十八章 パリークシットの受難じゅなん


第十八章【パリークシットの受難じゅなん



sûta uvâca
yo vai drauny-astra-viplushtho
na mâtur udare mritah
anugrahâd bhagavatah
krishnasyâdbhuta-karmanah
18-1





≪聖仙スータ語られる≫
パリークシット国王は まだ胎内たいないにありしころ
アシュワッターマン放ちたる 火炎かえんの矢にて焼かれしが
不思議な行為 せる主の 慈愛じあいによりてよみがえ
死ぬることをばまぬがれり



brahma-kopotthitâd yas tu
takshakât prâna-viplavât
na sammumohorubhayâd
bhagavaty arpitâs'ayah
18-2




バラモンの子の怒りから 引き起こされしのろいにて
へび(タクシャカ)まれて死ぬという
むご運命さだめ出会であいても 聖なる御主おんしゅクリシュナに
すべたくせし国王は こころ微塵みじんもゆるがざり



utsrijya sarvatah sangam
vijn'âtâjita-samsthitih
vaiyâsaker jahau s'ishyo
gangâyâm svam kalevaram
18-3




ヴィヤーサの息子そく 聖シュカの 弟子となりたる国王は
主の真髄しんずいに達するや  執着しゅうちゃくすべてはな
ガンジス河の岸辺きしべにて おのが肉の身 捨てにけり







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十八章 パリークシットの受難じゅなん


nottamas'loka-vârtânâm
jushatâm tat-kathâmritam
syât sambhramo 'nta-kâle 'pi
smaratâm tat-padâmbujam
18-4




聖クリシュナに専心せんしんし 神譚しんたんを聴き たされて
蓮華れんげ御足みあしひたすらに おもいてしたう帰依者なら
死の瞬間しゅんかんのぞみても 心乱れることは無し



tâvat kalir na prabhavet
pravishtho 'pîha samatah
yâvad îs'o mahân urvyâm
âbhimanyava eka-râth
18-5




斯くの如くに偉大なる パリークシット国王が
この地を支配するゆえに
あらゆる場所にみて のりを犯して踏みにじる
カリといえどもそのかんは 力の誇示こじが出来ざりき



yasminn ahani yarhy eva
bhagavân utsasarja gâm
tadaivehânuvrtto 'sâv
adharma-prabhavah kalih
18-6




聖クリシュナがこの地球 お去りになりしその時に
不義ふぎ(アダルマ)象徴しょうちょうカリ王が 秘かにもぐみしなり



nânudveshthi kalim samrât
sâranga iva sâra-bhuk
kus'alâny âs'u siddhyanti
netarâni kritâni yat
18-7




あたかもうた(羽音)蜜蜂みつばちが みつ(サトヴァ)のみ享受きょうじゅするごとく
パリークシット国王は カリににくしみ(タマス)持たざりき
きこと(サトヴァ)のみがすみやかに おの成就じょうじゅたすく(仲立ち)なり
その反対の行い(タマス)は 求むるものでなき1.故に

1. 求むるものでなき サトヴァ以外のものに関りをもたないこと。



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十八章 パリークシットの受難じゅなん


kim nu bâleshu s'ûrena
kalinâ dhîra-bhîrunâ
apramattah pramatteshu
yo vriko nrishu vartate
18-8




愚者ぐしゃの前ではえらぶりて かしこき者にすく
すきある者を攻撃こうげきし 思慮しりょある者にへつらえり
斯くのごとくに狡猾こうかつな カリの本性ほんしょう見抜みぬきたる
パリークシット国王は 衆生しゅじょうのなかに(国民と共に)住まわせる
如何いかなる価値かちがあらんやと カリの隔離かくり(五か所に)さだめらる




upavarnitam etad vah
punyam pârîkshitam mayâ
vâsudeva-kathopetam
âkhyânam yad apricchata
18-9




