「ヴェーダ ヴィヤーサ口述（こうじゅつ）の　神の真譚（しんたん） 口伝（くでん）せん」
聖仙スータおもむろに　語り初めしその時に
長期の供儀（くぎ）に従事せる　聖賢たちの長老で
リグ ヴェーダを研鑽（けんさん）す　シャウナカ 彼(スータ)を賞賛（しょうさん）し
斯くのごとくに語りたり

シャウナカはかく申したり
「おお偉大なる聖スータ　祝福されし御方（おんかた）よ
サンヒーター(聖典 詩篇)の学識に　傑出したる御身（おんみ）ゆえ
ガンジス河のほとりにて　聖仙シュカが国王(パリークシット)に
お説きなされし神譚(バーガヴァタ プラーナ)を
我らのために語られよ

この神譚が語らるは　如何（いか）なる時代 場所なるや
如何なる動機（わけ）でなされしや
さらに聖仙ヴィヤーサは　誰の勧（すす）めに応（こた）えられ
サンヒーター(バーガヴァタ プラーナ)を編（あ）まれしや

彼の息子の聖シュカは　偉大なヨガの行者（ぎょうじゃ）ゆえ
平等観（びょうどうかん）に立脚（りっきゃく）し　差別（さべつ）の思い絶（た）えてなし
唯一者（ゆいいっしゃ）のみ崇敬し　自己に覚醒（めざ）めし聖シュカは
名を名乗られることもなく　あたかも愚者（ぐしゃ）のごとく見ゆ

遊行（ゆぎょう）のために森へ行く　息子の後を追（お）いかける
ヴィヤーサ仙を見かけると
水（みず）浴（あ）びしたる乙女（おとめ）らは　恥じらいて身を覆（おお）いたり
先に通りし聖シュカは　裸なりしに乙女（おとめ）らは
気にも留（と）めざる風情（ふぜい）なり
不審に思いヴィヤーサが　〈理由（わけ）は如何（いか）に〉と訊（たず）ねると
〈シュカの瞳は性（せい）を超え　男女の区別なきゆえに
童（わらべ）の如く澄みいたり
　なれど御身（おんみ）の視線には　性の差別が残りしに〉

クル ジャンガラの地を訪（と）うて　聖仙シュカが街（まち）なかを
あたかも愚者（ぐしゃ）か狂人（きょうじん）か　はたまた聾唖（ろうあ） 装（よそお）いて
流離（さすら）い歩く様（さま）を見し　ハスティナープラ住民は
如何でか(どうして)リシと認めしや

親愛捧ぐスータ師よ
ヴェーダの髄（ずい）を極（きわ）めたる　このプラーナの朗誦（ろうしょう）を
ガンガー河畔（かはん）で食を断（た）つ　パリークシットに届けたる
聖仙シュカと王仙(パリークシット)に
いかなる出会いありたるや
その劇的（げきてき）な邂逅（かいこう）を　篤（とく）とお語りくだされよ

神聖なりし聖シュカは　家長（かちょう）期（き）にある住（す）まいでは
牛乳搾（しぼ）る間だけ　戸口に立ちて聖化（せいか）さる

主への献身際立（きわだ）ちて　誉（ほま）れも高き帰依者なる
アビマンニュ息（そく） 王仙(パリークシット)に　まつわる稀有（けう）な物語
誕生の秘話（ひわ）語られよ　その素晴らしき生誕（せいたん）は
主の恩寵（おんちょう）にほかならず
ああスータ師よ語られよ　その生涯の様々（さまざま）を

パーンダヴァ朝（ちょう）の栄光を　弥（いや）(一層)高めたる皇帝が
ガンガー河畔（かはん）に座（ざ）を占（し）めて　何ゆえ食を断ちたるや
なぜに覇王（はおう）の栄（えい）を捨て　死の到来（とうらい）をただ待つや

敵でさえもが庇護（ひご）求め　彼の足下（そっか）にひざまずき
多くの富を捧げしに　パリークシットは何ゆえに
若き覇王（はおう）の栄を捨て　すべての放棄（ほうき） 望みしや
おおスータ師よ語られよ　命までをも断たんとす
おおその理由（わけ）を明（あ）かされよ

クリシュナ神へ帰依深く
献身奉仕する王(パリークシット)は
世界の幸と繁栄に　ただひたすらに尽力（じんりょく）し
私利を望まぬ高潔（こうけつ）な　君主を慕う国民（くにたみ）の
その信頼を振り切りて　ああ何ゆえに王仙（おうせん）は
わが身捨てんとなされしや

語りたまえよ聖スータ
すべての謎を解（と）き明し　我らに真（しん）を示されよ
この場に座せる御身（おんみ）こそ　ヴェーダ朗誦（ろうしょう） 除（のぞ）きては1.
全ての 奥義（おうぎ） 伝承（でんしょう）の　もっとも優（すぐ）る方（かた）なりと
我は得心（とくしん）せしゆえに　伏して懇願（こんがん）たてまつる」

≪聖仙スータ語られる≫
ユガの移行（いこう）の時期（とき）が来て　第三のユガ ドワーパラ
そが始まりしその時に　聖クリシュナの小部分
偉大なヨギー ヴィヤーサが　パラーシャラなる父をもち
サティヤヴァティーの子に生まる

ある朝のことヴィヤーサは　東の空が明（あ）け初（そ）めて
日が昇るのを拝しつつ
サラスワティーの聖流（せいりゅう）で　一人静かに身を清め
座（ざ）して瞑目（めいもく）したるなり

