一巻 十四章 ユディシュティラの懸念けねん
第十四章【ユディシュティラの懸念けねん
14-1
sûta uvâca
samprasthite dvârakâyâm
jishnau bandhu-didrikshayâ
jn'âtum ca punya-s'lokasya
krishnasya ca viceshthitam
≪聖仙スータ語られる≫
主に随行ずいこうしアルジュナが ドワーラカーにつ目的は
ヤドゥの親族うからともがらの 安否あんぴ たずねるゆえなるが
善行ぜんぎょう御主みすクリシュナの まことすぐれし御事績ごじせき
見聞けんぶんせんがためなりき
14-2
vyatîtâh katicin mâsâs
tadâ nâyât tato 'rjunah
dadars'a ghora-rûpâni
nimittâni kurûdvahah
しかるにそのアルジュナは  さんか月が過ぎゆけど
其処そこから帰る気配けはいなし
ユディシュティラ大王は 戦慄せんりつすべき悪象あくしょう
凶兆きょうちょうとして現るを その眼でしかと見たるなり
14-3
kâlasya ca gatim raudrâm
viparyastartu-dharminah
pâpîyasîm nrinâm vârtâm
krodha-lobhânritâtmanâm
のりに従いめぐりくる 季節きせつ秩序ちつじょくつがえ
しき運命さだめ(カリユガ)到来とうらい
怒り 貪欲どんよく いつわりの 自己の思い(タマス)おおわれる
人類にとり最悪の 悲惨ひさんさまを見たるなり
177

一巻 十四章 ユディシュティラの懸念けねん
14-4
jihma-prâyam vyavahritam
s'âthhya-mis'ram ca sauhridam
pitri-mâtri-suhrid-bhrâtri-
dam-patînâm ca kalkanam
不正行為や裏切りが 商取引に用いられ
親しき友の間にも 術策さくや不信がからみ合う
父母や親族 兄弟ら さらに夫婦の間にも
絶えぬいさかい見聞きせり
14-5
nimittâny atyarishthâni
kâle tv anugate nrinâm
lobhâdy-adharma-prakritim
drishthvovâcânujam nripah
カリが近くにせまり来て 人々べて堕落だらくせり
貪欲どんよくなどの下劣げれつなる 傾向けいこうさらに深まりて
しき兆候ちょうこう いやまさ
それらを見たる大王は ビーマセーナに斯く言えり
14-6
yudhishthhira uvâca
sampreshito dvârakâyâm
jishnur bandhu-didrikshayâ
jn'âtum ca punya-s'lokasya
krishnasya ca viceshthitam
ユディシュティラは申されり 「吾らがおととアルジュナは
親族うから様子ようす見るためと 名聞みょうもん高きクリシュナの
神の御業みわざんがため ドワーラカーにおもむけり
14-7
gatâh saptâdhunâ mâsâ
bhîmasena tavânujah
nâyâti kasya vâ hetor
nâham vededam an'jasâ
然るに今や七月ななつきが 音沙汰おとさたもなく過ぎゆきぬ
ビーマセーナよおとうとの アルジュナはなぜ戻らぬや
吾が知らざる事柄で 帰れぬ理由わけが有り得るや
178

