先からこぼれ落つ
蓮のつぼみ何処いずこにや?





nâsâm varorv anyatama bhuvi-sprk
purîm imâm vîra-varena sâkam
arhasy alankartum adabhra-karmanâ
lokam param srîr iva yajna-pumsâ
25-29




いいや其方そなたはこの中の いずれでも無きかたならん
おお美しきももを持ち 地にしっかりと立つ方よ
クリシュナ神とラクシュミーが 永久とわ園生そのうすごとく
世に英雄は数あれど もっとも勝る英雄と
讃えられたるこの吾と 共に価値ある大都市を
造る活動なさらぬや?





yad esa mâpânga-vikhanditendriyam
savrîda-bhâva-smita-vibhramad-bhruvâ
tvayopasrsto bhagavân mano-bhavah
prabâdhate 'thânugrhâna sobhane
25-30




そなたが吾に投げかけし 一瞥いちべつによりこの吾は
心中深く動揺し 愛の思いに打たれたり
羞恥はにかむ如き微笑みや 眉の動きのなまめける
魅力に満ちし艶人あでびとよ 吾の情けを受け給え





372

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



tvad-ânanam subhru sutâra-locanam
vyâlambi-nîlâla ka-vrnda-samvrtam
unnîya me darsaya valgu-vâcakam
yad vrîdayâ nâbhimukham suci-smite
25-31




おお愛らしく清らかな まだうら若き乙女子おとめご
羞恥はじらいながら顔を伏せ 吾を見ようとなさらぬが
澄みし瞳や美しき 眉を隠せる漆黒の
垂れし前髪 かき揚げて 何とぞ吾を見つめあれ
ああ麗しき唇を 開きて声を聞かせあれ〉〉〉






nârada uvâca
ittham puranjanam nârî
yâcamânam adhîravat
abhyanandata tam vîram
hasantî vîra mohitâ
25-32





ナーラダ仙は続けらる
〈唯ひたすらに思いつめ 覇王はおうの誇り 打ち捨てて
乙女に恋の熱情を 語り続けるプランジャナ
その愛情に胸打たれ 乙女は頬に笑み浮かべ
御君おんきみと同様に まぶしき思い もちたりと
斯くの如くに語らえり





na vidâma vayam samyak
kartâram purusarsabha
âtmanas ca parasyâpi
gotram nâma ca yat-krtam
25-33




〈〈すぐれし王よこのわれは おのれ自身も又ほかの
誰の家系も知らぬなり 先祖の名すら不明確
この九つの塔門を 持つ城郭じょうかくぬしすらも
わらわは何も知り得ずに 唯 今ここに存在す








373

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



ihâdya santam âtmânam
vidâma na tatah param
yeneyam nirmitâ vîra
purî saranam âtmanah
25-34




おお偉大なる英雄よ 現在ここに存在す
この者達のことだけが われが知り得しことのみで
とりで造りし者の名も その目的も不明なり






ete sakhâyah sakhyo me
narâ nâryas ca mânada
suptâyâm mayi jâgarti
nâgo 'yam pâlayan purîm
25-35




ここに居りたる男性と 女性は全てが友で
敬愛すべき仲間なり われが眠りに就くときは
蛇がとりでを護るなり






distyâgato 'si bhadram te
grâmyân kâmân abhîpsase
udvahisyâmi tâms te 'ham
sva-bandhubhir arindama
25-36




御身おんみがここに来られしは 祝福されし吉兆の
まことさちあることなりき 五官の喜悦 得なんとて
来訪らいほうされし御身様おみさまを われは必ず充たすらん
敵を制する御方おんかたよ われの仲間となごまれよ













374

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



imâm tvam adhitisthasva
purîm nava-mukhîm vibho
mayopanîtân grhnânah
kâma-bhogân satam samâh
25-37




おおきみよ 九つの 塔門を持つこの城に
わらわとともに住み給え 感覚的な喜びの
百年間を過ごすため 快楽けらくそのへこのわれ
いざなうままに来られませ






kam nu tvad-anyam ramaye
hy arati jnam akovidam
asamparâyâbhimukham
asvastana-vidam pasum
25-38




われ御身おみとの快楽に 溺れることがあろうとも
ほかの者との悦楽えつらくを 決して望むことは無し
性愛あいにつきての知識無く 未来も見えず次の世の
見通しも無き愚かなる けもののごときやからには
何の魅力もなきゆえに





dharmo hy atrârtha-kâmau ca
prajânando 'mrtam yasah
lokâ visokâ virajâ
yân na kevalino viduh
25-39




