十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


第十三章【ドリタラーシュトラの開眼かいげん



sûta uvâca
viduras tîrtha-yâtrâyâm
maitreyâd âtmano gatim
jn'âtvâgâd dhâstinapuram
tayâvâpta-vivitsitah
13-1





≪聖仙スータ語られる≫
ドリタラーシュトラ弟の ヴィドゥラは聖地せいち巡礼じゅんれい
マイトレーヤ聖者から 悟得ごとくの道を教えられ
希求ききゅうせしことすべて得て ハスティナープラへ帰り



yâvatah kritavân pras'nân
kshattâ kaushâravâgratah
jâtaika-bhaktir govinde
tebhyas' copararâma ha
13-2




マイトレーヤの面前めんぜんで 多くの問答もんどうなすうちに
ヴィドゥラは御主おんしゅクリシュナに 絶対の帰依つちかいて
(マイトレーヤ)御前ごぜんから退去たいきょせり



tam bandhum âgatam drishthvâ
dharma-putrah sahânujah
dhritarâshthro yuyutsus' ca
sûtah s'âradvatah prithâ

gândhârî draupadî brahman
subhadrâ cottarâ kripî
anyâs ca jâmayah pândor
jn'âtayah sasutâh striyah
13-3 ・4











ああバラモンよ聞きたまえ
久方ひさかたぶりに王宮に 帰り来たりし彼(ヴィドゥラ)を見た
親しきえんにつながりし ユディシュティラと弟ら
ドリタラーシュトラ サーティヤキ(ユユツ)





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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん

サンジャヤ クリパ クンティー妃
ドラウパディーやガーンダーリー
ウッタラー クリピー スバドラー
その他の者やその妻ら パーンダヴァ家の親戚や
息子を連れし婦人たち


pratyujjagmuh praharshena
prânam tanva ivâgatam
abhisangamya vidhivat
parishvangâbhivâdanaih
13-5




彼の帰宅に歓喜して 気力ちたる親族は
急ぎヴィドゥラを出迎えり
礼儀正しく近づくと 御足みあしに触れて恭礼きょうれい
共に安否あんぴを問い合いぬ



mumucuh prema-bâshpaugham
virahautkanthhya-kâtarâh
râjâ tam arhayâm cakre
kritâsana-parigraham
13-6




長き別離の悲しみの 想いのたけを語らいて
ヴィドゥラと共に人々は 愛の涙を流したり
しこうしてのち大王は ヴィドゥラのためにしつらえし
上席じょうせき すすねんごろに 尊敬の礼捧げたり



tam bhuktavantam vis'rântam
âsînam sukham âsane
pras'rayâvanato râjâ
prâha teshâm ca s'rinvatâm
13-7




供応きょうおうされし食をり 心地よき座でくつろがる
ヴィドゥラを見たる大王は 恭敬きょうけいの意を現わしつ
る者の面前めんぜんで くのごとくに語りかく






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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


yudhishthhira uvâca
api smaratha no yusmat-
paksha-cchâyâ-samedhitân
vipad-ganâd vishâgnyâder
mocitâ yat samâtrikâh
13-8





ユディシュティラは語りたり
御身おんみは記憶されたるや せま邪悪じゃあくな魔の手から
かばいて厚く保護されし 御身おんみ御手みてで育ちたる
この吾たちの生い立ちを?
毒の投与とうよや放火など 降りかかりくる危難きなんから
母と吾らが救わるは 御身おんみの愛にほかならず



kayâ vrittyâ vartitam vas'
caradbhih kshiti-mandalam
tîrthâni kshetra-mukhyâni
sevitânîha bhûtale
13-9




一帯いったいの土地あちこちを
遊歴ゆうれきされし叔父上 (ヴィドゥラは父パーンドゥ王の弟)
如何なる国の聖地にて 根本原主クリシュナを
あがめて奉仕されしや
如何なるすべ献身けんしんを げてそをたもたるや



bhavad-vidhâ bhâgavatâs
tîrtha-bhûtâh svayam vibho
tîrthî-kurvanti tîrthâni
svântah-sthena gadâbhritâ
13-10




ああ偉大なる奉仕者よ
胸裡きょうりにおわす主によりて 清められたる叔父上は
巡礼されしあちこちを 神聖な地に浄化さる









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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


api nah suhridas tâta
bândhavâh krishna-devatâh
drishthâh s'rutâ vâ yadavah
sva-puryâm sukham âsate
13-11




