十五章 化身プリトゥの降臨と戴冠


第十五章【化身プリトゥの降臨と戴冠】

maitreya uvaca
atha tasya punar viprair
aputrasya mahipateh
bahubhyam mathyamanabhyam
mithunam samapadyata
15-1





マイトレーヤは述べられり
「聖仙たちはしかのち 更にヴェーナの両腕を
強き霊力ちからを発揮して 全速力でこすりたり
すると左右のかいなから 一対いっついの子がまれたり




tad drstva mithunam jatam
rsayo brahma-vadinah
ucuh parama-santusta
viditva bhagavat-kalam
15-2




ヴェーダの奥義おうぎよく学び 真理を知りし聖者等は
〈この一対いっついの子供等は クリシュナ神の顕現で
降臨されし化身けしんぞ〉と 共に語らい よみ




rsaya ucuh
esa visnor bhagavatah
kala bhuvana-palini
iyam ca laksmyah sambhutih
purusasyanapayini
15-3





〈この男児おのここそ至上主の 化身(ヴィシュヌ神)でありてこの宇宙
保護し維持する御方なり この女児おみなごも又然り
ラクシュミー神の化身にて 幸運与う女神なり
この男女神だんじょしんお二人は 共に御主の化身にて
へだてることは出来ぬ方


218

十五章 化身プリトゥの降臨と戴冠


ayam tu prathamo rajnam
puman prathayita yasah
prthur nama maharajo
bhavisyati prthu-sravah
15-4




この男児だんじこそ成長後 プリトゥという名で呼ばれ
卓越たくえつしたる業績で “偉大な王”と讃えられ
地の果てまでも名声が 広がることになりゆかん






iyam ca sudati devi
guna-bhusana-bhusana
arcir nama vararoha
prthum evavarundhati
15-5




アルチと呼ばるその女児じょじは 明眸皓歯めいぼうこうし 良き肢体したい
美徳のさがは慈悲深く
プリトゥ王のきさきとて こよなきつとめ なさるらん






esa saksad dharer amso
jato loka-riraksaya
iyam ca tat-para hi srir
anujajne 'napayini
15-6




最高神の部分なる 愛の女神のラクシュミー
世界の幸や安寧を 強く望みて誕生し
ひとしくつまを熱愛す 故にアルチの名に於きて
この世にあれど至上主と 不可分ふかぶんにして別れなし〉」








219

十五章 化身プリトゥの降臨と戴冠


maitreya uvaca
prasamsanti sma tam vipra
gandharva-pravara jaguh
mumucuh sumano-dharah
siddha nrtyanti svah-striyah
15-7





マイトレーヤは述べられり
「このプリトゥの誕生を 聖仙たちは称賛し
ガンダルヴァの長たちは 賛美のうたを歌いたり
シッダは花をき散らし アプサラス等が舞い踊る



sankha-turya-mrdangadya
nedur dundubhayo divi
tatra sarva upajagmur
devarsi-pitrnam ganah
15-8




法螺貝ほらがい ラッパ ドラム等の 祝福のが天にまで
沸き立つ如くにぎやかに 響きわたると彼方此方あちこち
聖仙たちやピトリなど 天上界の住人が
降誕されしプリトゥに 表敬ひょうけいのため来訪らいほう



brahma jagad-gurur devaih
sahasrtya suresvaraih
vainyasya daksine haste
drstva cihnam gadabhrtah
padayor aravindam ca
tam vai mene hareh kalam
yasyapratihatam cakram
amsah sa paramesthinah
15-9・10










ブラフマー神も神々を 数多あまた引き連れ来駕らいがされ
ヴェーナの息子プリトゥと 初対面はつたいめんをなされたり
まずプリトゥの右の手に クリシュナ神が把持はじされる
棍棒(槌矛)いん しるさるを しかとご覧になられたり
次いで二本の足裏に 蓮華の花と そしてまた
無敵を示す円盤の 尊きしるしくっきりと 刻印こくいんさるを拝見し
ブラフマー神は彼こそは 最高主なるクリシュナの
〔化身〕であると確信し 直ちに深く拝礼す

220

十五章 化身プリトゥの降臨と戴冠


tasyabhiseka arabdho
brahmanair brahma-vadibhih
abhisecanikany asmai
ajahruh sarvato janah
15-11




プリトゥ王の戴冠たいかんの まこと目出度めでたき祭式を
ヴェーダ儀式に精通す ブラーフマナが担当し
その催行さいこうに奉仕する 多くの人が各地から
戴冠式に必要な 品々を持ち 参集さんしゅう





sarit-samudra girayo
naga gavah khaga mrgah
dyauh ksitih sarva-bhutani
samajahrur upayanam
15-12




川や海 山そしてまた 蛇類じゃるいや牛や鳥類ちょうるい
森のけもの等三界の 生きとし生ける物すべて
戴冠式の供物持ち 嬉々快々ききかいかいと集まれり





so 'bhisikto maharajah
suvasah sadhv-alankrtah
patnyarcisalankrtaya
vireje 'gnir ivaparah
15-13




絢爛豪華けんらんごうか 目もくらむ 衣裳を着けしプリトゥ王
最高権威 賦与ふよされて 戴冠式を終えられり
華美かび装束しょうぞく 宝石で 身を飾られしアルチ妃と
並び立たれし御姿みすがたの 後光ごこう(光背)火焔かえん縁取ふちどられ
まぶしき光 放ちたり






