二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く

第二十二章【神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く】

maitreya uvâca
janesu pragrnatsv evam
prthum prthula-vikramam
tatropajagmur munayas
catvârah sûrya-varcasah
22-1





マイトレーヤは述べられり
「プリトゥ王が民草たみくさの 幸を祈りしその時に
思いがけなき四人よったりの 客が訪問なされたり
太陽のごと輝ける この客人きゃくじんを見た刹那せつな
“サナトクマーラ兄弟”と 王はすぐさまさとりたり




tâms tu siddhesvarân râjâ
vyomno 'vatarato 'rcisâ
lokân apâpân kurvânân
sânugo 'casta laksitân
22-2




シッダを始め幻力げんりょくを 持つおさ そして憧憬者どうけいしゃ
天からくだ四聖者しせいじゃの まばゆき光 見しことで
世界純化の智覚者と 認めて歓喜したるなり




tad-darsanodgatân prânân
pratyâditsur ivotthitah
sa-sadasyânugo vainya
indriyeso gunân iva
22-3




四人よたりの聖者見ることで 感官そして活力(三グナ)
吸い込まるかと思う程 浄化力じょうかの強き四兄弟しきょうだい
プリトゥ王は従者とか 信者 将校 役員の
者等と共に起立して 大地をしかと踏みしめり










303

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


gauravâd yantritah sabhyah
prasrayânata-kandharah
vidhivat pûjayâm cakre
grhîtâdhyarhanâsanân
22-4




栄光極む神仙に プリトゥ王は慇懃いんぎん
定められたるのりに添い 身を伏せこうべ深く垂れ
尊崇そんすうの意を示されり 心を込めて丁重ていちょう
ほうに従い最上の 席に御着座ごちゃくざ お勧めし
不敬無きよう配慮して サナカ兄弟 もてなせり





tat-pâda-sa uca-salilair
mârjitâlaka-bandhanah
tatra sîlavatâm vrttam
âcaran mânayann iva
22-5




博識はくしきにして有徳者の 行為にならい国王は
聖なる仙が御足おみあしを 洗いし水を頭頂とうちょう
幾度いくたびとなく振りかけて 四仙しせん(サナカ兄弟)に敬意 あらわさる





hâtakâsana âsînân
sva-dhisnyesv iva pâvakân
sraddhâ-samyama-samyuktah
prîtah prâha bhavâgrajân
22-6




シヴァ御神おんかみ兄者等あにじゃらが 金の玉座に着かれると
祭火のごとき浄光じょうこうが 辺り一面照らしたり
御主おんしゅに帰依し献身す 感官超えしプリトゥ王
喜悦に満ちて斯くのごと 四仙しせんに向かい語りたり













304

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


prthur uvâca
aho âcaritam kim me
mangalam mangalâyanâh
yasya vo darsanam hy âsîd
durdarsânâm ca yogibhih
22-7





プリトゥ王は語りたり
〈おお神仙よ 現身うつしみを 持つ者たちの憧憬者どうけいしゃ
偉大なヨーガ行者でも まこと謁見えっけん出来難き
幸や栄誉の化身なる 御身様方が何故に
斯くの如くに我が前に 到着なされ給いしや





kim tasya durlabhataram
iha loke paratra ca
yasya viprâh prasîdanti
sivo visnus ca sânugah
22-8




常世とこよに在らる至上主や お出会い難き神仙に
謁見えっけん出來しこの吾は まこと稀有けうなる幸福者
幾度輪廻の旅しても 叶わぬ幸を戴きぬ





naiva laksayate loko
lokân paryatato 'pi yân
yathâ sarva-drsam sarva
âtmânam ye 'sya hetavah
22-9




肉のうつわを持つ吾等われら マハト(宇宙卵)が持ちし三グナで
具象化されし物(被造物)以外 目で見ることは あたわざり
ゆえに吾々肉の目は 無因 非具象 根源の
御主おんしゅの姿 見られざり
しかれど個我(ジーヴァ)は至上主の 分魂ゆえに本来の
サットヴァな魂となるならば 御主も仙も見らるなり