恩愛おんあい深き叔父上よ 聖クリシュナを神として
帰依する友や親族や ドワーラカー城に住む人を
見たり はたまたうわさなど 見聞みききなされしことありや
ヤーダヴァ族の皆様は 楽しき日々をお過しや」




ity ukto dharma-râjena
sarvam tat samavarnayat
yathânubhûtam kramas'o
vinâ yadu-kula-kshayam
13-12




斯くのごとくに大王に 訊ねられたる聖ヴィドゥラ
体験したるそのすべて 順序を追いて語りたり
なれどヤドゥ家一族の 滅亡したるそのさま
かたらうことははぶきたり




nanv apriyam durvishaham
nrinâm svayam upasthitam
nâvedayat sakaruno
duhkhitân drashthum akshamah
13-13




親族達のなげさま 見るに耐えぬと思われし
ヴィドゥラはそれを語らざり
受け入れがたく耐え難き 苦痛ともなうその事実
 やがて何時いつかは人々の 口のに乗り伝わると












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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


kan'cit kâlam athâvâtsît
sat-krito devavat sukham
bhrâtur jyeshthhasya s'reyas-krit
sarveshâm sukham âvahan
13-14




ハスティナープラの宮殿で 神のごとくに崇められ
(ヴィドゥラ)き時ごされて しば逗留とうりゅうなされたり
時がすぎゆくそのかん
(ドリタラーシュトラ)にとりての吉兆きっちょう(解脱)
すべての者の安寧あんねいを もたらすように導かる




abibhrad aryamâ dandam
yathâvad agha-kârishu
yâvad dadhâra s'ûdratvam
s'âpâd varsha-s'atam yamah
13-15




ヴィドゥラはヤマの化身にて 百年ほどの長き
のろいによりてシュードラの 肉の身まとい過ごされり
その長きをアリヤマン(アディティの第二子)
ヤマに代わりて適切てきせつに 罪の処罰しょばつを代行す




yudhishthhiro labdha-râjyo
drishthvâ pautram kulan-dharam
bhrâtribhir loka-pâlâbhair
mumude parayâ s'riyâ
13-16




ユディシュティラ大王は 父の王国取り戻し
家系をつな王孫おうそん(パリークシット)を しかとその眼で見届みとどけり
世界を守護す神のごと 兄弟たちの補佐ほさにより
栄誉と富と幸運で わが世の春を謳歌おうかせり









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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


evam griheshu saktânâm
pramattânâm tad-îhayâ
atyakrâmad avijn'âtah
kâlah parama-dustarah
13-17




くするうちに王達は 家庭に溺れ愛着し
栄華えいがの夢に酔いれて 本来の自己(ジーヴァ)忘れ去る
うかうかと日を過ごすうち 〔時〕は流れてひととき
おなじにとどまる事はなく 人知れぬ間に通り過ぐ




viduras tad abhipretya
dhritarâshthram abhâshata
râjan nirgamyatâm s'îghram
pas'yedam bhayam âgatam
13-18




それをよく知る聖ヴィドゥラ 兄に向いてげにけり
「ああ兄上よご覧あれ 恐れし〔時〕が来たるなり
れ親しみしこの土地を 出発つべきときたれり〉と
げるきざしが見ゆるなり!




pratikriyâ na yasyeha
kutas'cit karhicit prabho
sa esha bhagavân kâlah
sarveshâm nah samâgatah
13-19




おお偉大なる至上主よ 永遠えいえんの〔時〕べるのは
全能の主に他ならず これに対抗たいこうするすべ
如何なる者も持たぬゆえ この世のどこに居ようとも
すべての〔時〕は容赦ようしゃなく 我らの上におとずれる











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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


yena caivâbhipanno 'yam
prânaih priyatamair api
janah sadyo viyujyeta
kim utânyair dhanâdibhih
13-20




しこうして〔時〕来たるなば この世に生きる人間は
命でさえもそしてまた 最愛の妻 子でさえも
いわんや富やそのほかの 日常のものことごと
即座そくざにすべて奪われる




pitri-bhrâtri-suhrit-putrâ
hatâs te vigatam vayam
âtmâ ca jarayâ grastah
para-geham upâsase
13-21