御身おんみリシがたずねたる クリシュナカター(神譚)記述きじゅつさる
パリークシット国王の 徳にちたる物語
これらすべてを詳細しょうさいに われ 口述こうじゅつえり




yâ yâh kathâ bhagavatah
kathanîyoru-karmanah
guna-karmâs'rayâh pumbhih
samsevyâs tâ bubhûsubhih
18-10




まこと語るに相応ふさわしき 偉大な事績じせき 網羅もうらせる
聖クリシュナの神譚詩しんたんし
安寧あんねい願う人々は ただそれのみを頼りとし
崇敬すうけいささまなぶべし










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十八章 パリークシットの受難じゅなん


rishaya ûcuh
sûta jîva samâh saumya
s'âs'vatîr vis'adam yas'ah
yas tvam s'amsasi krishnasya
martyânâm amritam hi nah
18-11





聖仙たちは申したり
「おおスータ師よ長寿ちょうじゅなれ
死ぬる運命さだめの我々に
甘露かんろ(アムリタ)のごときクリシュナの
永久とわに輝く栄光を 御師おんしは語り給いたり
ああ願わくばこののちも 生命いのち根原もとを聴かせませ



karmany asminn anâs'vâse
dhûma-dhûmrâtmanâm bhavân
âpâyayati govinda-
pâda-padmâsavam madhu
18-12




聖クリシュナのうるわしき  蓮華れんげのごとき御足みあしから
流れ落ちたるアムリタ(バーガヴァタ プラーナ)
心行こころゆくまで飲ませんと 御師おんしが語る神譚は
祭火さいかに染まる(祭祀を行う)我々に  だいなる喜悦きえつ あたうもの



tulayâma lavenâpi
na svargam nâpunar-bhavam
bhagavat-sangi-sangasya
martyânâm kim utâs'ishah
18-13




解脱げだつ至福しふく望まずに 俗世ぞくせさち希求ききゅうする
死する運命さだめの者たちと
熱烈ねつれつしゅの帰依者(スータ)とを
如何いか(どうして) 比較ひかくができようぞ







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十八章 パリークシットの受難じゅなん




ko nâma tripyed rasavit kathâyâm
mahattamaikânta-parâyanasya
nântam gunânâm agunasya jagmur
yoges'varâ ye bhava-pâdma-mukhyâh
18-14




偉大な御主おんしゅクリシュナの この輝ける物語
聴きてえにし(ラサ)を知る者は  究竟くきょう(唯一無二)さとり満ち足りる
ブラフマー神 シヴァ神が ひきいるヨーガ巧者こうしゃでも
グナを超越ちょうえつされし主の
この究極きゅうきょくの境地には 達することは出来ぬなり




tan no bhavân vai bhagavat-pradhâno
mahattamaikânta-parâyanasya
harer udâram caritam vis'uddham
s'us'rûshatâm no vitanotu vidvan
18-15




すべてを捧ぐ聖ハリを 唯一無二ゆいつむになる究極きゅうきょく
目的の地とあがめらる 学識がくしきすぐるスータ師よ
ゆえ御身おんみを師とあおぎ あとしたがう我々に
聖クリシュナがされたる
気高けだかく清き御事績ごじせきを なにとぞ語りたまえかし




sa vai mahâ-bhâgavatah parîkshid
yenâpavargâkhyam adabhra-buddhih
jn'ânena vaiyâsaki-s'abditena
bheje khagendra-dhvaja-pâda-mûlam
18-16




主の偉大なる献身者けんしんしゃ パリークシット国王は
ヴィヤーサのそくシュカにより 英知 識別しきべつ 教えられ
“至高の幸”と名付けらる 聖なる御主おんしゅクリシュナの
乗り物(聖鳥ガルダ)の座を戴きぬ





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十八章 パリークシットの受難じゅなん


tan nah parum punyam asamvritârtham
âkhyânam atyadbhuta-yoga-nishthham
âkhyâhy anantâcaritopapannam
pârîkshitam bhâgavatâbhirâmam
18-17