305

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


adhanâ api te dhanyâh
sâdhavo grha-medhinah
yad-grhâ hy arha-varyâmbu-
trna-bhûmîsvarâvarâh
22-10




家長 下僕げぼくが住むだけの 貧しき家であろうとも
土間どまにクシャ草敷きつめて 聖者の如き暮らしをし
清き水にて最善の 家庭祭儀を怠らぬ
家長を崇め奉仕する 下僕であれどたましい
きよらであらば叶うなり





vyâlâlaya-drumâ vai tesv
ariktâkhila-sampadah
yad-grhâs tîrtha-pâdîya-
pâdatîrtha-vivarjitâh
22-11




いかに富裕ふゆうな 屋敷とて
聖仙方の御足おみあしを 洗いし水で清めずば
人に害毒蛇どくへびを 樹木じゅもくに隠す家のごと
幸あるていと ならぬなり





svâgatam vo dvija-sresthâ
yad-vratâni mumuksavah
caranti sraddhayâ dhîrâ
bâlâ eva brhanti ca
22-12




ブラーフマナの最高者 御身様方おみさまがたのご来訪らいほう
歓喜に堪えぬ想いなり 御主おんしゅに苦行誓言せいげん
解脱への道<示さん>と 若き身空みそらでありながら
日夜厳しく精進す 御身様方に満腔まんこうの 深き敬意をたてまつ












306

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


kaccin nah kusalam nâthâ
indriyârthârtha-vedinâm
vyasanâvâpa etasmin
patitânâm sva-karmabhih
22-13




おお至上主よ 吾々は 主のマーヤーにあやつられ
感覚のみを追い求め そを満たすのが幸福と
砂上さじょうやかた 求めたり これら誤謬ごびゅうの行為から
得られしものはわざわいや 不幸 病の種ばかり
無明のうずに 巻きこまれ 輪廻の旅を続けたり






bhavatsu kusala-prasna
âtmârâmesu nesyate
kusalâkusalâ yatra
na santi mati-vrttayah
22-14




御身様方おみさまがたならわしの
問訊もんじん〕の礼(安否を訊ねる礼法)致すまじ
最高峰の神仙に 幸も不幸もらちのほか
至上主のみに専注し 俗にきょう無きひじりゆえ






tad aham krta-visrambhah
suhrdo vas tapasvinâm
samprcche bhava etasmin
ksemah kenânjasâ bhavet
22-15




それゆえ吾は聖者等が 如何いかな苦行を為したまい
このおぞましき俗の世を 超越なされ 究極の
界に到達なされしや? <御教授あれ>とひたすらに
伏して懇願奉る









307

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


vyaktam âtmavatâm âtmâ
bhagavân âtma-bhâvanah
svânâm anugrahâyemâm
siddha-rûpî caraty ajah
22-16




おの生命いのちの根源主 至高の神は常日頃
個魂の質の向上を 照覧者とて注視され
覚者かくしゃの姿 採りながら 帰依する者を導かる
この偉大なる至高者の 真理を聴かせ賜れ〉と」






maitreya uvâca
prthos tat sûktam âkarnya
sâram susthu mitam madhu
smayamâna iva prîtyâ
kumârah pratyuvâca ha
22-17





マイトレーヤは続けらる
「主の本質を流麗りゅうれいに プリトゥ王が讃えると
そを聴き終えし神仙(サナトクマーラ)
優しく笑みて斯くの事 御満足気ごまんぞくげに語られり






sanat-kumâra uvâca
sâdhu prstam mahârâja
sarva-bhûta-hitâtmanâ
bhavatâ vidusâ câpi
sâdhûnâm matir îdrsî
22-18





サナトクマーラ述べられり
〈おお有徳なる大王よ 良き質問を為されたり
そなたは かなり博学で 被造されたる生物の
繁栄祈る者であり 知性高くて純粋な
気高き王と お見受けす









308

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


sangamah khalu sâdhûnâm
ubhayesâm ca sammatah
yat-sambhâsana-samprasnah
sarvesâm vitanoti sam
22-19




