sri-suka uvâca
iti bhâgavatah prstah
ksattrâ vârtâm priyâsrayâm
prativaktum na cotseha
autkanthyât smâritesvarah
2-1
【栄えあるシュカは語られり】
斯くの如くにヴィドゥラから 最愛の御主クリシュナの
「近況如何?」の問いかけに 帰依者の鑑ウッダヴァは
主への憧憬こみ上げて 言葉に詰まり ひと言も
答えることが出来ぬまま しばしの間 黙したり
yah panca-hâyano mâtrâ
prâtar-âsâya yâcitah
tan naicchad racayan yasya
saparyâm bâla-lîlayâ
2-2
主の献身者 ウッダヴァは 五歳に満たぬ幼児より
すでに帰依者の兆しあり
子供どうしの遊びさえ 御主に仕える“真似遊び”
朝食に呼ぶ母の声 耳に入らずや 応えなし
二章 ウッダヴァは斯く語りたり
sa katham sevayâ tasya
kâlena jarasam gatah
prsto vârtâm pratibrûyâd
bhartuh pâdâv anusmaran
2-3
斯くの如くに幼年より 御主を慕いてお仕えし
歳経つごとに帰依心の 弥増りたるウッダヴァは
主の近況を問う彼(ヴィドゥラ)に
答える言葉 詰まらせり
sa muhûrtam abhût tûsnîm
krsnânghri-sudhayâ bhrsam
tîvrena bhakti-yogena
nimagnah sâdhu nirvrtah
2-4
「主の消息を知りたし」と ヴィドゥラからの問いかけで
アムリタに満つ御足を 深く想いしウッダヴァは
クリシュナ神へ捧げたる バクティによる功徳にて
忘我の境に沈潜し しばし黙して答えざり
pulakodbhinna-sarvângo
muncan mîlad-drsâ sucah
pûrnârtho laksitas tena
sneha-prasara-samplutah
2-5
彼(ウッダヴァ)の体毛 逆立ちて 閉じし眼からは感涙が
滂沱と流れ落ちしなり 主の広大な愛情に
恍惚として浸りきる その有様を目撃し
ヴィドゥラは彼の達境を しかと得心したるなり
17
二章 ウッダヴァは斯く語りたり
sanakair bhagaval-lokân
nrlokam punar âgatah
vimrjya netre viduram
prîtyâhoddhava utsmayan
2-6
やがて御主の宇内(宇宙的世界)から 徐々に戻りしウッダヴァは
涙で濡れし眼を拭い 晴れやかな笑み 浮かべつつ
親愛込めてヴィドゥラに 斯くの如くに答えたり
uddhava uvâca
krsna-dyumani nimloce
gîrnesv ajagarene ha
kim nu nah kusalam brûyâm
gata-srîsu grhesv aham
2-7
ウッタヴァは斯く語りたり
「すべてに充ちし輝きは クリシュナという太陽が
落日したるその刹那 〔時〕の大蛇に呑みこまれ
すべて消失したるなり 故に御身に問われても
過ぎし昔の栄光の 何をか吾は語らんや
durbhago bata loko 'yam
yadavo nitarâm api
ye samvasanto na vidur
harim mînâ ivodupam
2-8
天が下なる人々の ああなんという迷妄ぞ
更に嘆きに堪えぬのは ヤーダヴァ朝の部族人
御主と共に暮らせしに 理解すること出来ぬとは…
水中に棲む魚たちが 天に輝く月輪を
見られぬ如く 聖ハリの 真の御姿 知らぬなり
18
二章 ウッダヴァは斯く語りたり
ingita-jnâh puru-praudhâ
ekârâmâs ca sâtvatâh
sâtvatâm rsabham sarve
bhûtâvâsam amamsata
2-9
ヤーダヴァ族(サートヴァタ族)の人々は 才能高く知に優れ
御主と起居を一にして 共に楽しく過ごしたり
なれども彼等全員は 主の本質を露知らず
種族の誇る最高の 指導者とのみ理解せり
devasya mâyayâ sprstâ