卓越たくえつしたる神聖な たえなる原理げんりあらわせる
聖クリシュナの物語
パリークシット国王に かたられしこの神譚は
主の御事績ごじせきに満ちあふれ 帰依する者(バクタ)よろこばす
 おおスータ師よ願わくば 吾らに伝え給えかし」




sûta uvâca
aho vayam janma-bhrito 'dya hâsma
vriddhânuvrittyâpi viloma jâtâh
daushkulyam âdhim vidhunoti s'îghram
mahattamânâm abhidhâna-yogah
18-18





≪聖仙スータ語られる≫
父より高きカーストの 母からまるこの吾は
此度こたび 機会を与えられ
偉大な古老ころう リシたち(シャウナカや聖仙たち)
えにしを結び交流こうりゅうし 古譚こたん(クリシュナカター)伝えし功徳くどくにて
混合こんごうカースト出生しゅっしょう(聖典により禁じられている結婚による)
深き苦悩くのう一掃いっそうし うまれし意義いぎ目覚めざめたり




kutah punar grinato nâma tasya
mahattamaikânta-parâyanasya
yo 'nanta-s'aktir bhagavân ananto
mahad-gunatvâd yam anantam âhuh
18-19




偉大な古老 リシたちが 最終的などこ
絶えず称名しょうみょうされ給う 御主おんしゅ無限むげん(アナンタ)威力いりょく持ち
普遍ふへん 無窮むきゅう御方おかたなり
偉大な徳を持ちし主を “アナンタ”の名でたたえ呼ぶ



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十八章 パリークシットの受難じゅなん


etâvatâlam nanu sûcitena
gunair asâmyânatis'âyanasya
hitvetarân prârthayato vibhûtir
yasyânghri-renum jushate 'nabhîpsoh
18-20




卓越たくえつしたる至上主しじょうしゅは 追随ついずいを許さずに
すべてのものを凌駕りょうがさる
至幸しこう女神めがみラクシュミー(ルクミニー)は 求婚者らをかえりみず
う心無き(結婚を求めない)至上主の 御足みあしちりを求めたり




athâpi yat-pâda-nakhâvasrishtham
jagad virin'copahritârhanâmbhah
ses'am punâty anyatamo mukundât
ko nâma loke bhagavat-padârthah
18-21




主の御事績を歓迎かんげいし ブラフマー神が捧げたる
崇敬すうけい示す真清水ましみずが 御足みあしの爪をつたい落ち
シヴァ神始め全宇宙 すべてを洗い清めたり
ムクンダ(クリシュナ神)こそは唯一者ゆいいっしゃ 世界くまなく探しても
至高しこうかみ相応ふさわしき 名を持つかたられるや?




yatrânuraktâh sahasaiva dhîrâ
vyapohya dehâdishu sangam ûdham
vrajanti tat pârama-hamsyam antyam
yasminn ahimsopas'amah sva-dharmah
18-22




聖クリシュナに傾注けいちゅうし 愛を捧げる御身おんみらは
否定さるべき肉体に まつわる執意しゅうい 放擲ほうてき
非暴力をば遵守じゅんしゅして 自己のダルマを確立かくりつ
パラマハムサと呼ばれるに 相応ふさわしきリシ御身おんみらは
時空じくうを超えて最終の 寂静じゃくじょうの地に至るらん







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十八章 パリークシットの受難じゅなん


aham hi prishtho 'ryamano bhavadbhir
âcaksha âtmâvagamo 'tra yâvân
nabhah patanty âtma-samam patattrinas
tathâ samam vishnu-gatim vipas'citah
18-23




太陽のごと輝ける 御身おんみらによるおたずねは
まこと我が意をたるもの
われが学びしそのすべて 口述こうじゅつするをやくすなり
鳥が吾身わがみの能力に おうじて空を飛ぶごとく
クリシュナ神の御業おみわざの 知りしものを語るらん




ekadâ dhanur udyamya
vicaran mrigayâm vane
mrigân anugatah s'rântah
kshudhitas trishito bhris'am
18-24 ・25




