一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
第十三章【ドリタラーシュトラの開眼】
13-1
sûta uvâca
viduras tîrtha-yâtrâyâm
maitreyâd âtmano gatim
jn'âtvâgâd dhâstinapuram
tayâvâpta-vivitsitah
≪聖仙スータ語られる≫
ドリタラーシュトラ弟の ヴィドゥラは聖地巡礼で
マイトレーヤ聖者から 悟得の道を教えられ
希求せしことすべて得て ハスティナープラへ帰り来ぬ
13-2
yâvatah kritavân pras'nân
kshattâ kaushâravâgratah
jâtaika-bhaktir govinde
tebhyas' copararâma ha
マイトレーヤの面前で 多くの問答なすうちに
ヴィドゥラは御主クリシュナに 絶対の帰依培いて
師(マイトレーヤ)の御前から退去せり
13-3 ・4
tam bandhum âgatam drishthvâ
dharma-putrah sahânujah
dhritarâshthro yuyutsus' ca
sûtah s'âradvatah prithâ
gândhârî draupadî brahman
subhadrâ cottarâ kripî
anyâs ca jâmayah pândor
jn'âtayah sasutâh striyah
ああバラモンよ聞きたまえ
久方ぶりに王宮に 帰り来たりし彼(ヴィドゥラ)を見た
親しき縁につながりし ユディシュティラと弟ら
ドリタラーシュトラ サーティヤキ(ユユツ)
158
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
サンジャヤ クリパ クンティー妃
ドラウパディーやガーンダーリー
ウッタラー クリピー スバドラー
その他の者やその妻ら パーンダヴァ家の親戚や
息子を連れし婦人たち
13-5
pratyujjagmuh praharshena
prânam tanva ivâgatam
abhisangamya vidhivat
parishvangâbhivâdanaih
彼の帰宅に歓喜して 気力充ちたる親族は
急ぎヴィドゥラを出迎えり
礼儀正しく近づくと 御足に触れて恭礼し
共に安否を問い合いぬ
13-6
mumucuh prema-bâshpaugham
virahautkanthhya-kâtarâh
râjâ tam arhayâm cakre
kritâsana-parigraham
長き別離の悲しみの 想いの丈を語らいて
ヴィドゥラと共に人々は 愛の涙を流したり
而してのち大王は ヴィドゥラのために設えし
上席 勧め懇ろに 尊敬の礼捧げたり
13-7
tam bhuktavantam vis'rântam
âsînam sukham âsane
pras'rayâvanato râjâ
prâha teshâm ca s'rinvatâm
供応されし食を摂り 心地よき座で寛がる
ヴィドゥラを見たる大王は 恭敬の意を現わしつ
並み居る者の面前で 斯くのごとくに語りかく
159
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-8
yudhishthhira uvâca
api smaratha no yusmat-
paksha-cchâyâ-samedhitân
vipad-ganâd vishâgnyâder
mocitâ yat samâtrikâh
ユディシュティラは語りたり
「御身は記憶されたるや 迫る邪悪な魔の手から
庇いて厚く保護されし 御身の御手で育ちたる
この吾たちの生い立ちを?