ye cânyad asad-âsritâh
bhrâmyate dhîr na tad-vâkyair
âtmany uptâtmano harau
2-10
主が駆使されるマーヤーに 影響されし人達や
浮世に固執する者の 語る虚ろな言の葉に
最高神の聖ハリに すべて委ねし帰依者らが
心 乱るる事は無し
pradarsyâtapta-tapasâm
avitrpta-drsâm nrnâm
âdâyântar adhâd yas tu
sva-bimbam loka-locanam
2-11
苦行為さざる者にまで ヤドゥ種族の長として
その御姿を見せたもう 御慈愛深き至上主(化身クリシュナ)は
いまだ見飽きぬ人々の <いついつ迄も斯くあれ>と
望む視線を振り払い ついに御姿消されたり
19
二章 ウッダヴァは斯く語りたり
yan martya-lîlaupayikam sva-yoga-
mâyâ-balam darsayatâ grhîtam
vismâpanam svasya ca saubhagarddheh
param padam bhûsana-bhûsanângam
2-12
主は御自身のマーヤーで 肉の身採りて降臨られり
この世に事績(リーラー)示さんと 神威まばゆき御姿を
顕現されし至上主は 驚嘆すべき足跡を
遠近の地に飾られり
yad dharma-sûnor bata râjasûye
nirîksya drk-svastyayanam tri-lokah
kârtsnyena câdyeha gatam vidhâtur
arvâk-srtau kausalam ity amanyata
2-13
ラージャスーヤ(ユディシュティラの灌頂式)の式典で
主の御姿を拝したる 三つの界の人々は
《光輝くこの方は この世に幸をもたらして
吾等を救う方なり》と 強く確信したるなり
yasyânurâga-pluta-hâsa-râsa-
lîlâvaloka-pratilabdha-mânâh
vraja-striyo drgbhir anupravrtta-
dhiyo 'vatasthuh kila krtya-sesâh
2-14
思わせ振りな眼差しや 笑みを浮かべるお口許
月の光に照らされた ラーサダンスのお戯れ
主のなされたる振る舞いに ヴラジャの娘らは恍惚と
御姿のみを眼で追いて 家事を忘れて立ちつくす
20
二章 ウッダヴァは斯く語りたり
sva-sânta-rûpesv itaraih sva-rûpair
abhyardyamânesv anukampitâtmâ
parâvareso mahad-amsa-yukto
hy ajo 'pi jâto bhagavân yathâgnih
2-15
最上級の神界と 物質界の両方を
統治なされる至上主は 己が愛する分身(ヴァスデーヴァなど)の
その静穏を打ち破り 苦難を与う者(カンサなど)あらば
不生の質を放棄して アグニ(悪魔を滅ぼす神)を擬して化身さる
mâm khedayaty etad ajasya janma-
vidambanam yad vasudeva-gehe
vraje ca vâso 'ri-bhayâd iva svayam
purâd vyavâtsîd yad-ananta-vîryah
2-16
不生の御主で在らせられ 無限の力 持たる主が
ヴァスデーヴァの御家庭に なぜに降誕なされしや
何故にカンサを恐れられ ヴラジャに隠れ住まれしや
マトゥラーの町を何故に 捨ててお逃げになられしや
これらの御主の御事績を 吾は得心出来ぬなり
duniti cetah smarato mamaitad
yad âha pâdâv abhivandya pitroh
tâtâmba kamsâd uru-sankitânâm
prasîdatam no 'krta-niskrtînâm
2-17
クリシュナは斯く申されり 『おお父上よ 母上よ
カンサ恐れし吾々(クリシュナとバララーマ)は
奉仕するべき両親の 御足離れて住まいたり
ご慈愛深き心にて 何とぞ許したまわれ』と
この御言葉を思うたび 吾の心は痛むなり
21
二章 ウッダヴァは斯く語りたり