国を治むる国王の おそば近くに純粋な
帰依者はべらせ論ずるは まこと意義ある学びなり
それらは宇宙全体を 価値あるものと見届けて
大なる結果 もたららさん





asty eva râjan bhavato madhudvisah
pâdâravindasya gunânuvâdane
ratir durâpâ vidhunoti naisthikî
kâmam kasâyam malam antar-âtmanah
22-20




おお大王よ 御身達おみたちが 蓮華の御足みあし賛美して
心の拠り処 得たるなら 固く心に付着した
快楽求む欲求や 穢れし想い 消え失せて
行き着き難き最高の 境地を得るは必定ひつじょう





sâstresv iyân eva suniscito nrnâm
ksemasya sadhryag-vimrsesu hetuh
asanga âtma-vyatirikta âtmani
drdhâ ratir brahmani nirgune ca yâ
22-21




祝詞のりとによりて伝えらる この聖典は唯一ゆいいつ
究極のさち る為に 確立されし人類の
完全にして無欠なる 無窮むきゅうのりに他ならじ
この俗の世に捉われず こん肉体にくとの真髄を
叡智によりて識別し 最高我なる至上主に
赤心捧げ 無因なる 御主おんしゅ讃えて謳うべし










309

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


sâ sraddhaya bhagavad-dharma-caryayâ
jijnâ-sayâdhyâtmika-yoga-nisthayâ
yogesvaropâsanayâ ca nityam
punya-sravah-kathayâ punyayâ ca
22-22




御主おんしゅに強き信を置き 献身奉仕 そしてまた
ダルマののりを遵守して 真理 探究すべきなり
至高の御主みすを崇敬し 内部(フリダヤ)の声を良く聴きて
吉兆 有徳の物語 更に詳しく敬虔に 常に聴聞すべきなり






arthendriyârâma-sagosthy-atrsnayâ
tat-sammatânâm aparigrahena ca
vivikta-rucyâ paritosa âtmani
vinâ harer guna-pîyûsa-pânât
22-23




富や感覚喜ばず それらにおぼる友を断ち
根本原主クリシュナの 蓮華の御足みあし 拠り処とし
不死の甘露の味わいを が最高の幸福と
サットヴァのみを希求する 斯かるおのれ目途もくと とす






ahimsayâ pâramahamsya-caryayâ
smrtyâ mukundâcaritâgrya-sîdhunâ
yamair akâmair niyamais câpy anindayâ
nirîhayâ dvandva-titiksayâ ca
22-24




非暴力とか不殺生ふせっしょう 優しき態度 むねとして
先哲達せんてつたち轍踏わだちふみ クリシュナカター(物語)想起して
その美酒うましざけ 味わいつ
のりの規制を遵守して 欲を離れて生活し
寛容にしてよく耐えて 質素な暮らし 受容する









310

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


harer muhus tatpara-karna-pûra-
gunâbhidhânena vijrmbhamânayâ
bhaktyâ hy asangah sad-asaty anâtmani
syân nirgune brahmani cânjasâ ratih
22-25




クリシュナ神の御名おんみなを 絶えず唱えて耳 満たし
卓越したる本質を 胸裏に浸透させるなば
真と非真の識別や 神への信が深まりて
帰依 献身を体得し 意識の浄化進むらん






yadâ ratir brahmani naisthikî pumân
âcâryavân jnâna-virâga-ramhasâ
dahaty avîryam hrdayam jîva-kosam
pancâtmakam yonim ivotthito 'gnih
22-26




不変の帰依を確立し 解脱に近き大師だいし(バラモン)より
叡智や真理 習得し 俗への離欲 げしなば
火がみなもと(火は木に内在する)を燃やすごと 個魂はおのが器なる
五大元素や十器官(インドリヤ) やがてこれらを焼き尽くす






dagdhâsayo mukta-samasta-tad-guno
naivâtmano bahir antar vicaste
parâtmanor yad-vyavadhânam purastât
svapne yathâ purusas tad-vinâse
22-27