毒の投与や放火など 降りかかりくる危難から
母と吾らが救わるは 御身の愛に他ならず
13-9
kayâ vrittyâ vartitam vas'
caradbhih kshiti-mandalam
tîrthâni kshetra-mukhyâni
sevitânîha bhûtale
一帯の土地あちこちを
遊歴されし叔父上 (ヴィドゥラは父パーンドゥ王の弟) は
如何なる国の聖地にて 根本原主クリシュナを
崇めて奉仕為されしや
如何なる術で献身を 為し遂げてそを保たるや
13-10
bhavad-vidhâ bhâgavatâs
tîrtha-bhûtâh svayam vibho
tîrthî-kurvanti tîrthâni
svântah-sthena gadâbhritâ
ああ偉大なる奉仕者よ
胸裡におわす主によりて 清められたる叔父上は
巡礼されしあちこちを 神聖な地に浄化さる
160
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-11
api nah suhridas tâta
bândhavâh krishna-devatâh
drishthâh s'rutâ vâ yadavah
sva-puryâm sukham âsate
恩愛深き叔父上よ 聖クリシュナを神として
帰依する友や親族や ドワーラカー城に住む人を
見たり はたまた噂など 見聞なされしことありや
ヤーダヴァ族の皆様は 楽しき日々をお過しや」
13-12
ity ukto dharma-râjena
sarvam tat samavarnayat
yathânubhûtam kramas'o
vinâ yadu-kula-kshayam
斯くのごとくに大王に 訊ねられたる聖ヴィドゥラ
体験したるそのすべて 順序を追いて語りたり
なれどヤドゥ家一族の 滅亡したるその様を
語らうことは省きたり
13-13
nanv apriyam durvishaham
nrinâm svayam upasthitam
nâvedayat sakaruno
duhkhitân drashthum akshamah
親族達の嘆く様 見るに耐えぬと思われし
ヴィドゥラはそれを語らざり
受け入れ難く耐え難き 苦痛伴うその事実
やがて何時かは人々の 口の端に乗り伝わると…
161
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-14
kan'cit kâlam athâvâtsît
sat-krito devavat sukham
bhrâtur jyeshthhasya s'reyas-krit
sarveshâm sukham âvahan
ハスティナープラの宮殿で 神のごとくに崇められ
彼(ヴィドゥラ)は快き時過ごされて 暫し逗留なされたり
時がすぎゆくその間に
兄(ドリタラーシュトラ)にとりての吉兆(解脱)が
すべての者の安寧を 齎すように導かる
13-15
abibhrad aryamâ dandam
yathâvad agha-kârishu
yâvad dadhâra s'ûdratvam
s'âpâd varsha-s'atam yamah
ヴィドゥラはヤマの化身にて 百年ほどの長き間を
呪いによりてシュードラの 肉の身纏い過ごされり
その長き間をアリヤマン(アディティの第二子)
ヤマに代わりて適切に 罪の処罰を代行す
13-16
yudhishthhiro labdha-râjyo
drishthvâ pautram kulan-dharam
bhrâtribhir loka-pâlâbhair
mumude parayâ s'riyâ
ユディシュティラ大王は 父の王国取り戻し
家系を繋ぐ王孫(パリークシット)を しかとその眼で見届けり
世界を守護す神のごと 兄弟たちの補佐により
栄誉と富と幸運で わが世の春を謳歌せり
162
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-17
evam griheshu saktânâm
pramattânâm tad-îhayâ
atyakrâmad avijn'âtah
kâlah parama-dustarah
斯くするうちに王達は 家庭に溺れ愛着し
栄華の夢に酔い痴れて 本来の自己(ジーヴァ)忘れ去る
うかうかと日を過ごすうち 〔時〕は流れてひと時も
同じに留まる事はなく 人知れぬ間に通り過ぐ
13-18
viduras tad abhipretya
dhritarâshthram abhâshata
râjan nirgamyatâm s'îghram
pas'yedam bhayam âgatam
それをよく知る聖ヴィドゥラ 兄に向いて告げにけり
「ああ兄上よご覧あれ 恐れし〔時〕が来たるなり
〈慣れ親しみしこの土地を 出発つべき刻が来たれり〉と
告げる兆しが見ゆるなり!
