二章 ウッダヴァは斯く語りたり


第二章【ウッダヴァはく語りたり】
                      3-1-45      おおわが友よ ウッダヴァよ
                               己が教えに従える 全ての界の帰依者らの
                             苦痛を癒す目的で ヤドゥの家に生まれらる
                             不生の御主の消息を なにとぞ聞かせ給えかし



sri-suka uvâca
iti bhâgavatah prstah
ksattrâ vârtâm priyâsrayâm
prativaktum na cotseha
autkanthyât smâritesvarah
2-1





えあるシュカは語られり】
斯くの如くにヴィドゥラから 最愛の御主みすクリシュナの
近況如何きんきょういかが?」の問いかけに 帰依者のかがみウッダヴァは
主への憧憬どうけいこみ上げて 言葉にまり ひとこと
答えることが出来ぬまま しばしの間 もだしたり





yah panca-hâyano mâtrâ
prâtar-âsâya yâcitah
tan naicchad racayan yasya
saparyâm bâla-lîlayâ
2-2




主の献身者 ウッダヴァは 五歳に満たぬ幼児ようじより
すでに帰依者のきざしあり
子供どうしの遊びさえ 御主みすに仕える“真似まね遊び”
朝食に呼ぶ母の声 耳にらずや こたえなし







16

二章 ウッダヴァは斯く語りたり


sa katham sevayâ tasya
kâlena jarasam gatah
prsto vârtâm pratibrûyâd
bhartuh pâdâv anusmaran
2-3




斯くの如くに幼年わかきより 御主みすを慕いてお仕えし
としつごとに帰依心の 弥増いやまさりたるウッダヴァは
主の近況を問う彼(ヴィドゥラ)
答える言葉 まらせり





sa muhûrtam abhût tûsnîm
krsnânghri-sudhayâ bhrsam
tîvrena bhakti-yogena
nimagnah sâdhu nirvrtah
2-4




「主の消息しょうそくを知りたし」と ヴィドゥラからの問いかけで
アムリタに満つ御足おみあしを 深く想いしウッダヴァは
クリシュナ神へ捧げたる バクティによる功徳くどくにて
忘我ほうがの境に沈潜ちんせんし しばしもだして答えざり






pulakodbhinna-sarvângo
muncan mîlad-drsâ sucah
pûrnârtho laksitas tena
sneha-prasara-samplutah
2-5




(ウッダヴァ)体毛たいもう 逆立さかだちて 閉じし眼からは感涙かんるい
滂沱ぼうだと流れ落ちしなり 主の広大な愛情に
恍惚こうこつとしてひたりきる その有様ありさまを目撃し
ヴィドゥラは彼の達境たっきょうを しかと得心とくしんしたるなり








17

二章 ウッダヴァは斯く語りたり


sanakair bhagaval-lokân
nrlokam punar âgatah
vimrjya netre viduram
prîtyâhoddhava utsmayan
2-6




やがて御主おんしゅ宇内うだい(宇宙的世界)から 徐々に戻りしウッダヴァは
涙で濡れし眼をぬぐい 晴れやかな笑み 浮かべつつ
親愛込めてヴィドゥラに 斯くの如くに答えたり





uddhava uvâca
krsna-dyumani nimloce
gîrnesv ajagarene ha
kim nu nah kusalam brûyâm
gata-srîsu grhesv aham
2-7





ウッタヴァは斯く語りたり
「すべてに充ちし輝きは クリシュナという太陽が
落日らくじつしたるその刹那せつな 〔時〕の大蛇だいじゃに呑みこまれ
すべて消失したるなり 故に御身おんみに問われても
過ぎし昔の栄光の 何をか吾は語らんや




durbhago bata loko 'yam
yadavo nitarâm api
ye samvasanto na vidur
harim mînâ ivodupam
2-8




あましたなる人々の ああなんという迷妄めいもう
更に嘆きに堪えぬのは ヤーダヴァちょう部族人ぶぞくびと
御主おんしゅと共に暮らせしに 理解すること出来ぬとは…
水中にうおたちが てんに輝く月輪げつりん
見られぬ如く 聖ハリの まこと御姿すがた 知らぬなり