パリークシット国王は (過去の)る晴れし日に
弓矢を持ちて家臣かしんらと 森へ狩猟しゅりょうに出かけらる
夢中で獲物えもの 追ううちに 従う者(家来)を見失い
えとかわきにさいなまれ 極度きょくどに疲れ果てしなり




jalâs'ayam acaks'ânah
pravives'a tam âs'ramam
dadars'a munim âsînam
s'ântam mîlita-locanam







泉なきかと探せども うるおす水は見当みあたらず
むなく王はかたわらの いおりなかはいりたり
其処そこにて王が見しものは ひとり静かに瞑目めいもく
せる聖者(シャミーカ仙)の姿なり







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十八章 パリークシットの受難じゅなん


pratiruddhendriya-prâna-
mano-buddhim upâratam
sthâna-trayât param prâptam
brahma-bhûtam avikriyam
18-26




その時せる聖仙は 感官かんかん 呼吸 制御せいぎょして
マナス(心) ブッディ(知覚ちかく識別しきべつ) はな(トリグナから)
みっつの意識状態を(覚醒かくせい夢眠むみん熟睡じゅくすい)
超えて不変の領域りょういき(ブラフマンの)で  無我むがの境地にたるなり



viprakîrna jatâcchannam
rauravenâjinena ca
vis'ushyat-tâlur udakam
tathâ-bhûtam ayâcata
18-27




んでむすびし頭髪とうはつや けしころも(羚羊かもしかの皮の衣)は乱れしも
瞑目めいもくしたる聖仙は 陶酔郷とうすいきょうに安らぎぬ
にもかかわらず国王は
激しきかわえかねて 一掬いっきくの水 求めたり



alabdha-trina-bhûmy-âdir
asamprâptârghya-sûnritah
avajn'âtam ivâtmânam
manyamânas' cukopa ha
18-28




敷物や座をすすめずに しの水 問訊もんじん(御機嫌伺い)
応対おうたいをせぬ聖仙の 無視する如き態度見て
パリークシット国王は 激しき怒りおぼえたり



abhûta-pûrvah sahasâ
kshut-tridbhyâm arditâtmanah
brâhmanam praty abhûd brahman
matsaro manyur eva ca
18-29




おおシャウナカよ
飢餓きがかわきの両方に 苦しめられし国王は
今まで持ちしことのなき ブラーフマナに対しての
憎悪 怒りの感情が 突如とつじょ激しくげり

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十八章 パリークシットの受難じゅなん


sa tu brahma-risher amse
gatâsum uragam rusâ
vinirgacchan dhanush-kothyâ
nidhâya puram âgatah
18-30




あんからいでし国王は 怒りの思い消えやらず
ちたるへび死骸しにがらを 弓の先にて拾い上げ
 瞑想したる聖仙に そを投げつけて帰城せり
 蛇のむくろが聖仙の 肩にかかりしままにして




esha kim nibhritâs'esha-
karano mîlitekshanah
mrishâ-samâdhir âhosvit
kim nu syât kshatra-bandhubhih
18-31




パリークシット国王は この聖仙の瞑目めいもく
感官すべて制御せいぎょした 三昧さんまいに居る徴候ちょうこうや?
クシャトリヤとのかかわりを 持つのをけていつわりの
 忘我ぼうがきょうよそいしや? 《確かめたし》の意図いと持たる




tasya putro 'titejasvî
viharan bâlako 'rbhakaih
râjn'âgham prâpitam tâtam
s'rutvâ tatredam abravît
18-32




かの聖仙の独り子は まだ年若き男児おのこなり
この時彼はの子らと 楽しく遊びきょうじしが
国王によりわが父が “侮辱ぶじょく受けし”と聞き知るや
即座そくざに彼は斯くのごと 強き言葉で言いはな











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十八章 パリークシットの受難じゅなん


aho adharmah pâlânâm
pîvnâm bali-bhujâm iva
svâminy agham yad dâsânâm
dvâra-pânâm s'unâm iva
18-33