13-19
pratikriyâ na yasyeha
kutas'cit karhicit prabho
sa esha bhagavân kâlah
sarveshâm nah samâgatah
おお偉大なる至上主よ 永遠の〔時〕統べるのは
全能の主に他ならず これに対抗する術を
如何なる者も持たぬゆえ この世のどこに居ようとも
すべての〔時〕は容赦なく 我らの上に訪れる
163
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-20
yena caivâbhipanno 'yam
prânaih priyatamair api
janah sadyo viyujyeta
kim utânyair dhanâdibhih
而して〔時〕来たるなば この世に生きる人間は
命でさえもそしてまた 最愛の妻 子でさえも
況や富やその他の 日常のもの悉く
即座にすべて奪われる
13-21
pitri-bhrâtri-suhrit-putrâ
hatâs te vigatam vayam
âtmâ ca jarayâ grastah
para-geham upâsase
我らが愛す父や子や 兄弟や友そしてまた
有志 親族 息子らは 戦乱により殺されり
そして兄者の肉体は 老衰により蝕まれ
他者の住居に留まりて ただ漫然と生きるのみ
13-22
andhah puraiva vadhiro
manda-prajn'âs' ca sâmpratam
vis'îrna-danto mandâgnih
sarâgah kapham udvahan
生まれながらの盲人が すでに聾者となられたり
今や歯までが弱くなり 胃は消化すら儘ならず
赤く染まりし痰を吐き そして才知は鈍りたり
164
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-23
aho mahîyasî jantor
jîvitâs'â yathâ bhavân
bhîmâpavarjitam pindam
âdatte griha-pâlavat
ああ生類のなんとまあ 生きんがための欲望が
強きことよと驚きぬ
兄者は正にそのために ビーマが与う食料を
飼い犬のごと受け取りぬ
13-24
agnir nisrishtho dattas' ca
garo dârâs' ca dûshitâh
hritam kshetram dhanam yeshâm
tad-dattair asubhih kiyat
住処に放火されたうえ 毒を盛られしパーンドゥは
妻は世人の面前で 酷き侮辱を受けにけり
そして領地や財産を 強奪せしはそも誰ぞ?
《あなたの息子たちですよ》
そのパーンドゥの情けにて 生命長らえ生きること
如何なる価値が御座ろうや!
13-25
tasyâpi tava deho 'yam
kripanasya jijîvishoh
paraity anicchato jîrno
jarayâ vâsasî iva
ああそれなるに兄上は その肉の身が愛しくて
生きなんとする欲望の なんと憐れに強きこと
願わぬことであろうとも 歳を重ねることにより
襤褸のごとく潮垂れて やがて死すこと必定なり
165
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-26
gata-svârtham imam deham
virakto mukta-bandhanah
avijn'âta-gatir jahyât
sa vai dhîra udâhritah
世俗の縁を解き放ち あらゆるものを捨て去りて
知られざる地に一人行き 無用になりし肉の身を
執着をせず脱ぎ捨てて 顧みもせぬ彼の人は
昔も今も変わりなく“思慮ある者”と呼ばるなり
13-27
yah svakât parato veha
jâta-nirveda âtmavân
hridi kritvâ harim gehât
pravrajet sa narottamah
自分自身で達観し 或いは他から聴かされて
世事を超脱したる者 心にハリをしかと置き
家から出て唯ひとり 遊行の果て(終着地)に向かう者
そは“最高の知者”なりと 世の称賛を浴びるなり
13-28
athodîcîm dis'am yâtu
svair ajn'âta-gatir bhavân
ito 'rvâk prâyas'ah kâlah
pumsâm guna-vikarshanah
ゆえに御身は唯一人 身内に秘めて密かに
北(ヒマラヤ)に向かいて発たるべし これから先の時代では
恐らくこれら有徳を すべて喪失するならん」
13-29
evam râjâ vidurenânujena
prajn'â-cakshur bodhita âjamîdhah
chittvâ sveshu sneha-pâs'ân dradhimno
nis'cakrâma bhrâtri-sandars'itâdhvâ
斯くの如くに弟の ヴィドゥラによりて諭されし
ドリタラーシュトラ前王は ついに心眼開きたり
身内に持ちし愛着を 強き覚悟で断ち切ると