我らが愛す父や子や 兄弟や友そしてまた
有志ゆうし 親族 息子らは 戦乱により殺されり
そして兄者あにじゃの肉体は 老衰ろうすいによりむしばまれ
他者たしゃ住居すまいとどまりて ただ漫然まんぜんと生きるのみ




andhah puraiva vadhiro
manda-prajn'âs' ca sâmpratam
vis'îrna-danto mandâgnih
sarâgah kapham udvahan
13-22




生まれながらの盲人もうじんが すでに聾者ろうしゃとなられたり
今や歯までが弱くなり 胃は消化すらままならず
赤くまりしたんを吐き そして才知さいちにぶりたり













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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


aho mahîyasî jantor
jîvitâs'â yathâ bhavân
bhîmâpavarjitam pindam
âdatte griha-pâlavat
13-23




ああ生類しょうるいのなんとまあ 生きんがための欲望が
強きことよと驚きぬ
兄者あにじゃは正にそのために ビーマがあとう食料を
飼い犬のごと受け取りぬ




agnir nisrishtho dattas' ca
garo dârâs' ca dûshitâh
hritam kshetram dhanam yeshâm
tad-dattair asubhih kiyat
13-24




住処すみかに放火されたうえ 毒を盛られしパーンドゥは
妻は世人せじんの面前で ひど侮辱ぶじょくを受けにけり
そして領地や財産を 強奪ごうだつせしはそも誰ぞ?
《あなたの息子たちですよ》
そのパーンドゥの情けにて 生命いのち長らえ生きること
如何なる価値かち御座ござろうや!




tasyâpi tava deho 'yam
kripanasya jijîvishoh
paraity anicchato jîrno
jarayâ vâsasî iva
13-25




ああそれなるに兄上は その肉の身がいとしくて
生きなんとする欲望の なんと憐れに強きこと
願わぬことであろうとも 歳を重ねることにより
襤褸らんるのごとく潮垂しおたれて やがて死すこと必定さだかなり








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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


gata-svârtham imam deham
virakto mukta-bandhanah
avijn'âta-gatir jahyât
sa vai dhîra udâhritah
13-26




世俗の縁を解き放ち あらゆるものを捨て去りて
知られざる地に一人行き 無用になりし肉の身を
執着をせず脱ぎ捨てて かえりみもせぬの人は
昔も今も変わりなく“思慮しりょある者”と呼ばるなり



yah svakât parato veha
jâta-nirveda âtmavân
hridi kritvâ harim gehât
pravrajet sa narottamah
13-27




自分自身で達観たっかんし 或いは他から聴かされて
世事せじ超脱ちょうだつしたる者 心にハリをしかと置き
家からいでて唯ひとり 遊行ゆぎょうの果て(終着地)に向かう者
そは“最高の知者”なりと 世の称賛しょうさんを浴びるなり



athodîcîm dis'am yâtu
svair ajn'âta-gatir bhavân
ito 'rvâk prâyas'ah kâlah
pumsâm guna-vikarshanah
13-28




ゆえに御身おんみ唯一人ただひとり 身内に秘めてひそやかに
(ヒマラヤ)に向かいてたるべし これから先の時代では
 恐らくこれら有徳ゆうとくを すべて喪失そうしつするならん」



evam râjâ vidurenânujena
prajn'â-cakshur bodhita âjamîdhah
chittvâ sveshu sneha-pâs'ân dradhimno
nis'cakrâma bhrâtri-sandars'itâdhvâ
13-29




斯くの如くに弟の ヴィドゥラによりてさとされし
ドリタラーシュトラ前王は ついに心眼しんがん開きたり
身内に持ちし愛着を 強き覚悟で断ち切ると
おととヴィドゥラに導かれ 北の国へと出立す

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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


patim prayântam subalasya putrî
pati-vratâ cânujagâma sâdhvî
himâlayam nyasta-danda-praharsham
manasvinâm iva sat samprahârah
13-30




つまめしいじゅんじると 誓いを立ててとつぎたる
貞婦ていふかがみガーンダーリー つまの遊行に従いて
ヒマラヤ山に向かいたり 世俗のきずな切り捨てし
正しき智慧のある者は 〔しんの歓喜〕を得らるべし




ajâta-s'atruh krita-maitro hutâgnir
viprân natvâ tila-go-bhûmi-rukmaih
griham pravishtho guru-vandanâya
na câpas'yat pitarau saubalîm ca
13-31