ko vâ amusyânghri-saroja-renum
vismartum îsîta pumân vijighran
yo visphurad-bhrû-vitapena bhûmer
bhâram krtântena tirascakâra
2-18
眉の端をごく僅か 動かしたもう それだけで
大地にかかる重き荷を すべて除去さるクリシュナは
まこと地球の主君なり この偉大なる至上主の
蓮華の御足の塵埃に まみれて喜悦 得た者は
その恩寵の味わいを 如何でか忘れられようぞ
drstâ bhavadbhir nanu râjasûye
caidyasya krsnam dvisato 'pi siddhih
yâm yoginah samsprhayanti samyag
yogena kas tad-viraham saheta
2-19
クリシュナ神に敵対し
ねたみ続けたチェーディ王(シシュパーラ)
なれども彼は式典(ユディシュティラの戴冠式)で
ついに御主に至りたり
全ての者が熱望す 境地与える御主との
別離に耐える者などが 何処の土地に居たらんや
tathaiva cânye nara-loka-vîrâ
ya âhave krsna-mukhâravindam
netraih pibanto nayanâbhirâmam
pârthâstra-pûtah padam âpur asya
2-20
そしてその他の者たちも この現世の戦いで
主の帰依者なるアルジュナの 矢に射抜かれて浄化され
蓮華の如きクリシュナの その顔を眼で見つめ
歓喜のうちに至上主の 領域に到達したるなり
22
二章 ウッダヴァは斯く語りたり
svayam tv asâmyâtisayas tryadhîsah
svârâjya-laksmy-âpta-samasta-kâmah
balim haradbhis cira-loka-pâlaih
kirîta-koty-edita-pâda-pîthah
2-21
主は三界の長であり 卓越したる主権持つ
他に比類なき御方なり 至福に充ちし本質の
御自らを発揚し すべての希求 叶えらる
永久の世界の守護者なる 主の御足の御台座は
幾千万の帰依者らの 主への供物で満たされり
tat tasya kainkaryam alam bhrtân no
viglâpayaty anha yad ugrasenam
tisthan nisannam paramesthi-dhisnye
nyabodhayad deva nidhârayeti
2-22
斯くも尊き至上主が
華美な玉座に座を占める ウグラセーナの前に立ち
『おお目覚めたる大王よ…』 などと申さる有様に
吾等御主の帰依者等の 心はひどく傷つきぬ
aho bakî yam stana-kâla-kûtam
jighâmsayâpâyayad apy asâdhvî
lebhe gatim dhâtry-ucitâm tato 'nyam
kam vâ dayâlum saranam vrajema
2-23
主の殺害を企みて 乳房に厚く毒を塗り
乳 飲まさんと近づきし 魔性の女 プータナー
斯くも邪悪な者でさえ 主は 乳母として相応の
界にその座を与えらる ああ斯くのごと慈悲深き
御主の他に何処にか 保護求むべき御方在りや
23
二章 ウッダヴァは斯く語りたり
manye 'surân bhâgavatâms trydhîse
samrambha-mârgâbhinivista-cittân
ye samyuge 'caksata târksya-putram
amse sunâbhâyudham âpatantam
2-24
手に円盤を持ちたまい ガルダに乗りて三界を
統べる御主を見た者は 心を深く結びつけ
一途に帰依の道究む さすればたとえ悪魔でも
主の恩寵を戴きて 本来の座に昇るらん
vasudevasya devakyâm
jâto bhojendra-bandhane
cikîrsur bhagavân asyâh
sam ajenâbhiyâcitah
2-25
ブラフマー神のひたすらな 懇願受けし至上主は
地球の悪を鎮めんと ボージャの王(カンサ)に捉えられ
