十八章 大地の女神の献身とプリトゥ王の治世

第十八章【大地の女神の献身とプリトゥ王の治世ちせい

maitreya uvaca
ittham prthum abhistuya
rusa prasphuritadharam
punar ahavanir bhita
samstabhyatmanam atmana
18-1





マイトレーヤは述べられり
「斯くの如くにプリトゥを 伏して女神は 拝すると
怒りのために唇を 震わせている大王に
つのる恐怖を智でしずめ 更に言葉を続けたり




sanniyacchabhibho manyum
nibodha sravitam ca me
sarvatah saram adatte
yatha madhu-karo budhah
18-2




〈おお怜悧なる大王よ 何卒怒りしずめませ
われがこれから語ること 賢者の如く聴き入れて
多種な花から蜜を採る マルハナバチの働きを
しかとお認めなされませ




asmil loke 'thavamusmin
munibhis tattva-darsibhih
drsta yogah prayuktas ca
pumsam sreyah-prasiddhaye
18-3




今 現在の人生で もしくは次の人の世で
解脱を得んと希求する 偉大な聖者賢人は
ぎょうの手段や方法や その論証や成功義
世の人々に伝達し 教え導き給うなり




248

十八章 大地の女神の献身とプリトゥ王の治世


tan atisthati yah samyag
upayan purva-darsitan
avarah sraddhayopeta
upeyan vindate 'njasa
18-4




先哲せんてつたちが発見し 行じたてつ踏襲とうしゅう
真理 原則忠実に 励みし者は皆全て
例え経験浅くとも 行為の果実 与えられ
人それぞれの信仰の 度合どあいに応じ幸福を
容易たやすく獲得できるらん





tan anadrtya yo 'vidvan
arthan arabhate svayam
tasya vyabhicaranty artha
arabdhas ca punah punah
18-5




それらのすべて無視をして 自己欲のみの立案は
着手すれども成就せず 幾度 試せどかのうまじ





pura srsta hy osadhayo
brahmana ya visampate
bhujyamana maya drsta
asadbhir adhrta-vrataih
18-6




宇宙創造たくされし ブラフマー神はその昔
ハーブやクシャ草創られり 然れどもは見たるなり
法令遵守せぬ者や 似非帰依者えせきえしゃ等が楽し気に
ハーブを享受 しているを!








249

十八章 大地の女神の献身とプリトゥ王の治世


apalitanadrta ca
bhavadbhir loka-palakaih
cori-bhute 'tha loke 'ham
yajnarthe 'grasam osadhih
18-7




年月としつき流れゆくうちに 今やわらわは無視されて
奇特きとくな保護者 いなくなり
御身おんみのごとき大王や 統治者もまた見向かない
泥棒たちが跋扈ばっこして 聖なるものを尊ばず
聖地も荒れて朽ちてゆく わらわはそれを哀しみて
再び祭祀 盛大に 催行できる日を信じ
ハーブやクシャ草 穀類を おのが乳房に隠したり




nunam ta virudhah ksina
mayi kalena bhuyasa
tatra yogena drstena
bhavan adatum arhati
18-8




おお大王よそれ故に 供犠に必須ひっすの植物を
わらわおののなかに 秘かに維持し たくわえり
長き年月の内に つちかわれたる其々それぞれ
神の化身の御身様おみさまが 適切なわざ 用いられ
《今やそれらの抽出ちゅうしゅつを なすべき時が来たれり》と
われ斯様かように思うなり




vatsam kalpaya me vira
yenaham vatsala tava
dhoksye ksiramayan kaman
anurupam ca dohanam

dogdharam ca maha-baho
bhutanam bhuta-bhavana
annam ipsitam urjasvad
bhagavan vanchate yadi
18-9・10











250

十八章 大地の女神の献身とプリトゥ王の治世


お望み給う物すべて 乳の形で差し出さん
地に住む者の保護者なる 御慈愛深き御身様が
民草たみくさたちを生かすため 穀類や草 滋養物
必要なりとおぼし そを御命ごめいじになるならば
<まずは仔牛を与えませ 仔牛への愛深まれば
母牛ははうしは充満し あふしたたり落ちるゆえ
何卒それを受けるおけ ご用意なされ給われ>と
お願い申しあげまする




samam ca kuru mam rajan
deva-vrstam yatha payah
apartav api bhadram te
upavarteta me vibho
18-11




