四章 それぞれの旅立ち

第四章【それぞれの旅立ち】
uddhava uvâca
atha te tad-anujnâtâ
bhuktvâ pitvâ ca vârunîm
tayâ vibhramsita-jnânâ
duruktair marma pasprsuh
4-1





ウッダヴァは斯く語りぐ 「それからのちに彼たちは
ブラーフマナの許し得て 酒や食事をり始む
はいかさねるそのうちに 強き美酒うましゅ酩酊めいてい
理性無くしてれて 罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせ合う


tesâm maireya-dosena
visamîkrta-cetasâm
nimlocati ravâv âsîd
venûnâm iva mardanam
4-2




過度かどな飲酒の害により 正気しょうき失くした彼達は
竹の摩擦まさつで火が生じ 竹林ちくりんすべて焼けるごと
まだ太陽があるうちに 互いのけん(こぶし)で破滅せり



bhagavân svâtma-mâyâyâ
gatim tâm avalokya sah
sarasvatîm upasprsya
vrksa-mûlam upâvisat
4-3




おのれ自身のマーヤーで ヤーダヴァ族が滅ぶのを
御覧ごらんになりしクリシュナは
サラスワティー(河)清水せいすいを 口に含みしそのあとに
岸辺きしべに繁る樹の下に 静かに座りたまいたり



38

四章 それぞれの旅立ち

aham cokto bhagavatâ
prapannârti-harena ha
badarîm tvam prayâhîti
sva-kulam sanjihîrsunâ
4-4




おのが種族の滅亡を 決断されし至上主は
帰依者の苦難 除かんと 都城とじょうに吾を呼び寄せて
『そなたはすぐにバダリー(ガンガー河畔にある苦行庵)
おもむくべし!』と命ぜらる


tathâpi tad-abhipretam
jânann aham arindama
prsthato 'nvagamam bhartuh
pâda-vislesanâksamah
4-5




おおヴィドゥラよ この吾は
主が意図されし決断を まことよく知る者なるに
ああ然れども吾にして 別離の悲哀 耐えられず
御跡みあと慕いてひたすらに 主の御姿みすがたを追い求む



adrâksam ekam âsînam
vicinvan dayitam patim
sri-niketam sarasvatyâm
krta-ketam aketanam
4-6




必死にさがし求めたる おのが心のどころ
けいしてまぬ至上主が サラスワティーの河岸に
誰もおそばはべらせず ただお一人でしたまい
静かに黙思もくしされるのを 吾はようやく見つけたり







39

四章 それぞれの旅立ち

syâmâvadâtam virajam
prasântâruna-locanam
dorbhis caturbhir viditam
pîta-kausâmbarena ca
4-7




黒味がかりて艶やかな うるび色した青き肌
なごやかにして赤きお眼
黄色の絹をまとわれて 四本しほんの腕を持たる主は
まこと優雅ゆうが御姿おんしなり


vâma ûrâv adhisritya
daksinânghri-saroruham
apâsritârbhakâsvattham
akrsam tyakta-pippalam
4-8




蓮華の如き御足おみあしの 左のももに右足を
お乗せになりて菩提樹ぼだいじゅに かられし至上主は
地球の重荷 のぞえ ご満足げに見受けらる



tasmin mahâ-bhâgavato
dvaipâyana-suhrt-sakhâ
lokân anucaran siddha
âsasâda yadrcchayâ
4-9




まさにその時 はからずも 主の熱烈な帰依者にて
聖ヴィヤーサの畏友いゆうなる 悟り開きし解脱者げだつしゃ(マイトレーヤ)
世界を遊行ゆぎょうする途次とじに その場を通りかかられり








40

四章 それぞれの旅立ち


tasyânuraktasya muner mukundah
pramoda-bhâvânata-kandharasya
âsrnvato mâm anurâga-hâsa-
samîksayâ visramayann uvâca
4-10




思いもよらず至上主と めぐいたるそのムニ(聖仙)
歓喜に胸をつまらせて しばしこうべを下げたまま
優しき御主みす御言葉みことばを ただひたすらに聞き入りぬ
やがて御主おんしゅかたわらに たたずむ吾をごろうじて
くの如くに語られり




sri-bhagavân uvâca
vedâham antar manasîpsitam te
dadâmi yat tad duravâpam anyaih
satre purâ visva-srjâm vasûnâm
mat-siddhi-kâmena vaso tvayestah
4-11