「豊富な供物くもつ あさり食う からすの如く浅ましき
ああ不正義の王族め
門口かどぐち守る番犬ばんけんや 主人(ブラーフマナ)ふく召使めしつか
それにぎなき王族が おかせし罪を許さざり



brâhmanaih kshatra-bandhur hi
griha-pâlo nirûpitah
sa katham tad-grihe dvâh-sthah
sabhândam bhoktum arhati
18-34




ブラーフマナの任命で 守護につきたるクシャトリヤ
もんで立ち番する彼が 何故なぜあるじ住居すまいにて
飲食いんしょくするに相応ふさわしき 容器ようきが与えられようぞ(カーストの規則)



krsne gate bhagavati
s'âstary utpatha-gâminâm
tad bhinna-setûn adyâham
s'âsmi pas'yata me balam
18-35




邪悪じゃあくな者の懲罰者ちょうばつしゃ 至上しじょうしゅなるクリシュナが
この地去られし今ゆえに
規矩きくを破りし無法者むほうもの われただちにらしめん!
吾の持ちたる強力な 呪詛じゅそき目を見るがいい」



ity uktvâ rosha-tâmrâksho
vayasyân rishi-bâlakah
kaus'iky-âpa upaspris'ya
vâg-vajram visasarja ha
18-36




遊び盛りの聖仙りしの子が 斯くの如くに言いしのち
カウシキ川の水に触れ 怒りでまなこ赤く染め
いかずちのごと音声おんじょうで 呪いの言葉放ちたり


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十八章 パリークシットの受難じゅなん


iti langhita-maryâdam
takshakah saptame 'hani
dankshyati sma kulângâram
codito me tata-druham
18-37




<斯くのごとくにわが父に
無礼な仕打働きて 名誉けがせし国王を
今から七日なのか過ぎし日に われの指令に従いて
 毒蛇どくじゃ(タクシャカ)みて殺すらん!>



tato 'bhyetyâs'ramam bâlo
gale sarpa-kalevaram
pitaram vîkshya duhkhârto
mukta-kantho ruroda ha
18-38




やがていおりに帰り来て 蛇の死骸しがいを肩に掛け
瞑目したるわが父の 姿を見たる少年は
あらん限りの大声で 泣きて悲しみなげきたり



sa vâ ângiraso brahman
s'rutvâ suta-vilâpanam
unmîlya s'anakair netre
drishthvâ câmse mritoragam
18-39




おおシャウナカよ その時に
アンギラスいん(子孫)シャミーカは  吾子わこ号泣ごうきゅうする声を
聞きてゆるゆる目を開けぬ
そして息子を見やりつつ 肩のむくろ(蛇の)のぞきたり



visrijya tam ca papraccha
vatsa kasmâd dhi rodishi
kena vâ te 'pakritam
ity uktah sa nyavedayat
18-40




やがて息子に向き直り 「愛する吾子わこ何故なぜに泣く?
誰かにいじめられたるや?」
斯くの如くに問われたる 息子はそこでつつみなく
すべての経緯けいい 告げにけり

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十八章 パリークシットの受難じゅなん


nis'amya s'aptam atad-arham narendram
sa brâhmano nâtmajam abhyanandat
aho batâmho mahad adya te kritam
alpîyasi droha urur damo dhritah
18-41




父シャミーカ(聖仙)はそを聞きて 息子の呪詛じゅそを喜ばず
「ああ何という愚行ぐこうかな 良き統治とうちする国王の
ほんの些細ささい失態しったいに 斯くも厳罰げんばつ与うとは!
なれりたる行いは まことに重き罪なるぞ




na vai nribhir nara-devam parâkhyam
sammâtum arhasy avipakva-buddhe
yat-tejasâ durvishahena guptâ
vindanti bhadrâny akutobhayâh prajâh
18-42




知力未熟みじゅくおろか者! 神さながらの国王(パリークシット)
如何いかでか(どうして)そち(おまえ)さばけよう
吾等われら多くの国民くにたみは さからいがたき力持つ
王にまもられ敵襲てきしゅうの 憂き目も見ずに安穏に
繁栄の世を楽しめり




alakshyamâne nara-deva-nâmni
rathânga-pânâv ayam anga lokah
tadâ hi caura-pracuro vinankshyaty
arakshyamâno 'vivarûthavat kshanât
18-43