ユディシュティラ大王は 目覚めてすぐに朝ぎょう
祭火を捧げ献供けんきょうし 次いで胡麻ごま 牛 土地 金で
ブラーフマナ(バラモン)表敬ひょうけい
次いでおさへの挨拶に その住まいへと向かいたり
なれど何処いずこさがせども 二人のおじ(伯父と叔父)と伯母君を
ついに見ること叶わざり




tatra san'jayam âsinam
papracchodvigna-mânasah
gâvalgane kva nas tâto
vriddho hînas' ca netrayoh
13-32




不安にられ大王は そこにしたるサンジャヤに
斯くの如くに訊ねたり
「ガーヴァルガニ息サンジャヤよ 年老い 更に盲目もうもく
吾らが伯父の前王は 何処いずこにおいでなされしや







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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


ambâ ca hata-putrârtâ
pitrivyah kva gatah suhrit
api mayy akrita-prajn'e
hata-bandhuh sa bhâryayâ
âs'amsamânah s'amalam
gangâyâm duhkhito 'patat
13-33





そして常々息子らが 死せるを嘆き悲しみし
伯母は何処いずこられるや
常に我らをかばわれし 叔父のヴィドゥラは何処いずくんぞ
おろかな吾の仕打しうちにて 親族をみな殺されし
さいわい薄き伯父 伯母は 傷の深さを示めさんと
ガンジス河におのが身を みずかとうじたまいしや




pitary uparate pândau
sarvân nah suhridah s'is'ûn
arakshatâm vyasanatah
pitrivyau kva gatâv itah
13-34




父パーンドゥに死別せし 幼き子供吾々に
降りかかりくる危難から すべてを守り下されし
わが親族のおじ(伯父 叔父)たちは
この王宮をあとにして 一体何処どこに行かれしや」



s'uta uvâca
kripayâ sneha-vaiklavyât
sûto viraha-kars'itah
âtmes'varam acakshâno
na pratyâhâtipîditah
13-35





≪聖仙スータ語られる≫
仕えるぬしを突然に 失いたりしサンジャヤは
あまりに強き愛ゆえに 別離の情にさいなまれ
悲嘆 苦痛にさえぎられ ひと言たりと話せざり








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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


vimrijyâs'rûni pânibhyâm
vishthabhyâtmânam âtmanâ
ajâta-s'atrum pratyûce
prabhoh pâdâv anusmaran
13-36




気を取り直しサンジャヤは 自己を知性で制御せいぎょして
両手で涙拭きとると 主人の御足みあし思いつつ
斯くのごとくに大王に 声まらせて申し上ぐ




san'jaya uvâca
nâham veda vyavasitam
pitror vah kula-nandana
gândhâryâ vâ mahâ-bâho
mushito 'smi mahâtmabhih
13-37





サンジャヤは斯く申したり 「氏族の誇る大王よ!
王の伯父上 伯母上の 決意をわれは知らざりき
知性に富める人たちに われは翻弄ほんろうされにけり」




athâjagâma bhagavân
nâradah saha-tumburuh
pratyutthâyâbhivâdyâha
sânujo 'bhyarcayan munim
13-38




そこへ聖なるナーラダが 天の楽人がくじん(ガンダルヴァ)伴いて
その場に顕現けんげんなされたり
王は弟共々に 即座そくざに立ちて神仙を
礼儀正しく出迎えて 恭敬きょうけいの礼捧げらる
そののち王は丁重ていちょうに 神仙に斯く申したり












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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


yudhishthhira uvâca
nâham veda gatim pitror
bhagavan kva gatâv itah
ambâ vâ hata-putrârtâ
kva gatâ ca tapasvinî
13-39





ユディシュティラは申されり
「二人のおじの行き先を われは知る事叶わざり
ここをいでたるおじたちは 何処いずこに行かれたまいしや
息子亡くせし悲しみが いまだえざる伯母上は
何処いずこに行かれたまいしや おお神仙よお説きあれ



karnadhâra ivâpâre
bhagavân pâra-dars'akah
athâbabhâshe bhagavân
nârado muni-sattamah
13-40




あたかも舵手だしゅ荒海あらうみで たくみにかじをとるごとく
聖なる尊師御身おんみこそ 彼岸1.を示すお方なり」
有徳のムニ(聖仙)の最高者 至福の権化ごんげナーラダは
王の言葉を聞きたまい 斯くのごとくに語られり

1. 彼岸… (梵)pâramitâ(波羅蜜多)の訳語。



nârada uvâca
mâ kan'cana s'uco râjan
yad îs'vara-vas'am jagat
lokâh sapâlâ yasyeme
vahanti balim îs'ituh
sa samyunakti bhûtâni
sa eva viyunakti ca
13-41