聖クリシュナはのたまわく
『おおウッダヴァよ あれは知る 御身おみ切願せつがんするものを!
かつての世での そのほう(ウッダヴァ)は ヴァス神群しんぐんのひとりにて
<根本原理知りたし>と ソーマ祭祀を行ぜしを!
誰も知り得ぬ秘奥ひおうの理 まさ(直ぐ)そなたに与えなん




sa esa sâdho caramo bhavânâm
âsâditas te mad-anugraho yat
yan mâm nrlokân raha utsrjantam
distyâ dadrsvân visadânuvrttyâ
4-12




有徳うとくの者よ ウッダヴァよ 清純にして帰依深き
そなたはこれが最終の 人世ひとよとなるを約すなり
(再び輪廻転生しないことを約束する)
あれがこの肉体を捨てる時 恩寵得たるなれのみが
人里ひとざと離るこの土地で あれまみえるはえ




41

四章 それぞれの旅立ち


purâ mayâ proktam ajâya nâbhye
padme nisannâya mamâdi-sarge
jnânam param man-mahimâvabhâsam
yat sûrayo bhâgavatam vadanti
4-13




原初げんしょの昔 天地あめつちを 開闢かいびゃくしたるその時に
おのほぞより生じたる 蓮華はすばなすブラフマーに
偉大な叡智 栄光の すべてをあれは授けたり
これをそののち聖者等が【バーガヴァタ プラーナ】と称すなり』






ity âdrtoktah paramasya pumsah
pratiksanânugraha-bhâjano 'ham
snehottha-româ skhalitâksaras tam
muncan chucah prânjalir âbabhâse
4-14




最高の人 御主おんしゅから 恩寵深き御言葉みことば
けたる吾はその刹那せつな 御主みすへの愛がほとばし
体毛たいもうすべて逆立さかだちて しとど涙でらす
口籠くごもりつ合掌がっしょうし 斯くのごとくに語りたり






ko nv îsa te pâda-saroja-bhâjâm
sudurlabho 'rthesu catursv apîha
tathâpi nâham pravrnomi bhûman
bhavat-padâmbhoja-nisevanotsukah
4-15




〈おお吾が御主みすよ クリシュナよ 蓮華の御足みあし 敬慕して
御主おんしゅに奉仕するならば 人世ひとよつの目的を
得るは容易たやすきことならん ああしかれども至上主よ
われはそれらをほっせざり われ切望せつぼうすることは
御主みすの蓮華の御足おみあしに ひたすらつかまつること




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四章 それぞれの旅立ち


karmâny anîhasya bhavo 'bhavasya te
durgâsrayo 'thâri-bhayât palâyanam
kâlâtmano yat pramadâ-yutâsramah
svâtman-rateh khidyati dhîr vidâm iha
4-16




無因むいん(カルマの原因が無い)のゆえに不生ふしょう(肉体を持つ必要のない)なる
御身おんみであるにを求め(御事績をなさろうとして) 降誕されし至上主は
死の支配者でありながら 敵を恐れて遷都せんと(ドヴァーラカーへ)され
やがて夫人ふじんともないて ひな隠遁いんとんなされたり
主の降臨の目的を よく知る者は一様いちように 心滅入めいりて気落きおちせり




mantresu mâm vâ upahûya yat tvam
akunthitâkhanda-sadâtma-bodhah
prccheh prabho mughda ivâpramattas
tan no mano mohayatîva deva
4-17




ああ至上主よ 御身様おみさまは 無限の叡智 充ち溢れ
常にまった御方おかたなり なれども無知をよそおいて
吾を呼ばれて真剣に 意見を訊きてたばからる(相談される)
ああそれゆえに吾々の 心は千々ちぢに乱るなり




jnânam param svâtma-rahah-prakâsam
provâca kasmai bhagavân samagram
api ksamam no grahanâya bhartar
vadânjasâ yad vrjinam tarema
4-18