18

二章 ウッダヴァは斯く語りたり


ingita-jnâh puru-praudhâ
ekârâmâs ca sâtvatâh
sâtvatâm rsabham sarve
bhûtâvâsam amamsata
2-9




ヤーダヴァ族(サートヴァタ族)の人々は 才能高く知に優れ
御主おんしゅ起居ききょいつにして 共に楽しく過ごしたり
なれども彼等全員は 主の本質をつゆ知らず
種族の誇る最高の 指導者とのみ理解せり





devasya mâyayâ sprstâ
ye cânyad asad-âsritâh
bhrâmyate dhîr na tad-vâkyair
âtmany uptâtmano harau
2-10




主が駆使くしされるマーヤーに 影響されし人達や
浮世に固執こしつする者の 語るうつろなこと
最高神の聖ハリに すべて委ねし帰依者らが
心 乱るる事は無し





pradarsyâtapta-tapasâm
avitrpta-drsâm nrnâm
âdâyântar adhâd yas tu
sva-bimbam loka-locanam
2-11




苦行さざる者にまで ヤドゥ種族のおさとして
その御姿みすがたを見せたもう 御慈愛深き至上主(化身クリシュナ)
いまだ見飽みあきぬ人々の <いついつ迄も斯くあれ>と
望む視線を振り払い ついに御姿みすがた消されたり









19

二章 ウッダヴァは斯く語りたり


yan martya-lîlaupayikam sva-yoga-
mâyâ-balam darsayatâ grhîtam
vismâpanam svasya ca saubhagarddheh
param padam bhûsana-bhûsanângam
2-12




主は御自身ごじしんのマーヤーで 肉の身りて降臨おりられり
この世に事績じせき(リーラー)示さんと 神威しんいまばゆき御姿みすがた
顕現されし至上主は 驚嘆すべき足跡そくせき
遠近おちこちの地にかざられり





yad dharma-sûnor bata râjasûye
nirîksya drk-svastyayanam tri-lokah
kârtsnyena câdyeha gatam vidhâtur
arvâk-srtau kausalam ity amanyata
2-13




ラージャスーヤ(ユディシュティラの灌頂式)の式典で
主の御姿みすがたを拝したる 三つの界の人々は
《光輝くこの方は この世に幸をもたらして
吾等を救う方なり》と 強く確信したるなり





yasyânurâga-pluta-hâsa-râsa-
lîlâvaloka-pratilabdha-mânâh
vraja-striyo drgbhir anupravrtta-
dhiyo 'vatasthuh kila krtya-sesâh
2-14




思わせ振りな眼差まなざしや 笑みを浮かべるお口許くちもと
月の光に照らされた ラーサダンスのおたわむ
主のなされたる振る舞いに ヴラジャのらは恍惚うっとり
御姿みすがたのみを眼で追いて 家事を忘れて立ちつくす








20

二章 ウッダヴァは斯く語りたり


sva-sânta-rûpesv itaraih sva-rûpair
abhyardyamânesv anukampitâtmâ
parâvareso mahad-amsa-yukto
hy ajo 'pi jâto bhagavân yathâgnih
2-15




最上級の神界と 物質界の両方を
統治なされる至上主は 己が愛する分身(ヴァスデーヴァなど)
その静穏せいおんを打ち破り 苦難を与う者(カンサなど)あらば
不生ふしょうの質を放棄して アグニ(悪魔を滅ぼす神)して化身さる




mâm khedayaty etad ajasya janma-
vidambanam yad vasudeva-gehe
vraje ca vâso 'ri-bhayâd iva svayam
purâd vyavâtsîd yad-ananta-vîryah
2-16



不生ふしょう御主みすらせられ 無限むげんの力 持たる主が
ヴァスデーヴァの御家庭に なぜに降誕なされしや
何故なぜにカンサを恐れられ ヴラジャに隠れ住まれしや
マトゥラーの町を何故なにゆえに 捨ててお逃げになられしや
これらの御主みす御事績ごじせきを 吾は得心とくしん出来ぬなり





duniti cetah smarato mamaitad
yad âha pâdâv abhivandya pitroh
tâtâmba kamsâd uru-sankitânâm
prasîdatam no 'krta-niskrtînâm
2-17