ナーラダ仙は申されり
「ユディシュティラ大王よ 誰のことをも嘆くまじ
この世はすべて至上主の ご意思によりて支配さる
主が恩寵を与えられ 人類はみな至上主に
供物を運び奉献ほうけんす 全能なりし支配者は
生き物たちを結びつけ 御業みわざによりてち切らる




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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


yathâ gâvo nasi protâs
tantyâm baddhâs' ca dâmabhih
vâk-tantyâm nâmabhir baddhâ
vahanti balim îs'ituh
13-42




鼻に通さる縄索じょうさく(綱)で 束縛そくばくされし牛れが
太ききずなたばねられ 重き荷物をになうごと
ヴェーダ規範きはん(原則)の形態で 固定されたる人類は
支配者である至上主の 御足に供物奉献ほうけん




yathâ krîdopaskarânâm
samyoga-vigamâv iha
icchayâ krîdituh syâtâm
tathaives'ecchayâ nrinâm
13-43




この世で起きる諸々は すべて御主おんしゅのご意思なり
離合集散りごうしゅうさん繰り返す 人間の世のさま
楽しむ人の意思により 集められたる遊び
果ては捨てらるさまのごと 有為転変ういてんぺんは人の常




yan manyase dhruvam lokam
adhruvam vâ na cobhayam
sarvathâ na hi s'ocyâs te
snehâd anyatra mohajât
13-44




たとえそなたが人類を 久遠くおんの者に思いても
はたまた無常むじょうを思いても 或いは共に在り得ずと
心を千々ちぢに乱すまじ それらはすべて無明むみょうから
生まれ育ちしじょうゆえに 悩むことではなかりけり










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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


tasmâj jahy anga vaiklavyam
ajn'âna-kritam âtmanah
katham tv anâthâh kripanâ
varterams te ca mâm vinâ
13-45




《彼ら(伯父 伯母)は吾を離れては
生きるすべなき身の上》と 無き身を憐れみし
混乱したる大王よ! そなたは自己の作りたる
無明のなさけ 放棄ほうきせよ!




kâla-karma-gunâdhîno
deho 'yam pân'ca-bhautikah
katham anyâms tu gopâyet
sarpa-grasto yathâ param
13-46




人が大蛇に飲みこまれ み下されしその時に
如何いかでか(どうして) 他人ひとを救えよう
その真実と同様に 五大元素で成り立ちて
〔時〕と〔カルマ(行為)〕と〔トリグナ(三つの要素)〕に
支配されたる肉体に 他を守るすべありるや




ahastâni sahastânâm
apadâni catush-padâm
phalgûni tatra mahatâm
jîvo jîvasya jîvanam
13-47




手の無きもの(爬虫類はちゅうるいなど)は 有るものの
足無きもの(植物など)有足ゆうそくの 小さきものは大物おおもの
食糧となりしょくされて 他の生物を生かすなり
斯くのごとくにこの世では
神の摂理せつり(自然の法則)連綿れんめんと 生きる要素をつなぐなり







172

十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん

tad idam bhagavân râjann
eka âtmâtmanâm sva-drik
antaro 'nantaro bhâti
pas'ya tam mâyayorudhâ
13-48




斯くのごとくにああ王よ すべてのものは御主おんしゅなり
(フリダヤ)にありては永久に
〔見る者(パラマートマ)〕として輝かれ
その分身のジーヴァの 個我こがの姿は〔見らる者〕
なれど姿はことなるも パラマートマもジーヴァも
唯一ゆいつ至高の御主なり マーヤーによる作用にて
多様な姿顕さる 御主をとくと認知にんちせよ!




so 'yam adya mahârâja
bhagavân bhûta-bhâvanah
kâla-rûpo 'vatîrno 'syâm
abhâvâya sura-dvishâm
13-49




おお大王よ聞きたまえ 至高の御主おんしゅクリシュナが
全生物に安寧を もたらすために意図いとなされ
意思にさからう人々の 無法を排除はいじょするために
〔時の三相さんそう駆使くしなされ この地に降臨なされたり



nishpâditam deva-krityam
avas'esham pratîkshate
tâvad yûyam avekshadhvam
bhaved yâvad ihes'varah
13-50




すでに化身の目的を 果たし終えたるクリシュナは
最後に残る総仕上げ 静かに見守りたまいけり
そして御主おんしゅ現世うつつよに られる限りそなた等は
住みたる土地にとどまりて 〔時〕の至るを待たるべし