一巻 十四章 ユディシュティラの懸念けねん
14-8
api devarshinâdishthah
sa kâlo 'yam upasthitah
yadâtmano 'ngam âkrîdam
bhagavân utsisrikshati
神仙(ナーラダ)により知らされし
御主みすご自身の御意思にて 化身されたる肉体を
捨てられる時 来たりしや
14-9
yasmân nah sampado râjyam
dârâh prânâh kulam prajâh
âsan sapatna-vijayo
lokâs' ca yad-anugrahât
われわれの富 王国や 妻や生命いのちや子や孫や
敵に対する大勝利 死後の世界が約さるも
主の恩寵に他ならじ
14-10
pas'yotpâtân nara-vyâghra
divyân bhaumân sadaihikân
dârunân s'amsato 'dûrâd
bhayam no buddhi-mohanam
天に起これる異現象いげんしょう 地をおおいたる乱気象らんきしょう
これら世上の出来事が 吾の心を乱すなり
これらが示す諸々は 遠からず来る恐ろしき
吾らに迫る災難を 示す予告に違いなし
獅子のごとくに勇ましき ビーマよとくと見るがよい
14-11
ûrv-akshi-bâhavo mahyam
sphuranty anga punah punah
vepathus' câpi hridaye
ârâd dâsyanti vipriyam
ビーマセーナよ弟よ わが眼 腿 腕 絶え間なく
打ちふるえるは何故なにゆえぞ 胸で鼓動こどう高鳴たかなるは
こののち起きる不快なる 出来事告げるものならん
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14-12
s'ivaishodyantam âdityam
abhirauty analânanâ
mâm anga sârameyo 'yam
abhirebhaty abhîruvat
おお弟よ見るがいい
このジャッカルはのぼに 火をくごとく吠えている
恐れようともせぬ犬が 吾に向いてきば
14-13
s'astâh kurvanti mâm savyam
dakshinam pas'avo 'pare
vâhâms' ca purusha-vyâghra
lakshaye rudato mama
ああ勇ましき弟よ
人に役立つ乳牛が 吾の左を通り過ぎ
いやしき家畜(ロバなど)右旋うせんせり
そして涙を流しいる 吾の愛馬をごろうじろ
14-14
mrityu-dûtah kapoto 'yam
ulûkah kampayan manah
pratyulûkas' ca kuhvânair
vis'vam vai s'ûnyam icchatah
死を告ぐはとふくろうや その宿敵しゅくてきからすとが
まるで世界を滅ぼして 廃墟はいきょにせんとするごとく
不気味ぶきみな声で鳴き騒ぐ
吾の心はおののきて きょうきざしにおびゆなり
14-15
dhûmrâ dis'ah paridhayah
kampate bhûh sahâdribhih
nirghâtas' ca mahâms tâta
sâkam ca stanayitnubhih
暈輪うんりんにぼかされて あたり一面薄暗く
大地は山と共々に 激しき震動しんどう 繰り返す
ああいとおしき弟よ 渦巻うずま風雨ふうう 吹き荒れて
空には絶えず稲妻や 雷鳴響らいめいとどろわたるなり
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一巻 十四章 ユディシュティラの懸念けねん
14-16
vâyur vâti khara-spars'o
rajasâ visrijams tamah
asrig varshanti jaladâ
bîbhatsam iva sarvatah
激しく風が吹きすさび そが巻き上げし塵により
辺りが闇に閉ざされぬ
血が降るごとき禍事まがごと(凶事)が あたかも雲が湧くごとく
到る所に見受けらる
14-17
sûryam hata-prabham pas'ya
graha-mardam mitho divi
sasankulair bhûta-ganair
jvalite iva rodasî
もはや光を失いし あの太陽を見てごらん
空で惑星せめぎ合い 地は魔物らで満たされる
あたかも天地てんち 終焉しゅうえんの 〔時〕告げるごと妖火あやしび
不気味に光り輝けり
14-18
nadyo nadâs' ca kshubhitâh
sarâmsi ca manâmsi ca
na jvalaty agnir âjyena
kâlo 'yam kim vidhâsyati
大河や小川 湖が そして吾らの心まで
強く激しく波立ちて
ギーによりても御祭火ごさいかが 燃える事なきこのさま
如何いかなる〔時〕の襲来しゅうらいを 吾に告げんとするなるや
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一巻 十四章 ユディシュティラの懸念けねん
14-19
na pibanti stanam vatsâ
na duhyanti ca mâtarah
rudanty as'ru-mukhâ gâvo
na hrishyanty rishabhâ vraje
子牛は母のちち吸わず 雌牛めうしは乳を与えない
牡牛おうし牝牛めうしのその顔は しとど涙に濡れそぼち
ただ悲しげに鳴くばかり
牧場まきばで牛が楽しげに 草食くさはむ姿 最早もはやなし
14-20
daivatâni rudantîva
svidyanti hy uccalanti ca
ime jana-padâ grâmâh
purodyânâkarâs'ramâh
bhrashtha-s'riyo nirânandâh
kim agham dars'ayanti nah
社祠しゃしまつりし神々は 恐らくこの地捨てられて
涙流しつ去らるらん
王国や村 都市やその 鉱山そして苦行林くぎょうりん
すべてが光輝こうき失いて 陰鬱いんうつな気がただよいぬ
この兆候ちょうこうはこののちに いかなる災苦 我々に
降りかかるかを示すのか?
14-21
manya etair mahotpâtair
nûnam bhagavatah padaih
ananya-purusha-s'rîbhir
hînâ bhûr hata-saubhagâ
これら多くのきざし見て 吾の心をよぎるのは
聖クリシュナの御足おみあしで にはらざる最高の
栄光により輝きし 大地のほまれ消失し
《そのゆえなりや》と思うなり」
182