弟ヴィドゥラに導かれ 北の国へと出立す
166
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-30
patim prayântam subalasya putrî
pati-vratâ cânujagâma sâdhvî
himâlayam nyasta-danda-praharsham
manasvinâm iva sat samprahârah
夫の盲に殉じると 誓いを立てて嫁ぎたる
貞婦の鑑ガーンダーリー 夫の遊行に従いて
ヒマラヤ山に向かいたり 世俗の絆切り捨てし
正しき智慧のある者は 〔真の歓喜〕を得らるべし
13-31
ajâta-s'atruh krita-maitro hutâgnir
viprân natvâ tila-go-bhûmi-rukmaih
griham pravishtho guru-vandanâya
na câpas'yat pitarau saubalîm ca
ユディシュティラ大王は 目覚めてすぐに朝行の
祭火を捧げ献供し 次いで胡麻 牛 土地 金で
ブラーフマナ(バラモン)を表敬し
次いで長への挨拶に その住まいへと向かいたり
なれど何処を捜せども 二人のおじ(伯父と叔父)と伯母君を
ついに見ること叶わざり
13-32
tatra san'jayam âsinam
papracchodvigna-mânasah
gâvalgane kva nas tâto
vriddho hînas' ca netrayoh
不安に駆られ大王は そこに座したるサンジャヤに
斯くの如くに訊ねたり
「ガーヴァルガニ息サンジャヤよ 年老い 更に盲目の
吾らが伯父の前王は 何処にお出なされしや
167
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-33
ambâ ca hata-putrârtâ
pitrivyah kva gatah suhrit
api mayy akrita-prajn'e
hata-bandhuh sa bhâryayâ
âs'amsamânah s'amalam
gangâyâm duhkhito 'patat
そして常々息子らが 死せるを嘆き悲しみし
伯母は何処に居られるや
常に我らを庇われし 叔父のヴィドゥラは何処くんぞ
愚かな吾の仕打ちにて 親族をみな殺されし
幸い薄き伯父 伯母は 傷の深さを示めさんと
ガンジス河に己が身を 自ら投じたまいしや
13-34
pitary uparate pândau
sarvân nah suhridah s'is'ûn
arakshatâm vyasanatah
pitrivyau kva gatâv itah
父パーンドゥに死別せし 幼き子供吾々に
降りかかりくる危難から すべてを守り下されし
わが親族のおじ(伯父 叔父)たちは
この王宮をあとにして 一体何処に行かれしや」
13-35
s'uta uvâca
kripayâ sneha-vaiklavyât
sûto viraha-kars'itah
âtmes'varam acakshâno
na pratyâhâtipîditah
≪聖仙スータ語られる≫
仕える主を突然に 失いたりしサンジャヤは
あまりに強き愛ゆえに 別離の情にさいなまれ
悲嘆 苦痛に遮られ ひと言たりと話せざり
168
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-36
vimrijyâs'rûni pânibhyâm
vishthabhyâtmânam âtmanâ
ajâta-s'atrum pratyûce
prabhoh pâdâv anusmaran
気を取り直しサンジャヤは 自己を知性で制御して
両手で涙拭きとると 主人の御足思いつつ
斯くのごとくに大王に 声詰まらせて申し上ぐ
13-37
san'jaya uvâca
nâham veda vyavasitam
pitror vah kula-nandana
gândhâryâ vâ mahâ-bâho
mushito 'smi mahâtmabhih
サンジャヤは斯く申したり 「氏族の誇る大王よ!
王の伯父上 伯母上の 決意をわれは知らざりき
知性に富める人たちに われは翻弄されにけり」
13-38
athâjagâma bhagavân
nâradah saha-tumburuh
pratyutthâyâbhivâdyâha
sânujo 'bhyarcayan munim
そこへ聖なるナーラダが 天の楽人(ガンダルヴァ)伴いて
その場に顕現なされたり
王は弟共々に 即座に立ちて神仙を
礼儀正しく出迎えて 恭敬の礼捧げらる
そののち王は丁重に 神仙に斯く申したり
169
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-39
yudhishthhira uvâca
nâham veda gatim pitror
bhagavan kva gatâv itah
ambâ vâ hata-putrârtâ