三つのグナが混合し 造り出されし此の世界
これらのすべて焼尽しょうじんし 解放されし霊魂(ジーヴァ・個魂)
さながら夢が覚めしごと 俗世 瞬時に消え失せて
プラクリティ(根本原質)とプルシャ(純粋意識)から 創造されし宇宙卵
産みしおやなる至上主の その胎内たいないに帰融する









311

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


âtmânam indriyârtham ca
param yad ubhayor api
saty âsaya upâdhau vai
pumân pasyati nânyadâ
22-28




この世に在りし霊魂は 器としての肉体が
感覚 刺激求むのを 拒むはまこと 至難なり
偉大な御主みすの分魂の は肉体にあらず!との
自覚を常に持つ他に のがる手立ては無かりけり






nimitte sati sarvatra
jalâdâv api pûrusah
âtmanas ca parasyâpi
bhidâm pasyati nânyadâ
22-29




自分とほかの肉体と 如何に区別が出来るのか
水や鏡を媒体ばいたいに うつるを見るに ほかに無し






indriyair visayâkrstair
âksiptam dhyâyatâm manah
cetanâm harate buddheh
stambas toyam iva hradât-
22-30




感覚によりジーヴァが その対象に魅かれると
心の平和 破られる 叡智に満ちるの水を
幾度<欲しや>と望んでも 麦わら帽で汲むごとく
聖なる叡智 寂静が 心に満ちることはなし














312

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


bhrasyaty anusmrtis cittam
jnâna-bhramsah smrti-ksaye
tad-rodham kavayah prâhur
âtmâpahnavam âtmanah
22-31




個魂の意識 枯渇して 追憶のみで生きるなば
叡智はやがて喪失し 個我の自覚は消え失せん
偉大な聖者 学者らは 御主みすの分かれの霊魂が
自覚失い消滅の き目を見るは御主おんしゅへの
不敬 無品むぼんと認定し 如何いかにやせん?と思案さる





nâtah parataro loke
pumsah svârtha-vyatikramah
yad-adhy anyasya preyastvam
âtmanah sva-vyatikramât
22-32




この世に生きる者とては 自分自身のとがにより
主より拝戴はいたいいたしたる この分魂の消滅は
不敬の極み そして又 許されざりし不覚なり






arthendriyârthâbhidhyânam
sarvârthâpahnavo nrnâm
bhramsito jnâna-vijnânâd
yenâvisati mukhyatâm
22-33




富や感覚満足の 事のみ常に考えて
解脱をはばむ行為する 市井しせいに生きる人々は
知識 識別奪われて 主への奉仕を忘れ去る
斯かる行為が不変なる 個我なる吾の本質を
忘却の瀬に投げ込みて 有限の身(必ず死ぬ者)に堕落する











313

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


na kuryât karhicit sangam
tamas tîvram titîrisuh
dharmârtha-kâma-moksânâm
yad atyanta-vighâtakam
22-34




故に個魂の本質を 活かさんとする有徳者は
が人生の目的(モクシャ・解脱)を はばむ者との交際や
無智なる者とえにし 断ち
ダルマののり遵奉じゅんぽうし 神への奉仕いたすべし






tatrâpi moksa evârtha
âtyantikatayesyate
traivargyo 'rtho yato nityam
krtânta-bhaya-samyutah
22-35




個魂が目途もくと 果たすには 採るべき道は四種あり
〔ダルマ〕規範に示されし のりに従い〔財(アルタ)〕を得て
子孫を残し せい なぎ〔カーマ〕 やがて〔解脱〕に達る道
ヤマに縁無き不畏のさと 常世とこよに至り 成就する






pare 'vare ca ye bhâvâ
guna-vyatikarâd anu
na tesâm vidyate ksemam
îsa-vidhvamsitâsisâm
22-36




スリーグナにて混合し 統合されし造物ぞうぶつ
常に不安にさらされて 安寧の無き界に住む
すべての主権持たるのは 最高界に住みたまい
生殺与奪せいさつよだつ 自在なる 卓越したる御主おんしゅのみ