一巻 十四章 ユディシュティラの懸念けねん
14-22
iti cintayatas tasya
drishthârishthena cetasâ
râjn'ah pratyâgamad brahman
yadu-puryâh kapi-dhvajah
斯くの如くに現れし 凶兆を見た大王の
あれやこれやの思惑おもわくが 心の中で錯綜さくそう
ああバラモンよその時に
ドワーラカーからアルジュナが 王の御前みまえに帰り
14-23
tam pâdayor nipatitam
ayathâ-pûrvam âturam
adho-vadanam ab-bindûn
srijantam nayanâbjayoh
王の足下そっかにひざまずく
かつてのごとき勇姿ゆうしなく 弱々しげで悲しげで
うつむきし顔あげもせず 蓮華のごときその眼から
涙を流すアルジュナを 見たる大王驚きぬ
14-24
vilokyodvigna-hridayo
vicchâyam anujam nripah
pricchati sma suhrin madhye
samsmaran nâraderitam
明彩めいさいを欠き苦しげな アルジュナを見し国王は
ナーラダ仙の宣告せんこくを 思い起こすやおののきて
親族がいる只中ただなかで 斯くの如くにたずねたり
14-25
Yudhishthhira uvâca
kaccid ânarta-puryâm nah
sva-janâh sukham âsate
madhu-bhoja-das'ârhârha-
sâtvatândhaka-vrishnayah
「マドゥ ボージャやダシャーラや
アラ サートヴァタ アンダカや その名も高きヴリシュニ
ドワーラカーの城に住む 吾らの親しき親族は
過ぎゆく日々を幸せに お暮らしなされて居られしや?
183

一巻 十四章 ユディシュティラの懸念けねん
14-26
s'ûro mâtâmahah kaccit
svasty âste vâtha mârishah
mâtulah sânujah kaccit
kus'aly ânakadundubhih
卓越たくえつしたる貴人あてびとの 母方の祖父シューラセーナ
常に変わらず機嫌よく お過ごしなされて居られしや?
母方の伯父ヴァスデーヴァ そしてその他の叔父たちは
すこやかなる日常にちじょうを お送りなされて居られしや?
14-27
sapta sva-sâras tat-patnyo
mâtulânyah sahâtmajâh
âsate sasnushâh kshemam
devakî-pramukhâh svayam
姉妹しまいのごとく仲の良き 伯母デーヴァキーを中にした
七人の(ヴァスデーヴァ)の妻たちは
息子や義理の娘(息子の妻)らと 心静かに平安な
き日過ごしておられしや?
14-28 ・29
kaccid râjâhuko jîvaty
asat-putro 'sya cânujah
hridîkah sasuto 'krûro
jayanta-gada-sâranâh

âsate kus'alam kaccid
ye ca s'atrujid-âdayah
kaccid âste sukham râmo
bhagavân sâtvatâm prabhuh
悪名高あくみょうたかき息子(カムサ)にて 名を知られたるアーフカは
弟デーヴァカ共々に いかにお過ごしなされしや?
シャトゥルジトをはじめとし フリディーカはそのお子と
クリシュナの叔父アクルーラ ジャヤンタ ガダとサーラナや
皆々さまは健やかに お暮らしなされて居られしや?
ヤーダヴァ族のおさである 至福の権化ごんげバララーマ
つつがなき日々お過ごしか?
184

一巻 十四章 ユディシュティラの懸念けねん
14-30
pradyumnah sarva-vrishnînâm
sukham âste mahâ-rathah
gambhîra-rayo 'niruddho
vardhate bhagavân uta
ヴリシュニ族のほこりなる
偉大な戦士プラデュムナ(クリシュナの長子)
底知れぬ覇者はしゃ(勇士)アニルッダ(プラデュムナの息子)
神々こうごうしさがいや増して 幸せに満ちお暮らしか?
14-31
Sushenas' cârudeshnas' ca
sâmbo jâmbavatî-sutah
anye ca kârshni-pravarâh
saputrâ rishabhâdayah
チャールデーシュナ スシェーナ(ルクミニーの息子たち)
ジャーンバワティー息子なる
サーンバ そしてリシャバなど
クリシュナ神の偉大なる 卓越たくえつしたる御子みこたちや
そして彼らの息子たち
14-32 ・33
tathaivânucarâh s'aureh
s'rutadevoddhavâdayah
sunanda-nanda-s'îrshanyâ
ye cânye sâtvatarshabhâh

api svasty âsate sarve
râma-krishna-bhujâs'rayâh
api smaranti kus'alam
asmâkam baddha-sauhridâh
同じく御主みす随行者ずいこうしゃ シュルタデーヴァ ウッダヴァら
先頭にたつスナンダや ナンダをはじめサートヴァタの
すべてすぐれし者たちは 聖クリシュナやバララーマ
偉大な御主みす庇護ひごのもと 首尾しゅびく暮らし居られしや?
深ききずなで結ばれし 吾らのことを思い出し
安否消息あんぴしょうそく かれしや?
185