おおそれ故に至上主よ 吾等に資格ありとせば
ブラフマー神に語られし 至高の神秘 その叡智
それら御主おんしゅの本質を つぶさに語りたまえかし
さすればまど迷妄めいもうや いぶせし想い 消えるゆえ〉








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四章 それぞれの旅立ち


ity âvedita-hârdâya
mahyam sa bhagavân parah
âdidesâravindâksa
âtmanah paramâm sthitim
4-19




斯くのごとくにが胸の まことの想い 吐露とろすると
蓮華のごとき眼差まなざしの 絶対者なる至上主は
自分自身が持たれたる 超越的な本質を
吾に御教示ごきょうじ下されり





sa evam ârâdhita-pâda-tîrhâd
adhîta-tattvâtma-vibodha-mârgah
pranamya pâdau parivrtya devam
ihâgato 'ham virahâturâtmâ
4-20




敬してあお御主おんしゅから 秘奥ひおうの真理 本質を
教えられたるこの吾は 悟りの道に目覚めたり
斯くて御主おんしゅ御足おみあしに 深き礼拝たてまつり
別離の悲哀 こらえつつ この地に辿たどり着きしなり





so 'ham tad-darsanâhlâda-
viyogârti-yutah prabho
gamisye dayitam tasya
badaryâsrana-mandalam
4-21




おおヴィドゥラよ この吾は
御主おんしゅまみえ歓喜して 嬉し涙を流せども
今や別離の苦しみを 耐えつつ御主みす命令めいのまま
バダリーのあん 目指めざすなり









44

四章 それぞれの旅立ち


yatra nârâyano devo
naras ca bhagavân rsih
mrdu tîvram tapo dîrgham
tepâte loka-bhâvanau
4-22




そこは(バダリーの庵)御主おんしゅの化身なる
ナーラーヤナとナラ聖仙リシ
全人類に安寧と さち 与えんと意図されて
たとえようなき長きを 厳しき苦行なさるとこ
吾はその地をたずねんと ただひたすらに歩きぐ」





sri-suka uvâca
ity uddhavâd upâkarnya
suhrdâm duhsaham vadham
jnânenâsamayat ksattâ
sokam utpatitam budhah
4-23





えあるシュカは続けらる】
く しかじかとウッダヴァに
友 親類の終焉しゅうえんを つぶさに聞きしヴィドゥラは
胸 締め付ける悲しみを 主を憶念おくねんえしなり





sa tam maha-bhâgavatam
vrajantam kauravarsabhah
visrambhâd abhyadhattedam
mukhyam krsna-parigrahe
4-24




そしての地(バダリー)へ今まさに 旅立たんとて別れ告ぐ
すぐれし帰依者 ウッダヴァに
愛と信頼 深めたる ひいでしクル(族)のヴィドゥラが
斯くのごとくに かたりかく




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四章 それぞれの旅立ち


vidura uvâca
jnânam param svâtma-rahah-prakâsam
yad âha yogesvara îsvaras te
vaktum bhavân no 'rhati yad dhi visnor
bhrtyâh sva-bhrtyârtha-krtas caranti
4-25





ヴィドゥラは斯く 述べにけり
「おお願わくばウッダヴァよ ヨーガをべる至上主が
御身おみに説かれし秘奥の秘 主の本質をこの吾に
何とぞ伝授でんじゅくだされよ 主の帰依者なる方々は
信者に真理 説くことが 御意ぎょい(主の御心)を叶える道ならむ」




uddhava uvâca
nanu te tattva-samrâdhya
rsih kausâravo 'ntike
sâksâd bhagavatâdisto
martya-lokam jihâsatâ
4-26





ウッダヴァは斯く言いしなり 「主の本質を知りたくば
マイトレーヤ聖仙に 教えをうるべきなりき
御主みすがこの世を去る間際まぎわ 斯く聖仙に指示さるを
吾はおそばで聞きたり」と





sri-suka uvâca
iti saha vidurena visva-mûrter
guna-kathayâ sudhayâ plâvitorutâpah
ksanam iva puline yamasvasus tâm
samusita aupagavir nisâm tato 'gât
4-27