幽閉されし御二方 ヴァスデーヴァとデーヴァキーの
八番目なる御子として ひそかに降誕なされたり
tato nanda-vrajam itah
pitrâ kamsâd vibibhyatâ
ekâdasa samâs tatra
gûdhârcih sa-balo 'vasat
2-26
而して後に父親(ヴァスデーヴァ)は カンサの魔の手避けんとて
ナンダ営む牧場(ヴラジャ)に 夜陰にまぎれ匿いぬ
斯くして兄のバララーマ そして弟クリシュナは
十一年の年月を 素性(本来の質)を秘して暮らされり
24
二章 ウッダヴァは斯く語りたり
parîto vatsapair vatsâms
cârayan vyaharad vibhuh
yamunopavane kûjad-
dvija-sankulitânghripe
2-27
牧童たちに囲まれて 子牛を放牧させながら
ヤムナー河畔で遊んだり 鳥の囀る叢林で
木登りしたり走ったり 自由気ままに闊達に
全能の御主クリシュナは 楽しき時を過ごされり
kaumârîm darsayams cestâm
preksanîyâm vrajaukasâm
rudann iva hasan mugdha-
bâla-simhâvalokanah
2-28
無邪気な子供装いて 或る時は泣き 駄々を捏ね
また或る時は笑いこけ まるで子獅子がじゃれるごと
愛らしき様 見せる主に ヴラジャに住まう人々は
その本質は露知らず ただ愛しさに満たされり
sa eva go-dhanam laksmyâ
niketam sita-go-vrsam
cârayann anugân gopân
ranad-venur arîramat
2-29
主は斯くのごと牛群れと 戯れながら成長し
やがて至福の徴なる 白き牡牛を放牧し
慕いて集う牧童を 横笛吹きて楽しませ
のどかな日々を過ごされり
25
二章 ウッダヴァは斯く語りたり
prayuktân bhoja-râjena
mâyinah kâma-rûpinah
lîlayâ vyanudat tâms tân
bâlah krîdanakân iva
2-30
妖術使う魔術師や 変化自在な悪魔らが
ボージャ王なるカンサから 命令受けて忍び込み
主を殺めんと狙いたり 然れども主は軽々と
まるで玩具を壊すごと すべて成敗なされたり
vipannân visa-pânena
nigrhya bhujagâdhipam
utthâpyâpâyayad gâvas
tat toyam prakrti-sthitam
2-31
ヤムナー河の清流を 毒 吐き散らし穢したる
蛇の頭目カーリヤを 主は懲らしめて追放し
毒水飲みし牛たちを 全て救いて然るのち
清く澄みたる本来の ヤムナー河に戻されり
ayâjayad go-savena
gopa-râjam dvijottamaih
vittasaya coru-bhârasya
cikîrsan sad-vyayam vibhuh
2-32
牛飼いたちの束ね(支配者)なる 義父のナンダがインドラに
財投げ出して雨乞いの 供儀を為さんとするときに
主は押しとどめ中止させ バラモンたちの力借り
牛を養う山神(ゴーヴァルダナの)へ 盛大な供儀させたもう
26
二章 ウッダヴァは斯く語りたり
varsatîndre vrajah kopâd
bhagnamâne 'tivihvalah
gotra-lîlâtapatrena
trâto bhadrânugrhnatâ
2-33
供儀取り止めし牧人に 侮辱された!と激怒せし
インドラ神は滝のごと 雨をヴラジャに降らせたり
おおヴィドゥラよ 慈悲の主は ゴーヴァルダナ(山)を持ち挙げて
困り果てたる人々を 傘下(山下)に入れて保護されり
sarac-chasi-karair mrstam
mânayan rajanî-mukham
gâyan kala-padam reme
strînâm mandala-mandanah
2-34
冴えわたりたる夕月が 秋の夜空に輝きて
主の美しき歌声が 嫋嫋として心地よく
優しく森に流れゆく 漫ろ心に浮かされて
集い来たりし乙女らと 主は楽しげに過ごされり」