二十三章 プリトゥ王の帰融

第二十三章【プリトゥ王の帰融】

maitreya uvâca
drstvâtmânam pravayasam
ekadâ vainya âtmavân
âtmanâ vardhitâsesa-
svânusargah prajâpatih
 
jagatas tasthusas câpi
vrttido dharma-bhrt satâm
nispâditesvarâdeso
yad-artham iha jajnivân
 
âtmajesv âtmajâm nyasya
virahâd rudatîm iva
prajâsu vimanahsv ekah
sa-dâro 'gât tapo-vanam
23-1・2・3





















マイトレーヤは述べられり
「勝れし王者プリトゥは 民草たみくさ護り 育て上げ
国を繁栄させるのを 本分ほんぶんと自覚して
おのれ自身を抑制し 唯一筋ただひとすじに努力さる

生きるすべてに食与え 民には職業 住宅を
与えて安定はかられり 法を維持してプリトゥは
御主みすが意図さる多様化を この三界に顕現し
主の御心に沿わんとて 一意専心励まれり

然りし時に大王は ふと!おのが身の衰えに
気付きて遊行(四住期の最終・遊行期) 決意さる
王は息子にこの国を 託して妻と唯二人
常世とこよさとを目指すため 苦行林(修行のための庵)へと旅立たる
民は王との決別を 泣きてしみつ 見送りぬ












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二十三章 プリトゥ王の帰融




tatrâpy adâbhya-niyamo
vaikhânasa-susammate
ârabdha ugra-tapasi
yathâ sva-vijaye purâ
23-4




苦行林での厳格な 隠遁者いんとんしゃ等が守るべき
諸規制により修行さる プリトゥ王はその昔
世界制覇をする前に 厳しき苦行為されたり







kanda-mûla-phalâharah
suska-parnâsanah kvacit
ab-bhaksah katicit paksân
vâyu-bhaksas tatah param
23-5




彼が食する食べ物は 木の根 球根 果物や
きんまの葉とか 乾きし葉 半月ばかり水だけを
僅かに飲みて過ごされり しかりし後にプリトゥは
空気を食べて生きられり(断食状態)






grîsme panca-tapâ vîro
varsâsv âsârasân munih
âkantha-magnah sisire
udake sthandile-sayah
23-6




夏季には五火ごか(四方からの熱と上からの太陽の熱)に身をさら
雨季には豪雨 身に浴びて 首まで水に浸されり
寒冷期にも水垢離みずごりし 夜は聖者がするごとく
凍土とうどじかに 眠られり










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二十三章 プリトゥ王の帰融




titiksur yata-vâg dânta
ûrdhva-retâ jitânilah
ârirâdhayisuh krsnam
acarat tapa uttamam
23-7




プリトゥ王は感官を 強く制して沈黙し
禁欲の行 遵守して 生気を制御なされたり
唯ひたすらにクリシュナに 思いを向けて称名し
主の喜びを得る為に 行い難き苦行さる







tena kramânusiddhena
dhvasta-karma-malâsayah
prânâyâmaih sanniruddha-
sad-vargas chinna-bandhanah
23-8




彼の厳しき苦行にて 次第にカルマ薄れゆき
止息しそくのヨーガすることで 心と五感 そのすべて
深部の罪にいたるまで 全て解かれて消え失せり






sanat-kumâro bhagavân
yad âhâdhyâtmikam param
yogam tenaiva purusam
abhajat purusarsabhah
23-9




人々のゆう プリトゥは サナトクマーラ神仙に
教えられたる強力な 玄妙な知恵 体得し
そを忠実に修行して 人間界で最高の
高みに立つを成し遂げり










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二十三章 プリトゥ王の帰融




bhagavad-dharminah sâdhoh
sraddhayâ yatatah sadâ
bhaktir bhagavati brahmany
ananya-visayâbhavat
23-10




有徳の帰依者プリトゥは 一意専心いちいせんしん御奉仕し
根源主なるクリシュナに 深き崇拝捧げらる






tasyânayâ bhagavatah parikarma-suddha-
sattvâtmanas tad-anusamsmaranânupûrtyâ
jnânam viraktimad abhûn nisitena yena
ciccheda samsaya-padam nija jîva-kosam
23-11