【栄えあるシュカは語られり】
斯く語りたるウッダヴァは ヤムナー河の岸辺にて
親しき畏友いゆうヴィドゥラと 宇宙の神秘 具現ぐげんさる
甘露の如き主の純理じゅんり 夜をてっして語り合う
斯くするうちに御主おんしゅとの 別離の苦痛 消えゆきて
夜明よあけとともにウッダヴァは 晴々はればれとして旅立ちぬ



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四章 それぞれの旅立ち


râjovâca
nidhanam upagatesu vrsni-bhojesv
adhiratha-yûthapa-yûthapesu muhkyah
sa tu katham avasista uddhavo yad
dharir api tatyaja âkrtim tryadhîsah
4-28





パリークシット国王は 斯くのごとくに訊ねたり
「ヴリシュニ族やボージャ族 主要なる者 絶滅し
三界べる御主おんしゅさえ 肉の身体からだを捨てらるに
ウッダヴァだけを何故なにゆえに この世にとどめ置かれしや」




sri-suka uvâca
brahma-sâpâpadesena
kâlenâmogha-vânchitah
samhrtya sva-kulam sphîtam
tyaksyan deham acintayat
4-29





【栄えあるシュカは語られり】
全ての界を意のままに 御操作そうさされる至上主は
ブラーフマナに指示をされ 呪詛じゅそのごとくに潤色じゅんしょく
繁栄したる一族(ヴリシュニ族とボージャ族)を 滅亡させしそのあとに
おのが姿(肉体)を捨てんとし 次のごとくに思案しあんさる





asmâl lokâd uparate
mayi jnânam mad-âsrayam
arhaty uddhava evâddhâ
sampraty âtmavatâm varah
4-30




まさにこの世を去らんとす あれの叡智をたくすのは
ウッダヴァこそがあたいする
最もすぐる知者であり もっとも深き帰依者ゆえ








47

四章 それぞれの旅立ち


noddhavo 'nv api man-nyûno
yad gunair nârditah prabhuh
ato mad-vayunam lokam
grâhayann iha tisthatu
4-31




彼ウッダヴァはこのあれに ほんの少しも見劣みおとらず
そして俗世の慣習かんしゅうに 影響されることもなし
ゆえにこの世にきて
秘奥の智慧を人口じんこうに 膾炙かいしゃをさせることとせん》

人口に膾炙をさせる=人々に広く知らしめる





evam tri-loka-gurunâ
sandistah sabda-yoninâ
badaryâsramam âsâdya
harim îje samâdhinâ
4-32




ヴェーダの起原そしてまた 三界べる聖ハリの
指示されし土地 バダリーへ 到着したるウッダヴァは
その場で御主みすを瞑想し 深き境地に至りたり





viduro 'py uddhavâc chrutvâ
krsnasya paramâtmanah
krîdayopâtta-dehasya
karmâni slâghitâni ca
4-33




地球の重荷 除かんと たわむれのごと降臨し
やがてその肉体を捨てられる 類稀たぐいまれなる至上主の
その御事績ごじせきをウッダヴァに 聞き及びたるヴィドゥラは
主への畏敬いけい弥勝いやまさ








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四章 それぞれの旅立ち


deha-nyâsam ca tasyaivam
dhîrânâm dhairya-vardhanam
anyesâm duskarataram
pusûnâm viklavâtmanâm
4-34




そして御主おんしゅ御事績ごじせきを おのが心に銘記めいきせる
まことすぐれしヴィドゥラは
けものの如き人等には 成就じょうじゅがたき帰依心を
更に強固に確立す





âtmânam ca kuru-srestha
krsnena manaseksitam
dhyâyan gate bhâgavate
ruroda prema-vihvalah
4-35




パリークシット国王よ 更にヴィドゥラはウッダヴァに
御主みすがこの世を去らる時 帰依する者のすえ
熟考じゅっこうされて細々こまごまと 配慮はいりょされしと知らさるや
その深愛しんあいに胸打たれ 身を震わせて泣きしなり




kâlindyâh katibhih siddha
ahobhir bharatarsabha
prâpadyata svah-saritam
yatra mitrâ-suto munih
4-36




数日ののち ヴィドゥラは
カーリンディー(ヤムナー河の岸辺)で立ちて
マイトレーヤ聖仙の あんを目指して日を重ね
天上界がみなもとの ガンジス河に着きしなり



第四章 終了



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