314

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


tat tvam narendra jagatâm atha tasthûsâm ca
dehendriyâsu-dhisanâtmabhir âvrtânâm
yah ksetravit-tapatayâ hrdi visvag âvih
pratyak cakâsti bhagavâms tam avehi so 'smi
22-37




おお人類の長老よ 故にそなたは此の天下
不動の物とするために 自己の身体からだや 感官や
プラーナの座(気道)を浄化して 揺れる者等に語られよ
あらゆるもののフリダヤに 照覧者とて在る主こそ
光り輝く至上主で 絶対神で在られるを!



yasminn idam sad-asad-âtmatayâ vibhâti
mâyâ viveka-vidhuti sraji vâhi-buddhih
tam nitya-mukta-parisuddha-visuddha-tattvam
pratyûdha-karma-kalila-prakrtim prapadye
22-38




真と非真と善と悪 主の本質とマーヤーと
有形 無形 ねじれ合い 蛇の知性(体主霊従)誤謬ごびゅう生み
識別難きこの人世ひとよ 穢れゆくのを嘆くなば
永久とわに輝く至上主の 至純の真理 学ぶべし
御主みすを拠り処とする以外 嘆きの解けることは無し





yat-pâda-pankaja-palâsa-vilâsa-bhaktyâ
karmâsayam grathitam udgrathayanti santah
tadvan na rikta-matayo yatayo 'pi ruddha-
sroto-ganâs tam aranam bhaja vâsudevam
22-39




故にそなたは至上主の 蓮華の御足みあし 恋い慕い
献身奉仕いたすべし ヴァースデーヴァ クリシュナに
崇敬捧ぐ帰依者等は しかりてごう(カルマ)足枷あしかせ
解けて至純に満たされる
欲や不敬の暮らしから 抜けること無き者たちの
不幸 苦悩は深まりて 輪廻転生 繰り返す











315

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


krcchro mahân iha bhavârnavam aplavesâm
sad-varga-nakram asukhena titîrsanti
tat tvam harer bhagavato bhajanîyam anghrim
krtvodupam vyasanam uttara dustarârnam
22-40




全てに満ちる至上主の 蓮華の御足あしらずんば
六尾ろくびわに(心と五官)むという 物質の海 渡るのに
だいなる苦難 伴わん そなたはたかき至上主の
御足みあしの船に乗ることで あらゆる苦難 困難の
なみ 乗り越えて快速で 彼岸ひがんに着くを望まれよ〉」





maitreya uvâca
sa evam brahma-putrena
kumârenâtma-medhasâ
darsitâtma-gatih samyak
prasasyovâca tam nrpah-
22-41





マイトレーヤは述べられり
「ブラフマー神の息子にて 真理にすぐるクマーラに
斯くのごとくにさとさると プリトゥ王は慇懃いんぎん
心を込めて 称賛す





râjovâca
krto me 'nugrahah pûrvam
harinârtânukampinâ
tam âpâdayitum brahman
bhagavan yûyam âgatâh
22-42





プリトゥ王は申されり
〈おおバラモンの長老よ 苦しむ者に憐憫れんびん
なさけをかけて至上主が お説き下され 更にまた
真理よく知る最高の 神仙方を 斯くのごと
吾等の許につかわして とくと聖知を授けらる
おお身に余る恩寵よ 主と神仙に頂礼ちょうらい








316

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


nispâditas ca kârtsnyena
bhagavadbhir ghrnâlubhih
sâdhûcchistam hi me sarvam
âtmanâ saha kim dade
22-43




至高の神の御信頼ごしんらい 最も厚き神仙の
四人よたりたかき御兄弟 その有徳ゆうとくの方々の
情けにこたえ 捧ぐのは 清き個魂のほかになし
供物の残余 除きては 吾の持ちたる物すべて
泡沫うたかたのごと消えるもの






prânâ dârâh sutâ brahman
grhâs ca sa-paricchadâh
râjyam balam mahî kosa
iti sarvam niveditam
22-44




おお偉大なる神仙よ 気息や妻や 子供たち
家や調度や家具 そして 国の主権や能力や
広き領土や宝物庫ほうもつこ これらはすべて御主から
時が来たれるその日まで お預かりした物ばかり






sainâ-patyam ca râjyam ca
danda-netrtvam eva ca
sarva-lokâdhipatyam ca
veda-sâstra-vid arhati
22-45