おお大王よ 今一つ われの願いを聞きたまえ
天の御慈悲でこの土地を 豊饒ほうじょうの地となすために
雨季に多量の雨降らせ われうるおめたまえ
何とぞ土地を平坦に ならして水をとどめ置き
われの乳より取り出せし 生ある物を護られよ〉




iti priyam hitam vakyam
bhuva adaya bhupatih
vatsam krtva manum panav
aduhat sakalausadhih
18-12




プリトゥ王は斯く斯くと 地の女神より有益な
愛の籠れる言葉聞き さま彼はマヌ始祖に
仔牛の姿 嘆願し みずからの手で乳牛にゅうぎゅう
豊かに張りし乳房から ハーブや草や穀物を
すべて搾乳さくにゅうなされたり



251

十八章 大地の女神の献身とプリトゥ王の治世


tathapare ca sarvatra
saram adadate budhah
tato 'nye ca yatha-kamam
duduhuh prthu-bhavitam
18-13




しかりし後に賢者等は <主の真髄を得たし>とて
女神のから主の原理 溢れる程に受け取りぬ
それから後も賢者等は プリトゥ王に忠実な
地の女神からそれぞれに 望みし物を搾乳さくにゅう





rsayo duduhur devim
indriyesv atha sattama
vatsam brhaspatim krtva
payas chandomayam suci
18-14




おおヴィドゥラよそれ以降 偉大な聖者 聖仙は
ブリハスパティを仔牛とし インドラ神がそを受けて
その純粋な牛乳で ヴェーダ規範きはんを創りたり





krtva vatsam sura-gana
indram somam aduduhan
hiranmayena patrena
viryam ojo balam payah
18-15




神々達はインドラを 仔牛と見立て 女神から
ソーマ神酒や 能力や 強き肉体 知力など
金の器に戴きぬ









252

十八章 大地の女神の献身とプリトゥ王の治世


daiteya danava vatsam
prahladam asurarsabham
vidhayaduduhan ksiram
ayah-patre surasavam
18-16




ディティの息子 ダーナヴァは
プラフラーダ(悪魔の長)を仔牛とし
発酵させし液体(蒸留酒)を 鉄のポットに受けしなり





gandharvapsaraso 'dhuksan
patre padmamaye payah
vatsam visvavasum krtva
gandharvam madhu saubhagam
18-17




ガンダルヴァ星 最高者 ヴィシュヴァーヴァスを仔牛とし
ガンダルヴァとかアプサラス 陶酔誘う美しき
その歌声を得る為に 蓮のうつわ豊潤ほうじゅん
ミルクを満たし 受け取りぬ





vatsena pitaro 'ryamna
kavyam ksiram adhuksata
ama-patre maha-bhagah
sraddhaya sraddha-devatah
18-18




ピトリローカの住人は おさ アリヤマン 仔牛とし
祖霊に捧ぐ御供物ごくもつ(カヴャ)を 素焼きの壺(水の気化を利用して
内部を冷やした火を使わない壺)に戴きて 祖霊を祀る大切な
シュラーダ儀式 主催する 神々大いに喜ばす









253

十八章 大地の女神の献身とプリトゥ王の治世


prakalpya vatsam kapilam
siddhah sankalpanamayim
siddhim nabhasi vidyam ca
ye ca vidyadharadayah
18-19




シッダローカの住人は 聖者カピラを仔牛とし
人の心を読み解きて 予言者となる通力つうりき
ヴィディヤーダラの住人は 空を飛翔す通力を
女神のより受け取りぬ






anye ca mayino mayam
antardhanadbhutatmanam
mayam prakalpya vatsam te
duduhur dharanamayim
18-20




技巧に富みし魔術師(キンプルシャ等)
マヤ(悪魔の建築家)に仔牛の役をさせ
意思の力でおのが身を 消去出来るというじゅつ
女神の乳より戴きぬ






yaksa-raksamsi bhutani
pisacah pisitasanah
bhutesa-vatsa duduhuh
kapale ksatajasavam
18-21




ヤクシャ(クベーラの子孫) ラクシャス ブータ等や
魔女ピシャーチャ等 生肉せいにくを 食す者等はそれぞれに
ルドラに仔牛 依頼して 蒸留酒やら血の酒を
頭骸骨とうがいこつの器にて それらを満たし鯨飲げいいん





254

十八章 大地の女神の献身とプリトゥ王の治世


tathahayo dandasukah
sarpa nagas ca taksakam
vidhaya vatsam duduhur
bila-patre visam payah
18-22