プリトゥ王は至高者を 常に称名 崇拝し
超絶的な純化享け マナスをサットヴァで満たされり
聖知奉戴ほうたいすることで 執着心を焼き捨てて
純な心に住みたもう 御主みすへの帰一きいつ 願いたり
而して個魂 包み込む 肉の器のきずなから
解き離たれて完全に 個我の姿に戻るべし






chinnânya-dhîr adhigatâtma-gatir nirîhas
tat tatyaje 'cchinad idam vayunena yena
tâvan na yoga-gatibhir yatir apramatto
yâvad gadâgraja-kathâsu ratim na kuryât
23-12




は肉体にあらず〕との 不動のしんを得た彼は
あらゆる欲を捨て去りて 合一目指すヨーガでも
俗世の法も叡智さえ 彼にはすでに無縁なり
彼が望むは唯一の 主の神譚の聴聞ぞ









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二十三章 プリトゥ王の帰融




evam sa vîra-pravarah
samyojyâtmânam âtmani
brahma-bhûto drdham kâle
tatyâja svam kalevaram
23-13




卓越したる英雄の なかで白眉はくびのプリトゥは
気息をいつに集中し 根源主なる至高者に
帰融する時 来たるのを 心静かに待ちうけり






sampîdya pâyum pârsnibhyâm
vâyum utsârayan chanaih
nâbhyâm kosthesv avasthâpya
hrd-urah-kantha-sîrsani
23-14




かかとによりて肛門を しかと押さえてその後に
気息いきととのえゆっくりと 上方に向け押し出すと
ほぞを通りて心臓に しばし留めてのどに上げ
やがて頭部とうぶに至りたり






utsarpayams tu tam mûrdhni
kramenâvesya nihsprhah
vâyum vâyau ksitau kâyam
tejas tejasy ayûyujat
23-15




斯くなる後に大王は そを肉体を構成す
五大元素に順序よく 浸透させて からみたる
物質欲を解き放ち 〔ふう〕を宇宙に拡散し
身体からだの中の〔〕要素を 宇宙に燃える〔〕要素に
混合させて同化どうかさす









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二十三章 プリトゥ王の帰融




khâny âkâse dravam toye
yathâ-sthânam vibhâgasah
ksitim ambhasi tat tejasy
ado vâyau nabhasy amum
23-16




感覚器官〔エーテル(空)〕に 体液すべて〔すい〕のなか
相応ふさわしき場に分け入れり
五大元素の〔地〕を〔水〕に そして〔〕に入れ
ふう〕要素 やがて〔くう〕へと戻したり





indriyesu manas tâni
tan-mâtresu yathodbhavam
bhûtâdinâmûny utkrsya
mahaty âtmani sandadhe
23-17




然りし後に大王は 内部器官の一つなる
〔心〕五感に戻したり やがてそれらを造りたる
五大元素に引き上ぐと 三つのグナのもといなる
アハンカーラに引き上げて 初の具象化 タットヴァ(宇宙卵)
〔気息〕を同化 なされたり




tam sarva-guna-vinyâsam
jîve mâyâmaye nyadhât
tam cânusayam âtma-stham
asâv anusayî pumân
jnâna-vairâgya-vîrye na
svarûpa-stho 'jahât prabhuh
23-18







斯くて御主のマーヤーで 創造されし肉体を
智慧と勇気と離欲にて 消滅させし大王は
根源主なる主の分かれ 分魂(個我)として蘇えり











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二十三章 プリトゥ王の帰融




arcir nâma mahâ-râjnî
tat-patny anugatâ vanam
sukumâry atad-arhâ ca
yat-padbhyâm sparsanam bhuvah
23-19




プリトゥ王の妻アルチ 軟弱にして優美なり
王妃としての運命さだめとて 経験したることもなき
素足で土を踏みながら 共に森へと入られり






atîva bhartur vrata-dharma-nisthayâ
susrûsayâ cârsa-deha-yâtrayâ
nâvindatârtim parikarsitâpi sâ
preyaskara-sparsana-mâna-nirvrtih
23-20




夫の苦行専一せんいつの 態度に倣い 従いて
リシと変わらぬ食をり いおりに暮らすアルチ妃は
常に夫と共にみ 共に修行に明け暮れる
この寂静の生活が まこと楽しく嬉しくて
心満たされ充実し 身の衰えはいとわざり





deham vipannâkhila-cetanâdikam
patyuh prthivyâ dayitasya câtmanah
âlaksya kincic ca vilapya sâ satî
citâm athâropayad adri-sânuni
23-21