家住期に在る者こそは 財と快楽そしてまた
供犠の喜び 主への帰依 世の称賛を獲得し
常に精錬潔白で 世界の幸に貢献す
かかる行為は家住期の 家長だけしか出来ぬこと
森に入りし行者には 決して出来ぬことなりき









375

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



pitr-devarsi-martyânâm
bhûtânâm âtmanas ca ha
ksemyam vadanti saranam
bhave 'smin yad grhâsramah
25-40




家住期に在る家長こそ 物質界の繁栄を
一手いってにない 養成し 祖先 半神そしてまた
リシや人間 造物を 保護する者と人は言う







kâ nâma vîra vikhyâtam
vadânyam priya-darsanam
na vrnîta priyam prâptam
mâdrsî tvâdrsam patim
25-41




ああ勇敢な英雄よ 寛大にして美しく
名声高き御身様おみさまを わらわの如き適齢の
おみな如何いかつまとして 迎えぬことがありましょう?







kasyâ manas te bhuvi bhogi-bhogayoh
striyâ na sajjed bhujayor mahâ-bhuja
yo 'nâtha-vargâdhim alam ghrnoddhata-
smitâvalokena caraty apohitum
25-42




強きかいな益荒男ますらおよ そのたくましき両腕に
救い求めぬ手弱女たおやめが この世に居よう筈は無し
保護する者のらぬ身の 心の苦悩 癒すため
その温情おんじょう憐憫れんびんの 微笑み浮かべ御身様おみさま
諸国を旅し あゆまれん〉〉〉










376

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



nârada uvâca
iti tau dam-patî tatra
samudya samayam mithah
tâm pravisya purîm râjan
mumudâte satam samâh
25-43





ナーラダ仙は続けらる
〈斯くの如くな経緯いきさつで 二人は夫 妻として
ちぎりを結び しかる後 その宮殿に入りたり
しかして王とその妻は 百年間の長き間を
官能の美に耽溺たんできし 喜びの日々過ごしたり





upagîyamâno lalitam
tatra tatra ca gâyakaih
krîdan parivrtah strîbhir
hradinîm âvisac chucau
25-44




彼方此方あちらこちら歌人うたびとに 優美な声で賛美され
妻や女性にょしょうに囲まれて たわむれ 遊びきょうじたり
灼熱しゃくねつの日は河に入り 水遊びして過ごされり






saptopari krtâ dvârah
puras tasyâs tu dve adhah
prthag-visaya-gaty-artham
tasyâm yah kascanesvarah
25-45




この都では支配者や その他の者が城外へ
出かける時は上に在る 七か所の門 そしてまた
下に造らる二個の門 これら九つ ある門を
通りて処々に 出かけらる











377

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



panca dvâras tu paurastyâ
daksinaikâ tathottarâ
pascime dve amûsâm te
nâmâni nrpa varnaye
25-46




この九つの門のうち 五つは東 向きており
一つは南 も一つは 北に向かいて開かれり
下の二つは西向きで 四方に向けて開かれり
吾はこれよりこの名前 詳しく説きて聞かせなん






khadyotâvirmukhî ca prâg
dvârâv ekatra nirmite
vibhrâjitam janapadam
yâti tâbhyâm dyumat-sakhah
25-47




東に向けて開きたる クハディヨーター も一つは
アーヴィルムクヒーこの二つ 同じき場所に造られり
プランジャナ王は友人の ディユマット連れて此処を出で
ヴィブフラージタという都市へ 出かけてゆくが 常なりき







nalinî nâlinî ca prâg
dvârâv ekatra nirmite
avadhûta-sakhas tâbhyâm
visayam yâti saurabham
25-48




東方に向くナリニーと ナーニリーとの塔門は
隣り合わせに建てられり アヴァドゥータという友と
これ等の門を通り抜け サウラバァという名の街へ
夜ごと日毎ひごとに出かけらる










378

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



mukhyâ nâma purastâd dvâs
tayâpana-bahûdanau
visayau yâti pura-râd
rasajna-vipanânvitah
25-49




東に向かう五番目は ムクヤーの名で呼ばれたり
プランジャナ王は友人の ラサジュナ ヴィパナ伴いて
この東門を通り抜け バフーダナとかアーパナの
町へと出かけられしなり




pitrhûr nrpa puryâ dvâr
daksinena puranjanah
râstram daksina-pancâlam
yâti srutadharânvitah
25-50




南に開く塔門は ピトリフーなる名で呼ばれ
プランジャナ王は友人の シュルタダラ等を連れ出して
南の領地パンチャーラ 目指して旅に出ることも…




devahûr nâma puryâ dvâ
uttarena puranjanah
râstram uttara-pancâlam
yâti srutadharânvitah
25-51