頭部にフード広がらぬ 蛇(龍など)爬行はこうす大蛇とか
毒持つコブラ さそり等は 蛇族のおさ タクシャカを
仔牛に仕立て母牛の ミルクをおのが口でうけ
毒を自分の物にせり





pasavo yavasam ksiram
vatsam krtva ca go-vrsam
aranya-patre cadhuksan
mrgendrena ca damstrinah

kravyadah praninah kravyam
duduhuh sve kalevare
suparna-vatsa vihagas
caram cacaram eva ca
18-23・24











家畜はシヴァの乗り物の ナンディー(牡牛)仔牛とすることで
青々とした牧草を 女神のより受け取りぬ
鋭ききばの猛獣は 獅子を仔牛とすることで
森林という容器いれものに 肉をミルクで受け取りぬ
肉食獣は生き物の 肉を仔牛とすることで
己が肉体からだ容器ようきとし 女神の乳を頂きぬ
ガルダ 仔牛とした鳥は 動く動物(昆虫など)そしてまた
動かぬ物(果実など)をミルクから ついばむ餌を 受け取りぬ











255

十八章 大地の女神の献身とプリトゥ王の治世


vata-vatsa vanaspatayah
prthag rasamayam payah
girayo himavad-vatsa
nana-dhatun sva-sanusu
18-25




バニヤンの樹を仔牛とし 森の樹木じゅもくはそれぞれに
ことなる樹液 液体を 女神のより受け採りぬ
ヒマラヤ山を仔牛とす 丘や山々それぞれに
山の頂上いただき うつわとし 種々の鉱物 獲得す





sarve sva-mukhya-vatsena
sve sve patre prthak payah
sarva-kama-dugham prthvim
duduhuh prthu-bhavitam
18-26




プリトゥ王の追及で 大地の女神 此の界で
要求されしそのすべて おのが乳より出されたり
種族のおさを仔牛とし その仔牛への愛により
溢れ流れる女神の そを戴きて諸々もろもろ
望みし物を得たるなり





evam prthv-adayah prthvim
annadah svannam atmanah
doha-vatsadi-bhedena
ksira-bhedam kurudvaha
18-27




おおヴィドゥラよ 斯くのごと プリトゥ王や他の者は
自己の肉体 保つため それぞれ好む食べ物を
乳母うばとなりたる女神から 母性を誘う仔牛とか
搾乳さくにゅうわざ 容器ようきなど おのれの望む物得んと
皆それぞれに思案して 女神の乳を入手せり




256

十八章 大地の女神の献身とプリトゥ王の治世


tato mahipatih pritah
sarva-kama-dugham prthuh
duhitrtve cakaremam
premna duhitr-vatsalah
18-28




プリトゥ王はかる後
望み叶えし如意牛にょいぎゅう(思いのままになる牛)
大地の女神 称賛し 優しく愛し好まれて
己が娘となされたり





curnayan sva-dhanus-kotya
giri-kutani raja-rat
bhu-mandalam idam vainyah
prayas cakre samam vibhuh
18-29




プリトゥ王はしかる後 自身の弓の先端で
山のいただき 打ち砕き 地球の起伏きふくおおむねを
無くして土地をたいらにし 女神の望み 叶えらる






athasmin bhagavan vainyah
prajanam vrttidah pita
nivasan kalpayam cakre
tatra tatra yatharhatah
18-30




斯くの如くに国民こくみんに 生活の資を与えると
民の父たるプリトゥは 次に住まいを造らんと
彼方此方あちらこちらに適当な 土地を物色ぶっしょくなされたり








257

十八章 大地の女神の献身とプリトゥ王の治世


graman purah pattanani
durgani vividhani ca
ghosan vrajan sa-sibiran
akaran kheta-kharvatan
18-31




村落そんらくや都市 町や城 とりでやそして牧童ぼくどう
住まいや牧場まきば 囲いなど 種々様々の建物を
考案されて造られり 鉱石こうせきを掘る技術とか
食物類の栽培や 儀式を教え導きて
農耕 牧畜 採掘さいくつで 暮らせる家を建てられる





prak prthor iha naivaisa
pura-gramadi-kalpana
yatha-sukham vasanti sma
tatra tatrakutobhayah
18-32




プリトゥ王がこの界の 治世ちせいをされる前までは
城や要塞ようさい 都市や町 居住地などは無かりけり
今やこの地の人々は 何不自由の無き土地で
暮らし 楽しみ 幸福な 日々を満喫まんきついたしおり




十八章 終了








258