ヴィヤーサ デーヴァ聖仙は　過去と未来を知りつくし
すべて見通（みとお）すお方（かた）ゆえ　あまたの星霜（せいそう） 過ぎる間に
眼には見えざる力にて　定められたる道徳が
乱れ衰退（すいたい）する様（さま）を　つぶさにご覧（らん）なされたり

それらによりて人間の　力が次第に萎（な）えゆきて
信と徳なき者が増え　理知に乏（とぼ）しく短命に
陥（おちい）る者が多き様子（さま）　天眼（まなこ）に浮かび消えゆかず

不幸な人が多くなり　苦しむさまを天眼（てんがん）で
透視（とうし）なされしヴィヤーサは
すべての人が義（ぎ）(ダルマ)に目覚め
四姓（しせい）1.四住期（しじゅうき）2.遵守（じゅんしゅ）して　安寧（あんねい）な世を築（きず）くには
いかなる手立てあらんやと　思い巡（めぐ）らせ熟慮（じゅくりょ）さる

四人の主なる祭官（さいかん）の　ヴェーダの供儀（くぎ）が人々の
行為を浄化するさまを　ご覧になりしヴィヤーサは
供儀の功徳（くどく）を弘（ひろ）めんと　ただ一種なるヴェーダ書を
四（よっ）つの章に分けられて　教義（きょうぎ）の枝葉（えだは） 整理さる

ヴィヤーサ仙はヴェーダ書の　髄を選（よ）り分（わ）けリグ ヤジュル
サーマ アタルヴァ斯く名付け　四（よっ）つの章に分けられる
叙事詩（じょじし） プラーナ 古伝（こでん）書（しょ）は　第五ヴェーダと呼ばるなり

かくてヴェーダが分けられて
リグ ヴェーダ(詩又は讃歌)には聖仙の　パイラが任を与えられ
サーマ ヴェーダの詠唱は　聖ジャイミニが教えらる
ヤジュル ヴェーダ(祭詞)を会得（えとく）した　唯一の人と讃（たた）えらる
聖者ヴァイシャンパーヤナが　祭詞（さいし）の教授 託（たく）される

ダールナ子息スマントゥ　アタルヴァ ヴェーダ委（ゆだ）ねられ
ローマハルシャナ我が父が　叙事詩（じょじし）と古伝（こでん） 託される

ヴェーダ聖典託（たく）されし　聖仙たちはそれぞれを
さらに細かく組み立てて
弟子から弟子へ その弟子へ　学派によりて受け継がる

理知に乏（とぼ）しき者たちの　無明（むみょう）の闇を晴らさんと
憐れみ深きヴィヤーサは
ヴェーダの深き 御教えを
理解しやすく整理して　斯くの如くに編（あ）まれたり

そして女性やシュードラや
再生族（さいせいぞく）の堕落者（だらくしゃ）や(ドヴィジャ バンドゥ)1.
ヴェーダ聖典 聴聞を　許されざりし人々は
善を行う術（すべ）知らず
憐れみ深きヴィヤーサは　マハーバーラタ2.編纂（へんさん）し
光明の道示されて　それらの人を導かる

斯くの如くにヴィヤーサは　人々の幸 願われて
あらゆる手立（てだ）て尽くされり　ああそれなるにバラモンよ
師の胸奥（きょうおう）は充（み）たされず　鬱々（うつうつ）として愉（たの）しまず

ヴィヤーサ仙は胸奥が　充（み）たされぬまま清らかな
サラスワティーの河岸に　ひとり座（すわ）りて思索（しさく）さる
ダルマの本義（ほんぎ） 熟知（じゅくち）する　聖師は己（おの）が心中（しんちゅう）を
深く省（かえり）み呟（つぶや）かる

＜吾（われ）は厳しき誓いたて　ヴェーダ修（おさ）めて髄（ずい）を知り
祭火を捧げそしてまた　グルを敬（うやま）い よく仕え
戒律（かいりつ） 正（まさ）に遵守（じゅんしゅ）せり

そしてヴェーダの高邁（こうまい）な　趣旨（しゅし）つたえんと思い立ち
マハーバーラタ物語　編みて世（せ）人（じん）に与えしは
女性 シュードラ他の者(非再生者)が
それぞれの義務 為（な）す上の　標（しるべ）を示すためなりき

聖智（せいち）において卓越（たくえつ）し　神通力（じんずうりき）を備（そな）えたる
吾（われ）にしあれどこの日頃　心晴れぬは何故ぞ
ああそれなるはわが心(個我（こが）)
いまだ大我（たいが）(ブラフマン)を感知せず
梵我（ぼんが）一如（いちにょ）1.を覚（さと）り得（え）ぬ　蒙（もう）の証（あかし）でありたるや

吾が多くの人々に
主への奉仕(バクティ)の真髄（しんずい）を　語り尽くさぬ故（ゆえ）なるや
唯一（ゆいつ）の神に愛（め）でられて　悟り開きし聖者らの
帰依（きえ）全託（ぜんたく）(バクティ)の美徳こそ　慈悲を賜（たまわ）る基（もと）なるに＞

斯くの如くに聖仙が　不足（ふそく）の因（もと）を探（さぐ）らんと
己（おの）が心を省（かえり）みし　正（まさ）にそのときナーラダ(神仙)が
ヴィヤーサ仙と語るため　庵（いおり）の前に近づきぬ

ヴィヤーサ デーヴァ聖仙は　尊（たか）き神仙ナーラダが
庵（あん）の帳（とばり）を開（あ）けらるや　直（ただ）ちに立ちて懇（ねんご）ろに
心をこめて迎え入れ　礼節（れいせつ）つくし拝（はい）されり

第四章　終了