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十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


dhritarâshthrah saha bhrâtrâ
gândhâryâ ca sva-bhâryayâ
dakshinena himavata
rishînâm âs'ramam gatah
13-51




ドリタラーシュトラ ガーンダーリー(妻)
おとうとヴィドゥラ連れ立ちて ヒマラヤ山の南方で
 聖者のために結ばれし 苦行林くぎょうりん(庵)へと向かいたり



srotobhih saptabhir yâ vai
svardhunî saptadhâ vyadhât
saptânâm prîtaye nânâ
sapta-srotah pracakshate
13-52




そのみなもとを天界の 御足みあしに持ちしガンガーが
七聖者への愛のため おのれ自身をしちに分け
ななつの川の流れにて それぞれ清め与えらる
ゆえに聖なるこの場所を “サプタ スロータス”と称すなり



snâtvânusavanam tasmin
hutvâ câgnîn yathâ-vidhi
ab-bhaksha upas'ântâtmâ
sa âste vigataishanah
13-53




ドリタラーシュトラ日に三度みたび “サプタ スロータス”で沐浴し
規則に添いて丁重ていちょうに 祭火を捧げ献供し
すべての欲望 捨て去りて ただ水だけを口にして
寂静じゃくじょうの時〕 過ごし居り



jitâsano jita-s'vâsah
pratyâhrita-shad-indriyah
hari-bhâvanayâ dhvasta-
rajah-sattva-tamo-malah
13-54




座る姿勢と呼吸法 修得したる前王は
むっつの感官1.内に引き ハリを瞑想することで
ラジャス サットヴァ タマスなる みっつの煩悩ぼんのう滅ぼせり

1. 六つの感官(五つの感覚器官とマナス)。

174

十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


vijn'ânâtmani samyojya
Kshetrajn'e pravilâpya tam
brahmany âtmânam âdhâre
ghatâmbaram ivâmbare
13-55




自己のマナスをブッディに 傾注けいちゅうしたる前王は
それをジーヴァに帰入きにゅうして
からの花瓶に満つくうが あたかも天に溶けるごと
すべての基礎にあるぼんに おのがジーヴァを溶け込ます



dhvasta-mâyâ-gunodarko
niruddha-karanâs'ayah
nivartitâkhilâhâra
âste sthânur ivâcalah
tasyântarâo maivâhûh
sannyastâkhila-karmanah

13-56





食のすべてを放棄して マナスと感覚制御せし
ドリタラーシュトラ前王は
すべての因果いんが 脱却だっきゃくし マーヤーによるトリグナの
影響すべて断ち切りて るがぬ柱さながらに
不動のそうで座りたり ゆえにそなたはの者の
祈願の邪魔をすることを 決してしてはならぬなり



sa vâ adyatanâd râjan
paratah pan'came 'hani
kalevaram hâsyati svam
tac ca bhasmî-bhavishyati
13-57




おお大王よ前王は 今日から後の五日目に
自分自身が己が身を 自ら捨てることになり
脱ぎ捨てられし肉体は はかなく灰となりぬべし










175

十三章 ドリタラーシュトラの開眼かいげん


dahyamâne 'gnibhir dehe
patyuh patnî sahothaje
bahih sthitâ patim sâdhvî
tam agnim anu vekshyati
13-58




木の葉づくりのいおりにて つまの肉の身燃えあがり
外にたたずの妻の 貞婦ていふかがみガーンダーリー
つまに従い燃える火に 自らりて死するらん



viduras tu tad âs'caryam
nis'âmya kuru-nandana
harsha-s'oka-yutas tasmâd
gantâ tîrtha-nishevakah
13-59




ああクル族の後裔こうえい
その一方で聖ヴィドゥラ 歓喜かんき悲哀ひあい伴いし
驚嘆きょうたんすべき出来事を しかと見届けその後に
聖地を巡り礼拝し 遊行の旅を続けなん」



ity uktvâthâruhat svargam
nâradah saha-tumburuh
yudhishthhiro vacas tasya
hridi kritvâjahâc chucah
13-60




天の楽士(ガンダルヴァ)がお供せし 偉大な聖者ナーラダは
話し終えるとたちまちに 天上界に昇られり
ユディシュティラ大王は ナーラダ仙の教訓を
しかと心におさめると すべての嘆き捨て去りぬ



第十三章 終了





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