クリシュナは斯く申されり 『おお父上よ 母上よ
カンサ恐れし吾々(クリシュナとバララーマ)
奉仕するべき両親の 御足みあし離れて住まいたり
ご慈愛深き心にて 何とぞ許したまわれ』と
この御言葉みことばを思うたび 吾の心は痛むなり







21

二章 ウッダヴァは斯く語りたり


ko vâ amusyânghri-saroja-renum
vismartum îsîta pumân vijighran
yo visphurad-bhrû-vitapena bhûmer
bhâram krtântena tirascakâra
2-18




まみえはしをごくわずか 動かしたもう それだけで
大地にかかる重き荷を すべて除去さるクリシュナは
まこと地球の主君なり この偉大なる至上主の
蓮華の御足あし塵埃じんあいに まみれて喜悦 得た者は
その恩寵のあじわいを 如何いかでか忘れられようぞ




drstâ bhavadbhir nanu râjasûye
caidyasya krsnam dvisato 'pi siddhih
yâm yoginah samsprhayanti samyag
yogena kas tad-viraham saheta
2-19




クリシュナ神に敵対し
ねたみ続けたチェーディ王(シシュパーラ)
なれども彼は式典(ユディシュティラの戴冠式)
ついに御主おんしゅに至りたり
全ての者が熱望す 境地与える御主おんしゅとの
別離に耐える者などが 何処いずこの土地に居たらんや




tathaiva cânye nara-loka-vîrâ
ya âhave krsna-mukhâravindam
netraih pibanto nayanâbhirâmam
pârthâstra-pûtah padam âpur asya
2-20




そしてその他の者たちも この現世うつつよの戦いで
主の帰依者なるアルジュナの 矢に射抜かれて浄化され
蓮華の如きクリシュナの そのかんばせを眼で見つめ
歓喜のうちに至上主の 領域いきに到達したるなり







22

二章 ウッダヴァは斯く語りたり


svayam tv asâmyâtisayas tryadhîsah
svârâjya-laksmy-âpta-samasta-kâmah
balim haradbhis cira-loka-pâlaih
kirîta-koty-edita-pâda-pîthah
2-21




主は三界のおさであり 卓越したる主権持つ
他に比類なき御方おかたなり 至福に充ちし本質の
御自おんみずからを発揚はつようし すべての希求ききゅう 叶えらる
永久とわの世界の守護者なる 主の御足おみあし御台座みだいざ
幾千万の帰依者らの 主への供物で満たされり




tat tasya kainkaryam alam bhrtân no
viglâpayaty anha yad ugrasenam
tisthan nisannam paramesthi-dhisnye
nyabodhayad deva nidhârayeti
2-22




斯くも尊き至上主が
華美な玉座ぎょくざに座をめる ウグラセーナの前に立ち
『おお目覚めたる大王よ…』 などと申さる有様に
吾等御主おんしゅの帰依者等の 心はひどく傷つきぬ





aho bakî yam stana-kâla-kûtam
jighâmsayâpâyayad apy asâdhvî
lebhe gatim dhâtry-ucitâm tato 'nyam
kam vâ dayâlum saranam vrajema
2-23




主の殺害をたくらみて 乳房に厚くどくを塗り
ちち 飲まさんと近づきし 魔性ましょうの女 プータナー
斯くも邪悪な者でさえ 主は 乳母うばとして相応そうおう
界にその座を与えらる ああ斯くのごと慈悲深き
御主おんしゅの他に何処いずくにか 保護求むべき御方かたりや






23

二章 ウッダヴァは斯く語りたり


manye 'surân bhâgavatâms trydhîse
samrambha-mârgâbhinivista-cittân
ye samyuge 'caksata târksya-putram
amse sunâbhâyudham âpatantam
2-24




手に円盤を持ちたまい ガルダに乗りて三界を
べる御主おんしゅを見た者は 心を深く結びつけ
一途いちずに帰依の道きわむ さすればたとえ悪魔でも
主の恩寵を戴きて 本来の座に昇るらん






vasudevasya devakyâm
jâto bhojendra-bandhane
cikîrsur bhagavân asyâh
sam ajenâbhiyâcitah
2-25