一巻 十四章 ユディシュティラの懸念けねん
14-34
bhagavân api govindo
brahmanyo bhakta-vatsalah
kaccit pure sudharmâyâm
sukham âste suhrid-vritah
バガヴァーンなるゴーヴィンダ(牛を保護する主)
ブラーフマナをうやまいて バクタ(帰依者)愛するお方なり
ドワーラカーにあるスダルマー(敬虔な祈りの会場)
親しき友や眷属けんぞくと 楽しき時を過ごさるや?
14-35 ・36
mangalâya ca lokânam
kshemâya ca bhavâya ca
âste yadu-kulâmbhodhâv
âdyo 'nanta-sakhah pumân

yad bâhu-danda-guptâyâm
sva-puryâm yadavo 'rcitâh
krîdanti paramânandam
mahâ-paurushikâ iva
すべての界の安寧あんねいに 寄与きよし繁栄させるため
マハーヴィシュヌをともないし 男性原理(プルシャ)クリシュナは
ヤドゥ王家の大海に たゆたう如く在りたもう

御主おんしゅの腕に護られし その恩寵で人々の
尊敬受けしヤーダヴァは あたかもハリの帰依者らが
至高の喜悦きえつ得しごとく ドワラカプリーの城郭じょうかく
安楽な日々過ごされる
14-37
yat-pâda-s'us'rûshana-mukhya-karmanâ
satyâdayo dvy-ashtha-sahasra-yoshitah
nirjitya sankhye tri-das'âms tad-âs'isho
haranti vajrâyudha-vallabhocitâh
サティヤバーマを始めとす 千を超えたる女性らは
御主みす御足みあしぬかずきて 献身奉仕捧ぐなり
インドラ神の妻こそが 受け取ることに相応ふさわしき
神の恵み(パーリジャータの樹)を彼女らは
当然のごと欲しがりて 持ちることをねだりたり
186

一巻 十四章 ユディシュティラの懸念けねん
14-38
yad bâhu-dandâbhyudayânujîvino
yadu-pravîrâ hy akutobhayâ muhuh
adhikramanty anghribhir âhritâm balât
sabhâm sudharmâm sura-sattamocitâm
ヤーダヴァ族の者たちは 御主おんしゅの腕に護られて
繁栄の日々過ごすうち おそれを知らぬ者となり
聖クリシュナの御威光ごいこうで 取得しゅとくなされしスダルマー(集会堂)
不敬の行為繰り返し ゆか み鳴らし闊歩かっぽせり
14-39
kaccit te 'nâmayam tâta
bhrashtha-tejâ vibhâsi me
alabdha-mâno 'vajn'âtah
kim vâ tâta ciroshitah
いとしき者よアルジュナよ 御身おみ体調たいちょう如何いかなるや?
吾の見たりしの顔に 昔の光り最早もはやなし
ああ弟よドワーラカーに 長く逗留とうりゅうしたる
軽蔑けいべつされし出来事や 不遜ふそんな態度とられしや?
14-40
kaccin nâbhihato 'bhâvaih
s'abdâdibhir amangalaih
na dattam uktam arthibhya
âs'ayâ yat pratis'rutam
よもやそなたは根拠こんきょなき 無駄むだ虚言きょげんまどわされ
なやむことなどありまい かくも憔悴しょうすいせし理由わけ
求め頼りて来た者と 取り交わしたる誓約せいやく
襤褸らんるのごとく打ち棄てて 不実ふじつしたる故なるや?
14-41
kaccit tvam brâhmanam bâlam
gâm vriddham roginam striyam
s'aranopasritam sattvam
nâtyâkshîh s'arana-pradah
そなたは保護を求めたる ブラーフマナや未成年
女性 老人 病む人や 牛やその他の生類しょうるい
素気無すげなてることをせず 庇護ひごを与えて守りしや?
187

一巻 十四章 ユディシュティラの懸念けねん
14-42
kaccit tvam nâgamo 'gamyâm
gamyâm vâsat-kritâm striyam
parâjito vâtha bhavân
nottamair nâsamaih pathi
或いは御身おみてきさざる 情事じょうじを持ちてふざけたり
たとえてきせし女性でも 不実な行為なしたとか
または帰郷ききょう途次とじにでも 名高き猛者もさと言えぬ者
そなたにおとる者とかに みじめな敗けをきっせしや?
14-43
api svit parya-bhunkthâs tvam
sambhojyân vriddha-bâlakân
jugupsitam karma kin'cit
kritavân na yad akshamam
やしなわるべきろうや子を 見捨ててなれのみしょくせしや?
はたまたそち唾棄だきすべき 不徳の行為おかせしや?
14-44
kaccit preshthhatamenâtha
hridayenâtma-bandhunâ
s'ûnyo 'smi rahito nityam
manyase te 'nyathâ na ruk
微笑み無くし取り乱し 面変おもがわりせるその顔に
かつての光りすでに無く 悲嘆にくれるそのさまは
そなたにとりて最愛の 常に心のうちに在り
親友であり親族の その御方おんかた(クリシュナ)永遠とこしえ
去りて行かれし悲しみと 苦悩くのうゆえではあるまいか?」
第十四章 終了
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