ヴェーダ教義をよくりて 資格を得たる者のみが
軍を指揮する地位を得て 国の王権与えらる
裁判権を授かりて ダルマのほうを遵守させ
国の治安を護るなり










317

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


svam eva brâhmano bhunkte
svam vaste svam dadâti ca
tasyaivânugrahenânnam
bhunjate ksatriyâdayah
22-46




ブラーフマナが味わわれ 或いは衣服まとわれて
しかりし後に御慈愛で 御下賜ごかしされたる物のみを
クシャトリヤなど吾々が 支配す国の民草に
与えて衣食 満たさせん





yair îdrsî bhagavato gatir âtma-vâda
ekântato nigamibhih pratipâditâ nah
tusyantv adabhra-karunâh sva-krtena nityam
ko nâma tat pratikaroti vinoda-pâtram
22-47




おこない難き苦行して 常世とこよの叡智 体得し
絶対境に遊ばれる 神仙方の御慈悲にて
ヴェーダのずいに立脚し 説いて御教示下されし
[最高神の本質]を しか得心とくしんいたしたり
まこと得難きこの真理 随喜ずいきのあまり 流れ出る
この一掬いっきくの涙をば 心を込めて献ずる〉と」





maitreya uvâca
ta âtma-yoga-pataya
âdi-râjena pûjitâh
sîlam tadîtyam samsantah
khe 'bhavan misatâm nrnâm
22-48





マイトレーヤは述べられり
「祈りとぎょうつちかいし その高潔な特質で
真我と融合なされたる 神仙方はプリトゥに
斯くのごとくにうたわると 多くの者に見送られ
天の彼方かなたへ昇られり









318

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


vainyas tu dhuryo mahatâm
samsthityâdhyâtma-siksayâ
âpta-kâmam ivâtmânam
mena âtmany avasthitah
22-49




偉大なるこん プリトゥは 吾は御主おんしゅの分魂と
確たる自覚 持つ故に 主との融合こいねが
その時 待ちてひたすらに おのれの務め 果たされり







kamâni ca yathâ-kâlam
yathâ-desam yathâ-balam
yathocitam yathâ-vittam
akarod brahma-sât-krtam
22-50




場所と状況 類推し 相応ふさわしき時 はからいて
持てる限りの財産と 能力尽くし 至高主へ
献身奉仕なされたり







phalam brahmani sannyasya
nirvisangah samâhitah
karmâdhyaksam ca manvâna
âtmânam prakrteh param
22-51




聖知に満ちし至高者に 行為の結果 ゆだね切り
うつつの世への執着を 徹底的に切り捨てて
唯 御主のみ思いたり 然りて王は器なる
プラクリティの具象物 肉の身体を超えられり












319

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


grhesu vartamâno 'pi
sa sâmrâjya-sriyânvitah
nâsajjatendriyârthesu
niraham-matir arkavat
22-52




天に輝く太陽が 放つ光輝を吾がものと
決して執着 持たぬごと 家長であれど吾が家の
繁栄のみを願ったり 感覚満たす喜びを
求めることは無かりけり プリトゥ王は御自身が
主権を持たる帝国の <富と平和と幸福が
民草たちに公平に 行き渡ること>それのみに
力を注ぎ 努力さる






evam adhyâtma-yogena
karmâny anusamâcaran
putrân utpâdayâm âsa
pancârcisy âtma-sammatân
22-53




斯くの如くにプリトゥは バクティヨーガを行じつつ
主との合一ごういつ願いたり 妻 アルチとの間には
望み通りの五人いつたりの 良き息子等が誕生す






vijitâsvam dhûmrakesam
haryaksam dravinam vrkam
sarvesâm loka-pâlânâm
dadhâraikah prthur gunân
22-54




ヴィジターシュヴァや ハリャクシャ
ドゥームラケーシャ ドラヴィナや
ヴリカと名乗る一切いっさいの 世界や民の守護者なる
神々の持つ特質を プリトゥ王は五人いつたり
息子に全て顕して 世の人々に顕示さる