都の北に在る門は デーヴァフーとて呼ばわれて
シルタダラなる友人と プランジャナ王 連れ立ちて
この門通り 北方の パンチャーラへも出かけたり





âsurî nâma pascâd dvâs
tayâ yâti puranjanah
grâmakam nâma visayam
durmadena samanvitah
25-52




西方せいほうにある門の名は アースリーとて呼ばわれる
プランジャナ王 友人の ドゥルマダなる者を連れ
グラーマという感官の 歓楽街へ出かけたり





379

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



nirrtir nâma pascâd dvâs
tayâ yâti puranjanah
vaisasam nâma visayam
lubdhakena samanvitah
25-53




西方にある二つ目は ニルリティなる門なりき
プランジャナ王は友人の ルブダカという男性と
歓楽街のヴァイシャサに この門通り出かけたり







andhâv amîsâm paurânâm
nirvâk-pesaskrtâv ubhau
aksanvatâm adhipatis
tâbhyâm yâti karoti ca
25-54




目のおぼろなる(無知蒙昧)住民の ペーシャスクリタ ニルヴァーク
この両人はサイコロの 賭博とばくけた達人たつじん
快楽しむプランジャナ この両人を引き連れて
賭博行為にふけりたり







sa yarhy antahpura-gato
visûcîna-samanvitah
moham prasâdam harsam vâ
yâti jâyâtmajodbhavam
25-55




心を込めて取り仕切る 執事を連れて後宮こうきゅう
入りし時のプランジャナ 妻や子供に取り巻かれ
迷妄の闇 幻影げんえいに 深く閉ざされ 自堕落な
快楽の日々 送りたり










380

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる



evam karmasu samsaktah
kâmâtmâ vancito 'budhah
mahisî yad yad îheta
tat tad evânvavartata
25-56




斯くの如くに快楽に 惑溺わくできしたるプランジャナ
暗愚あんぐな王になり果てて 王妃が好むことのみを
王妃とともに楽しみて 妃の一顰いちびん一笑いっしょう
合わせる仕儀しぎと成りにけり



25-57・58・59・60・61
kvacit pibantyâm pibati
madirâm mada-vihvalah
asnantyâm kvacid asnâti
jaksatyâm saha jaksiti
 
kvacid gâyati gâyantyâm
rudatyâm rudati kvacit
kvacid dhasantyâm hasati
jaipantyâm anu jalpati
 
kvacid dhâvati dhâvantyâm
tisthantyâm anu tisthati
anu sete sayânâyâm
anvâste kvacid âsatîm
 
kvacic chrnoti srnvantyâm
pasyantyâm anu pasyati
kvacij jighrati jighrantyâm
sprsantyâm sprsati kvacit
 
kvacic ca socatîm jâyâm
anu socati dînavat
anu hrsyati hrsyantyâm
muditâm anu modate














王妃が酒を飲むときは 王も共々酒を飲み
れて愛 求め合い 色情に燃え陶酔す
彼女が食をる時は 王も同じく食を摂り
王妃が咀嚼そしゃくする時は 王も共々咀嚼せり

妻が歌えば彼もまた 共に歌いて楽しめり
王妃が嘆き悲しめば 彼も嘆きて共に泣き
妻が笑えばその時は 彼も同じく笑いたり





381

二十五章 ナーラダ仙(プラーチーナバリ国王に)昔話を聞かせる

王妃がしゃべり始めると 王も口数くちかず多くなり
妻が散歩に出かけると 夫も共に歩きたり
が立ちどまたたずめば 王もまりて動かざり

妻がベッドで寝そべれば 彼もベッドに横になり
妻が座っているならば 夫もそこにせるなり
王妃が何か聴いたなば 王もまたそれ聴かんとし
妻が何かに見入るなば 夫もそれを見なんとす

彼女がこうくときは 彼もそのを聞かんとし
妻が何かに手を触れて その感触を楽しめば
夫もそれに触れてみて その感触を楽しめり
貧しき人を妻が見て 嘆けばつまもともに
王妃が喜び感じれば 王も喜び 感動し
妻が満足したならば 夫も共にたされり





vipralabdho mahisyaivam
sarva-prakrti-vancitah
necchann anukaroty ajnah
klaibyât krîdâ--mrgo yathâ
25-62




斯くの如くに王妃にて 幻惑されし国王は
おのが本質忘れ果て 自分自身の意思もなく
妃の操れる人形と なりし愚昧ぐまいなプランジャナ
去勢きょせいされたる愛玩あいがんの ペットの如きさまなりき〉






第二十五章 終了






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