世界をおさむ王であり 王妃の務め気遣いて
深き愛にて包みこみ 常に優しきわがつま
空蝉うつせみのごと 肉体を 脱ぎて〔至福〕に至りしに
気付きて王妃 驚けど すぐに彼女は立ち直り
小高き丘のいただきに まきを組み立てを造り
少し小さくなりたか?の 夫の身体からだ 横たえり








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二十三章 プリトゥ王の帰融

  
  

vidhâya krtyam hradinî jalâplutâ
dattvodakam bhartur udâra-karmanah
natvâ divi-sthâms tridasâms trih parîtya
vivesa vahnim dhyâyatî bhartr-pâdau
23-22




為すべき儀式終えし後 川の水にて沐浴し
おっとの偉業 讃えつつ 両手でけし聖水を
捧げて供養行いぬ そしてそれらを見届けし
三千人の神々に 深く一礼したるのち
炉辺ろへんを右に三廻みまわりし 夫の御足みあし思いつつ
燃える葬火そうかに入りたり






vilokyânugatâm sâdhvîm
prthum vîra-varam patim
tustuvur varadâ devair
deva-patnyah sahasrasah
23-23




偉大な覇王はおうプリトゥの 貞淑ていしゅくな妻アルチ妃が
夫にじゅんじ火にるを 見たる多くの神々や
その妻たちは感嘆し 嵐の如き祝福を
王妃に向けて投げかけり





kurvatyah kusumâsâram
tasmin mandara-sânuni
nadatsv amara-tûryesu
grnanti sma parasparam
23-24




マンダラ山の頂上うえからは 花の吹雪が舞い散りて
神々たちが打ち鳴らす 楽器の響き とどろきぬ
神や婦人はお互いに 興奮したる面持おももち
王妃の行為 めそやす







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二十三章 プリトゥ王の帰融




devya ûcuh
aho iyam vadhûr dhanyâ
yâ caivam bhû-bhujâm patim
sarvâtmanâ patim bheje
yajnesam srîr vadhûr iva
23-25





神の妻等は言いしなり
〈おおなんという見事さよ 御主の妻のラクシュミーが
夫に尽くすさまのごと 王の中でも最高の
傑出したるわがつま
すべてを理解 崇拝し 身をじゅんじたに 相違なし




saisâ nûnam vrajaty ûrdhvam
anu vainyam patim satî
pasyatâsmân atîtyârcir
durvibhâvyena karmanâ
23-26




おおごろうじろ プリトゥの 御跡みあと慕いしアルチ妃が
妾等われらを越して天上へ 昇りゆく…あの 華麗さを!
行い難き殉葬じゅんそうを せし彼女の貞節ていせつ
御主みすの喜び 得たるらん




tesâm durâpam kim tv anyan
martyânam bhagavat-padam
bhuvi lokâyuso ye vai
naiskarmyam sâdhayanty uta
23-27




死ぬる運命さだめの人類が 不老不死ふろうふしなる天国(ヴァイクンタ)
だれしも“う”は当たり前 然れど成就じょうじゅ 為し難く
瞬くうちに時 流れ 輪廻りんねふちに落ちるなり













332

二十三章 プリトゥ王の帰融




sa vancito batâtma-dhruk
krcchrena mahatâ bhuvi
labdhvâpavargyam mânusyam
visayesu visajjate
23-28




憐れなるかな人類よ 偉大な神の分魂の
おのれ自身を忘れ果て 市井しせいに在りて離欲をし
おこない難き苦行して 本質を知り解脱する
この絶好の人生を 感覚のみに気を取られ
むざむざのがす者たちは 王妃アルチをならうべし〉」




maitreya uvâca
stuvatîsv amara-strîsu
pati-lokam gatâ vadhûh
yam vâ âtma-vidâm dhuryo
vainyah prâpâcyutâsrayah
23-29






マイトレーヤは続けらる
「神々達の夫人等が 斯くの如くに誉めそやし
見守るなかをアルチ妃は 最高我なるクリシュナが
永久とわします理想郷 愛して止まぬ わがつま
到着したるうまさと ヴァイクンタなる楽園に
ついに到達いたしなり




ittham-bhûtânubhâvo 'sau
prthuh sa bhagavattamah
kîrtitam tasya caritam
uddâma-caritasya te
23-30