kva gatâ ca tapasvinî
ユディシュティラは申されり
「二人のおじの行き先を われは知る事叶わざり
ここを出たるおじたちは 何処に行かれたまいしや
息子亡くせし悲しみが いまだ癒えざる伯母上は
何処に行かれたまいしや おお神仙よお説きあれ
13-40
karnadhâra ivâpâre
bhagavân pâra-dars'akah
athâbabhâshe bhagavân
nârado muni-sattamah
あたかも舵手が荒海で 巧みに舵をとるごとく
聖なる尊師御身こそ 彼岸1.を示すお方なり」
有徳のムニ(聖仙)の最高者 至福の権化ナーラダは
王の言葉を聞きたまい 斯くのごとくに語られり
注 |
1. |
彼岸… |
(梵)pâramitâ(波羅蜜多)の訳語。 |
13-41
nârada uvâca
mâ kan'cana s'uco râjan
yad îs'vara-vas'am jagat
lokâh sapâlâ yasyeme
vahanti balim îs'ituh
sa samyunakti bhûtâni
sa eva viyunakti ca
ナーラダ仙は申されり
「ユディシュティラ大王よ 誰のことをも嘆くまじ
この世はすべて至上主の ご意思によりて支配さる
主が恩寵を与えられ 人類はみな至上主に
供物を運び奉献す 全能なりし支配者は
生き物たちを結びつけ 御業によりて断ち切らる
170
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-42
yathâ gâvo nasi protâs
tantyâm baddhâs' ca dâmabhih
vâk-tantyâm nâmabhir baddhâ
vahanti balim îs'ituh
鼻に通さる縄索(綱)で 束縛されし牛群れが
太き絆で束ねられ 重き荷物を担うごと
ヴェーダ規範(原則)の形態で 固定されたる人類は
支配者である至上主の 御足に供物奉献す
13-43
yathâ krîdopaskarânâm
samyoga-vigamâv iha
icchayâ krîdituh syâtâm
tathaives'ecchayâ nrinâm
この世で起きる諸々は すべて御主のご意思なり
離合集散繰り返す 人間の世の有り様も
楽しむ人の意思により 集められたる遊び具の
果ては捨てらる様のごと 有為転変は人の常
13-44
yan manyase dhruvam lokam
adhruvam vâ na cobhayam
sarvathâ na hi s'ocyâs te
snehâd anyatra mohajât
たとえそなたが人類を 久遠の者に思いても
はたまた無常を思いても 或いは共に在り得ずと
心を千々に乱すまじ それらはすべて無明から
生まれ育ちし情ゆえに 悩むことではなかりけり
171
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-45
tasmâj jahy anga vaiklavyam
ajn'âna-kritam âtmanah
katham tv anâthâh kripanâ
varterams te ca mâm vinâ
《彼ら(伯父 伯母)は吾を離れては
生きる術なき身の上》と 寄る辺無き身を憐れみし
混乱したる大王よ! そなたは自己の作りたる
無明の情 放棄せよ!
13-46
kâla-karma-gunâdhîno
deho 'yam pân'ca-bhautikah
katham anyâms tu gopâyet
sarpa-grasto yathâ param
人が大蛇に飲みこまれ 嚥み下されしその時に
如何でか(どうして)
他人を救えよう
その真実と同様に 五大元素で成り立ちて
〔時〕と〔カルマ(行為)〕と〔トリグナ(三つの要素)〕に
支配されたる肉体に 他を守る術あり得るや
13-47
ahastâni sahastânâm
apadâni catush-padâm
phalgûni tatra mahatâm
jîvo jîvasya jîvanam
手の無きもの(爬虫類など)は 有るものの
足無きもの(植物など)は有足の 小さきものは大物の
食糧となり食されて 他の生物を生かすなり
斯くのごとくにこの世では
神の摂理(自然の法則)が連綿と 生きる要素を繋ぐなり
172
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-48
tad idam bhagavân râjann
eka âtmâtmanâm sva-drik
antaro 'nantaro bhâti
pas'ya tam mâyayorudhâ
斯くのごとくにああ王よ すべてのものは御主なり
内(フリダヤ)にありては永久に
〔見る者(パラマートマ)〕として輝かれ
その分身のジーヴァの 個我の姿は〔見らる者〕
なれど姿は異なるも パラマートマもジーヴァも
唯一至高の御主なり マーヤーによる作用にて
多様な姿顕さる 御主をとくと認知せよ!