ブラフマー神のひたすらな 懇願こんがん受けし至上主は
地球の悪をしずめんと ボージャの王(カンサ)に捉えられ
幽閉されし御二方おふたかた ヴァスデーヴァとデーヴァキーの
八番目なる御子みことして ひそかに降誕こうたんなされたり






tato nanda-vrajam itah
pitrâ kamsâd vibibhyatâ
ekâdasa samâs tatra
gûdhârcih sa-balo 'vasat
2-26




しかしてのちに父親(ヴァスデーヴァ)は カンサの魔の手避けんとて
ナンダいとなむ牧場(ヴラジャ)に 夜陰やいんにまぎれかくまいぬ
くして兄のバララーマ そして弟クリシュナは
十一年の年月としつきを 素性そせい(本来の質)を秘して暮らされり






24

二章 ウッダヴァは斯く語りたり


parîto vatsapair vatsâms
cârayan vyaharad vibhuh
yamunopavane kûjad-
dvija-sankulitânghripe
2-27




牧童ぼくどうたちに囲まれて 子牛うし放牧ほうぼくさせながら
ヤムナー河畔かはんで遊んだり 鳥のさえず叢林そうりん
木登りしたり走ったり 自由気ままに闊達かったつ
全能の御主みすクリシュナは 楽しき時を過ごされり





kaumârîm darsayams cestâm
preksanîyâm vrajaukasâm
rudann iva hasan mugdha-
bâla-simhâvalokanah
2-28




無邪気な子供よそおいて 或る時は泣き 駄々だだ
また或る時は笑いこけ まるで子獅子こじしがじゃれるごと
あいらしきさま 見せる主に ヴラジャに住まう人々は
その本質は露知らず ただいとしさに満たされり





sa eva go-dhanam laksmyâ
niketam sita-go-vrsam
cârayann anugân gopân
ranad-venur arîramat
2-29




主は斯くのごと牛群うしむれと たわむれながら成長し
やがて至福のしるしなる 白き牡牛おうし放牧ほうぼく
慕いてつど牧童ぼくどうを 横笛吹きて楽しませ
のどかな日々を過ごされり









25

二章 ウッダヴァは斯く語りたり

prayuktân bhoja-râjena
mâyinah kâma-rûpinah
lîlayâ vyanudat tâms tân
bâlah krîdanakân iva
2-30




妖術ようじゅつ使う魔術師や 変化自在へんげじざいな悪魔らが
ボージャ王なるカンサから 命令受けて忍び込み
主をあやめんとねらいたり しかれども主は軽々と
まるで玩具おもちゃを壊すごと すべて成敗せいばいなされたり





vipannân visa-pânena
nigrhya bhujagâdhipam
utthâpyâpâyayad gâvas
tat toyam prakrti-sthitam
2-31




ヤムナー河の清流を 毒 吐き散らし穢したる
蛇の頭目とうもくカーリヤを 主は懲らしめて追放し
毒水飲みし牛たちを 全て救いてしかるのち
清く澄みたる本来の ヤムナー河に戻されり




ayâjayad go-savena
gopa-râjam dvijottamaih
vittasaya coru-bhârasya
cikîrsan sad-vyayam vibhuh
2-32




牛飼いたちのたば(支配者)なる 義父ぎふのナンダがインドラに
財投げ出して雨乞あまごいの 供儀を為さんとするときに
主は押しとどめ中止させ バラモンたちの力借り
牛を養う山神さんじん(ゴーヴァルダナの)へ 盛大な供儀させたもう









26

二章 ウッダヴァは斯く語りたり


varsatîndre vrajah kopâd
bhagnamâne 'tivihvalah
gotra-lîlâtapatrena
trâto bhadrânugrhnatâ
2-33




供儀取り止めし牧人ぼくじんに 侮辱された!と激怒せし
インドラ神は滝のごと 雨をヴラジャに降らせたり
おおヴィドゥラよ 慈悲の主は ゴーヴァルダナ(山)を持ち挙げて
困り果てたる人々を 傘下さんか(山下)に入れて保護されり




sarac-chasi-karair mrstam
mânayan rajanî-mukham
gâyan kala-padam reme
strînâm mandala-mandanah
2-34




えわたりたる夕月が 秋の夜空に輝きて
主の美しき歌声が 嫋嫋じょうじょうとして心地よく
優しく森に流れゆく そぞごころに浮かされて
つどたりし乙女らと 主は楽しげに過ごされり」



第二章 終了













27