無比むひの君主”とたたえられ 勇猛ゆうもう ほこる国王が
姿 消されしその時に おお未熟みじゅくなるわがそく
庇護ひご失いしこの国は 多くの賊が跋扈ばっこして
さく無き羊さながらに たちまたれ滅ぶらん








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十八章 パリークシットの受難じゅなん


tad adya nah pâpam upaity ananvayam
yan nashtha-nâthasya vasor vilumpakât
parasparam ghnanti s'apanti vrin'jate
pas'ûn striyo 'rthân puru-dasyavo janâh
18-44




庇護ひご失いし我々に 邪悪な者がおそい来て
富の略奪りゃくだつするならん
暴徒ぼうととなりし人々は ゆかりなき者お互いに
ののしり合いて殺し合い
家畜やおみな 富などを きそいて奪い合いぬべし




tadârya-dharmah pravilîyate nrinâm
varnâs'ramâcâra-yutas trayîmayah
tato 'rtha-kâmâbhinives'itâtmanâm
s'unâm kapînâm iva varna-sankarah
18-45




さすればたかきダルマ持ち スリーヴェーダに根差ねざしたる
四姓しせい 四住期しじゅうき 遵守じゅんしゅせる 善行ぜんぎょうの人 滅びゆき
富と快楽けらく惑溺わくできす 人々のみが生き残り
あたかも犬や猿のごと ヴァルナ(四姓)混合こんごう 起こるらん



dharma-pâlo nara-patih
sa tu samrâd brihac-chravâh
sâkshân mahâ-bhâgavato
râjarshir haya-medhayât
kshut-trit-s'rama-yuto dîno
naivâsmac châpam arhati
18-46






界にかんたる国王は ダルマの保護者 そして又
主の偉大なる帰依者にて 多くの馬供犠ばくぎ行いし
ほまれも高き王仙おうせん
あの時王はがたき 飢えと渇きに困憊こんぱい
ひどく苦しきていなりき
故に君主くんしゅは我々の 呪いをうける われ無し





244

十八章 パリークシットの受難じゅなん


apâpeshu sva-bhrityesu
bâlenâpakva-buddhinâ
pâpam kritam tad bhagavân
sarvâtmâ kshantum arhati
18-47




まこと罪なき純粋な 御主みすに仕える従僕じゅうぼく(国王)
識別心しきべつしんじゅくさざる 吾子わこが犯せしその罪を
すべてにちる至上主に <是非におゆるし賜れ>と
伏して懇願こんがんたてまつる



tiraskritâ vipralabdhâh
s'aptâh kshiptâ hatâ api
nâsya tat pratikurvanti
tad-bhaktâh prabhavo 'pi hi
18-48




侮辱ぶじょく 中傷ちゅうしょうされたとて 言葉たくみにかたられて
ののしられたりあざけられ はては殺害さつがいされたとて
主の忠実ちゅうじつな帰依者なら たとえ力があろうとて
決して対抗たいこうせぬものぞ」



iti putra-kritâghena
so 'nutapto mahâ-munih
svayam viprakrito râjn'â
naivâgham tad acintayat
18-49




偉大な聖者シャミーカは 吾子わこしたるあやまちを
知りて驚き嘆きしが
国王により与えらる 我に向けての屈辱くつじょく
ごうこころかいさざり












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十八章 パリークシットの受難じゅなん


prâyas'ah sâdhavo loke
parair dvandveshu yojitâh
na vyathanti na hrishyanti
yata âtmâ 'gunâs'rayah
18-50




この世で生きる聖仙は 世人せじんによりて語られる
相反あいはんしたる評判ひょうばん(賞讃や誹謗)に 悲喜諸々ひきもろもろを思わざり
梵我一如ぼんがいちにょを悟りたる ムニ(聖者)にとりては三グナ(物質界)
無価値むかちなものであるゆえに



第十八章 終了






















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