13-49
so 'yam adya mahârâja
bhagavân bhûta-bhâvanah
kâla-rûpo 'vatîrno 'syâm
abhâvâya sura-dvishâm
おお大王よ聞きたまえ 至高の御主クリシュナが
全生物に安寧を もたらすために意図なされ
意思に逆う人々の 無法を排除するために
〔時の三相〕駆使なされ この地に降臨なされたり
13-50
nishpâditam deva-krityam
avas'esham pratîkshate
tâvad yûyam avekshadhvam
bhaved yâvad ihes'varah
すでに化身の目的を 果たし終えたるクリシュナは
最後に残る総仕上げ 静かに見守りたまいけり
そして御主が現世に 居られる限りそなた等は
住みたる土地に留まりて 〔時〕の至るを待たるべし
173
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-51
dhritarâshthrah saha bhrâtrâ
gândhâryâ ca sva-bhâryayâ
dakshinena himavata
rishînâm âs'ramam gatah
ドリタラーシュトラ ガーンダーリー(妻)
弟ヴィドゥラ連れ立ちて ヒマラヤ山の南方で
聖者のために結ばれし 苦行林(庵)へと向かいたり
13-52
srotobhih saptabhir yâ vai
svardhunî saptadhâ vyadhât
saptânâm prîtaye nânâ
sapta-srotah pracakshate
その源を天界の 御足に持ちしガンガーが
七聖者への愛のため 己れ自身を七に分け
七つの川の流れにて それぞれ清め与えらる
ゆえに聖なるこの場所を “サプタ スロータス”と称すなり
13-53
snâtvânusavanam tasmin
hutvâ câgnîn yathâ-vidhi
ab-bhaksha upas'ântâtmâ
sa âste vigataishanah
ドリタラーシュトラ日に三度 “サプタ スロータス”で沐浴し
規則に添いて丁重に 祭火を捧げ献供し
すべての欲望 捨て去りて ただ水だけを口にして
〔寂静の時〕 過ごし居り
13-54
jitâsano jita-s'vâsah
pratyâhrita-shad-indriyah
hari-bhâvanayâ dhvasta-
rajah-sattva-tamo-malah
座る姿勢と呼吸法 修得したる前王は
六つの感官1.内に引き ハリを瞑想することで
ラジャス サットヴァ タマスなる 三つの煩悩滅ぼせり
174
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-55
vijn'ânâtmani samyojya
Kshetrajn'e pravilâpya tam
brahmany âtmânam âdhâre
ghatâmbaram ivâmbare
自己のマナスをブッディに 傾注したる前王は
それをジーヴァに帰入して
空の花瓶に満つ空が あたかも天に溶けるごと
すべての基礎にある梵に 己がジーヴァを溶け込ます
13-56
dhvasta-mâyâ-gunodarko
niruddha-karanâs'ayah
nivartitâkhilâhâra
âste sthânur ivâcalah
tasyântarâo maivâhûh
sannyastâkhila-karmanah
食のすべてを放棄して マナスと感覚制御せし
ドリタラーシュトラ前王は
すべての因果 脱却し マーヤーによるトリグナの
影響すべて断ち切りて 揺るがぬ柱さながらに
不動の相で座りたり ゆえにそなたは彼の者の
祈願の邪魔をすることを 決してしてはならぬなり
13-57
sa vâ adyatanâd râjan
paratah pan'came 'hani
kalevaram hâsyati svam
tac ca bhasmî-bhavishyati
おお大王よ前王は 今日から後の五日目に
自分自身が己が身を 自ら捨てることになり
脱ぎ捨てられし肉体は 儚く灰となりぬべし
175
一巻 十三章 ドリタラーシュトラの開眼
13-58
dahyamâne 'gnibhir dehe
patyuh patnî sahothaje
bahih sthitâ patim sâdhvî
tam agnim anu vekshyati
木の葉造りの庵にて 夫の肉の身燃えあがり
外に佇む彼の妻の 貞婦の鑑ガーンダーリー
夫に従い燃える火に 自ら入りて死するらん
13-59
viduras tu tad âs'caryam
nis'âmya kuru-nandana
harsha-s'oka-yutas tasmâd
gantâ tîrtha-nishevakah
ああクル族の後裔よ
その一方で聖ヴィドゥラ 歓喜と悲哀伴いし
驚嘆すべき出来事を しかと見届けその後に
聖地を巡り礼拝し 遊行の旅を続けなん」
13-60
ity uktvâthâruhat svargam
nâradah saha-tumburuh
yudhishthhiro vacas tasya
hridi kritvâjahâc chucah
天の楽士(ガンダルヴァ)がお供せし 偉大な聖者ナーラダは
話し終えると忽ちに 天上界に昇られり
ユディシュティラ大王は ナーラダ仙の教訓を
しかと心に収めると すべての嘆き捨て去りぬ
第十三章 終了
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