221

十五章 化身プリトゥの降臨と戴冠


tasmai jahara dhanado
haimam vira varasanam
varunah salila-sravam
atapatram sasi-prabham
15-14




クベーラ神はヴィドゥラよ 金の玉座を贈りたり
水を支配すヴァルナ神 したたり落ちる水滴すいてき
月光のごと光る傘





vayus ca vala-vyajane
dharmah kirtimayim srajam
indrah kiritam utkrstam
dandam samyamanam yamah
15-15




ヴァーユはヤク(camara)の尾で出来た 払子ほっす(虫払い)を贈り
そしてまた ダルマは地位の象徴の 花冠はなかんむりを贈りたり
インドラ神は高価なる かぶとを贈り ヤマ神は
世界をすべて制御せいぎょする 象牙ぞうげしゃくを贈りたり





brahma brahmamayam varma
bharati haram uttamam
harih sudarsanam cakram
tat-patny avyahatam sriyam
15-16




ブラフマー神が手にさるは 真理極めて造られし
光り輝く甲冑かっちゅうで 学問の神サラスワティー
貴重なぎょくの首飾り クリシュナ神は円盤(スダルシャナ)
ラクシュミー神は不滅なる 富と光輝を贈られり







222

十五章 化身プリトゥの降臨と戴冠


dasa-candram asim rudrah
sata-candram tathambika
somo 'mrtamayan asvams
tvasta rupasrayam ratham
15-17




破壊をになうシヴァ神は 十個の月のしるし持つ
つるぎを贈り その妻の パールヴァティーは百の月
飾りしたてを贈りたり
月を支配すソーマ神 不滅の馬を贈呈ぞうてい
トヴァシュタ神は美しき 戦車を贈り祝福す




agnir aja-gavam capam
suryo rasmimayan isun
bhuh paduke yogamayyau
dyauh puspavalim anvaham
15-18




火神アグニは動物(山羊と牡牛)の つので出来たる弓 贈り
スーリヤ神は太陽の 光輝の如き矢を贈る
大地の神は神秘なる 力を持ちし上履うわばきを
天の女神は天国の 花を毎日摘む権利
それぞれ贈呈なされたり




natyam sugitam vaditram
antardhanam ca khecarah
rsayas casisah satyah
samudrah sankham atmajam
15-19




空界くうかいに住む住民は 演劇術や歌唱力
楽器奏でるその技術 姿消すすべそしてまた
偉大な聖者聖仙は 望み叶える方法を
また海神は吾が子供 法螺貝 王に贈りたり





223

十五章 化身プリトゥの降臨と戴冠


sindhavah parvata nadyo
ratha-vithir mahatmanah
suto 'tha magadho vandi
tam stotum upatasthire
15-20




海 山 川は二輪車が 通る車道を贈呈し
専門的な称賛者 職業詩人そしてまた
祈りのプロが盛大に 生業なりわい(職業)忘れ心から
王を讃えてうたいたり





stavakams tan abhipretya
prthur vainyah pratapavan
megha-nirhradaya vaca
prahasann idam abravit
15-21




ヴェーナの息子プリトゥ王 多くの祝賀受け取られ
やさしき笑みをうかべると 偉大な王に相応ふさわしき
威厳いげん溢れる声色こわいろで 斯くの如くに語られり




prthur uvaca
bhoh suta he magadha saumya vandil
loke 'dhunaspasta-gunasya me syat
kim asrayo me stava esa yojyatam
ma mayy abhuvan vitatha giro vah
15-22





プリトゥ王は語られり
〈おお称賛者 詩人たち そして祈りの達人たつじん
吾は只今戴冠たいかんの 儀式を終えしばかりなり
かかる賛辞にあたいする 美徳の王を目指せども
成るか成らぬか不明なり 分別難ぶんべつがたきこの時期に
何故に斯様かような称賛を かくも見事にうたわるや







224

十五章 化身プリトゥの降臨と戴冠


tasmat parokse 'smad-upasrutany alam
karisyatha stotram apicya-vacah
saty uttamasloka-gunanuvade
jugupsitam na stavayanti sabhyah
15-23




故に将来この吾が 最高神の本質を
正しく知覚したうえで 多くの民に〔説く〕という
帝王らしき業績を 果たせるようになりしなば
かかる賛美を受けとらん おお素晴らしき達人よ





mahad-gunan atmani kartum isah
kah stavakaih stavayate 'sato 'pi
te 'syabhavisyann iti vipralabdho
janavahasam kumatir na veda
15-24




高き徳持つ聖仙に 〔王の資格が在る〕という
認識を得た王のほか 賛美を享ける資格がありや?
真理しんり 精通せいつうせぬ者を 称賛するは愚挙ぐきょであり
称賛される理由わけもなく 賛美されるは欺瞞ぎまんなり




prabhavo hy atmanah stotram
jugupsanty api visrutah
hrimantah paramodarah
paurusam va vigarhitam
15-25




卓越したる聖仙は 賛美されるを喜ばず
しこうしてまた謙虚なる 雅量がりょうの広き人々は
名を知られるを好まずに 唯 黙々と精進す









225

十五章 化身プリトゥの降臨と戴冠


vayam tv avidita loke
sutadyapi varimabhih
karmabhih katham atmanam
gapayisyama balavat
15-26




おお達人よ 吾々は いまだ賛美にあたいせぬ
まこと名もなき夫婦めおとなり この年若き帝王の
まだぬ未来 みて 賛美されても吾々は
ただ困惑し 辟易へきえきし 戸惑とまどう思い しきりなり〉」




第十五章 終了




















226