斯くの如くに強大な 力と品位持つ彼は
最高原主クリシュナを 深く崇拝することで
ついに解脱に至りたり 主に祝福を戴きし
プリトゥ王のそのすべて 今や仔細しさいに語りたり









333

二十三章 プリトゥ王の帰融




ya idam sumahat punyam
sraddhayâvahitah pathet
srâvayec chrnuyâd vâpi
sa prthoh padavîm iyât
23-31




この崇高で偉大なる 帰依心深き大王の
解脱に至る物語 心 鎮めて朗誦し
しかしてそれを聴く者は 王の辿たどりし道程どうてい
通りてついに解脱へと 到達するは定かなり




brâhmano brahma-varcasvî
râjanyo jagatî-patih
vaisyah pathan vit-patih syâc
chûdrah sattamatâm iyât
23-32




主の恩寵をち得たる プリトゥ王の業績を
踏襲とうしゅうしたるバラモンは 聖なる叡智えいち 獲得し
クシャトリヤなる階級は 偉大な王となりぬべし
再生族の下位なれど バイシャはたみおさとなり
労働者なるシュードラは 帰依献身のかがみなり





trih krtva idam âkarnya
naro nâry athavâdrtâ
aprajah suprajatamo
nirdhano dhanavattamah
23-33




プリトゥ王のこの説話
男女を問わず成人が 三度みたび 敬して聴くならば
子無きを嘆く既婚者が 良き子 沢山恵まれて
困窮したる生活は 富者ふしゃ 随一の暮らし向き











334

二十三章 プリトゥ王の帰融




aspasta-kîrtih suyasâ
mûrkho bhavati panditah
idam svasty-ayanam pumsâm
amangalya-nivâranam
23-34




人に知られることも無き 無名の者が有名に
愚鈍な者が英名に 斯くの如くに人間の
資質がすべて向上し 幸運そして成功が
思いのままに訪れん




dhanyam yasasyam âyusyam
svargyam kali-malâpaham
dharmârtha-kâma-moksânâm
samyak siddhim abhîpsubhih
sraddhayaitad anusrâvyam
caturnâm kâranam param
23-35







富をもたらし名を高め 長寿を与え 天界へ
上昇させてカリの世の 不浄を清め 徳積ませ
快楽求む欲求を 徹底的に捨離させて
人世ひとよに生きる目的の ダルマ アルタにカーマを得
更にモクシャを希求する 人間たちの渇望を
この物語聴くことで 必ず成就させるらん





vijayâbhimukho râja
srutvaitad abhiyâti yân
balim tasmai haranty agre
râjânah prthave yathâ
23-36




世界制覇を目論もくろみて いざ出陣!の帝王が
この物語 聴くならば 征服出来ぬ 王は無し
彼等はかつて王達が プリトゥ王に敗北し
こぞりて貢献した如く プリトゥカター(物語)学びたる
覇王はおうみつぎ 捧げんと 戦車の前に並ぶらん







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二十三章 プリトゥ王の帰融




muktânya-sango bhagavaty
amalâm bhaktim udvahan
vainyasya caritam punyam
srnuyâc chrâvayet pathet
23-37




無垢で純なるプリトゥ王 最高神に献身し
深く帰依することにより この世の穢れ消滅し
ついに御主おんしゅに帰融せり 故に輪廻を超えたくば
敬虔にして高徳の 王の行跡ぎょうせき よく学び
讃えて朗誦ろうじゅ するべけれ





vaicitravîryâbhihitam
mahan-mâhâtmya-sûcakam
asmin krtam atimartyam
pârthavîm gatim âpnuyât
23-38




おおヴィドゥラよ 御身おんみから 請われし王の物語
今やすべてを語りたり 稀有で非凡な大王に
ならいて御跡みあと 追随し 一意専心 ぎょうずれば
必ず王の境域に 到達するは定かなり





anudinam idam âdarena srnvan
prthu-caritam prathayan vimukta-sangah
bhagavati bhava-sindhu-pota-pâde
sa ca nipunâm labhate ratim manusyah
23-39




如何なる人も常日頃 この大王の物語
清き心で拝聴し 人にも説いて聴かすなば
穢れ 執着全て消え 輪廻の海を超えてゆく
唯一ゆいつの船の主の御足みあし 必ず見出みだし 救われん」




第二十三章 終了



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