320

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


gopîthâya jagat-srsteh
kâle sve sve 'cyutâtmakah
mano-vâg-vrttibhih saumyair
gunaih samranjayan prajâh
22-55




プリトゥ王は御自身が 全ての物の創造主
クリシュナ神の本質を 有する者であることを
心と言葉 親愛の 行動により示されて
民草達たみくさたちの安寧を 護りて楽土らくど 築かれり





râjety adhân nâmadheyam
soma-râja ivâparah
sûryavad visrjan grhnan
pratapams ca bhuvo vasu-
22-56




斯くの如くに“名君めいくん”と その名も高きプリトゥは
月の光の冷瓏れいろう(冷気で暑気を払う)な  いたわりの愛 讃えられ
ソーマ王とも呼ばわれり
また大王は強烈な 太陽のごと指揮権で
財貨を集め 収益を 挙げて富国ふこくを目指されり






durdharsas tejasevâgnir
mahendra iva durjayah
titiksayâ dharitrîva
dyaur ivâbhîsta-do nrnâm
22-57




打ち勝ち難き強力な 王の武勇は火の如く
天の神なるインドラに 匹敵ひってきすると讃えらる
忍耐強さ 寛容は 大地の女神そのままで
あたかも天に住む如き 民草にさち 与えらる











321

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


varsati sma yathâ-kâmam
parjanya iva tarpayan
samudra iva durbodhah
sattvenâcala-râd iva
22-58




渇きし地には 慈雨じう降らせ 願いしことは成就させ
民草たみくさたちに心地よき 日々送らせる帝王は
清濁併せいだくあわむ”という 広き度量は海のごと
その存在は不動なる 山岳さんがくの王 さながらで
全容知るはかたかりき





dharma-râd iva siksâyâm
âscarye himavân iva
kuvera iva kosâdhyo
guptârtho varuno yathâ
22-59




正邪せいじゃを裁くヤマのごと のりを熟知し 知恵に
ヒマラヤ山の鉱脈や 自然界にもよく通じ
クベーラのごと富を持ち ヴァルナのように維持されり





mâtarisveva sarvâtmâ
balena mahasaujasâ
avisahyatayâ devo
bhagavân bhûta-râd iva
22-60




風の如くに万有ばんゆうの 全存在に浸透し
体力 威力 勇気持ち まさる者無き王なれど
こうし難きはただ一人ひとり 三神さんしん(宇宙三神)ゆう シヴァなりき














322

二十二章 神仙クマーラ プリトゥに解脱の真髄を説く


kandarpa iva saundarye
manasvî mrga-râd iva
vâtsalye manuvan nrnâm
prabhutve bhagavân ajah
22-61




カーマ神にも劣らじと 称賛される美しさ
百獣の王(ライオン)さながらに 気品と威力 そな
スヴァーヤンブヴァ マヌのごと 人類全て愛されて
造物主なる主権持つ ブラフマー神も斯くや?かと





brhaspatir brahma-vâde
âtmavattve svayam harih
bhaktyâ go-guru-vipresu
visvaksenânuvartisu
hriyâ prasraya-sîlâbhyâm
âtma-tulyah parodyame
22-62






秘伝 奥義の解説は ブリハスパティ(聖職者の雄)匹敵ひってき
自己抑制は至上主の 教えの如く 実行し
ブラーフマナや乳牛や 御主みすの従者を尊重す
かかる謙虚で温厚で 慈愛深くて柔和なる
プリトゥ王にまさる者 何処いずこ探せど見られまい





kîrtyordhva-gîtayâ pumbhis
trailokye tatra tatra ha
pravistah karna-randhresu
strînâm râmah satâm iva
22-63




その名声は声高こわだかに 三つの界でうたわれて
宇内うだい彼方此方あちらこちらでは ラーマの帰依者 そしてまた
女性 下僕げぼく聴道ちょうどう(耳の奥への道)
通りて深く(フリダヤに)みいりぬ」





第二十二章 終了


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