はじめに


 私はインド哲学を系統的に学んだことはありませんし、サンスクリット語が
堪能というわけでもありません。私にありますのは、クリシュナ神への思慕、
そして絶対なる帰依、只それだけなのです。

 <クリシュナ神に近づきたい、もっともっとクリシュナ神を深く知りたい、
真理を探究したい、そして心ゆくまでクリシュナ讃歌を朗誦したい>
 この想いが高まって、とうとう、バーガヴァタ プラーナ(神譚詩)を韻文
調で、しかも、サンスクリット語から直接和訳したいという、大それた願い
を持つようになりました。
 この私の無謀ともいえる企てに、帰依者をこよなく愛されるクリシュナ神
が応えてくださいました。
 そして此の度、限りない御恩寵とお導きによって、12巻ある膨大な神譚詩、
バーガヴァタ プラーナの第一巻を、刊行する運びとなりました。

 ご存知のように、第五ヴェーダと位置付けられるプラーナは、18種伝えら
れており、〔宇宙の創造〕〔宇宙の周期的な破壊と創造〕〔神々と聖仙の系譜〕
〔マヌに始まる人類記〕〔王朝の歴史〕という、五つの主題から成るといわれ
ております。このバーガヴァタ プラーナは、18種あるプラーナの中でも、
抜きん出てこの主題が豊富に語られていると言われており、クリシュナ神
バガヴァットとして崇めるバーガヴァタ派の聖譚詩で、18,000詩句で謳わ
れております。

 本著【聖クリシュナの神譚詩】を繙かれたお方は、すでにバガヴァット
ギーターを熟読し、マハーバーラタ大叙事詩などを、玩味なさったお方かと
拝察いたします。
 或いはクリシュナ神に導かれて、ごく自然に、手にお取りになったのかも
しれません。
 バーガヴァタ プラーナの学術的な分析とか、その思想とかを詳らかに書
きしるすことは、私にはできませんが、このバーガヴァタ プラーナこそは、
暗黒の世といわれる現世、カリユガに生きる者を救い上げんがために、お与
え下さいましたクリシュナ神の御恩寵であり、高々と掲げられた一本の松明
であると固く信じ、擬古文体を模して翻訳いたしました。


krishne sva-dhâmopagate
dharma-jn'ânâdibhih saha
kalau nashtha-dris'âm esha
purânârko 'dhunoditah

至上のしゅなるクリシュナは のりと知識と諸々もろもろ
すべて引きつれ永遠の 常世とこよ帰郷ききょうされたもう
 

 

(ドワーパラ ユガの終焉を示す)
くてカリユガ始まりて 諸人もろびとの闇 深まれり
このとき天に燦燦さんさんと"聖プラーナ"があらわれり
【第343節】


 【聖クリシュナの神譚詩】これを韻文調で翻訳しましたのは、この本を
<クリシュナ讃歌の朗誦用>にと意図したからに他なりません。
 この趣旨にご賛同くださいます方は、是非、朝な夕なにこれを朗誦して
ください。そして、聴聞を望まれる方には、何卒その朗誦を聴かせてあげ
てください。
 これこそが、翻訳をお導きくださり、出版への道程を辿らせてください
ましたクリシュナ神の、大いなる御心であると確信致しております。

 身にあまる御恩寵を戴き、この本の刊行に携わる事の出来た慶びと幸せ
を、遍在の神に衷心より感謝を申し上げます。

 同様にクリシュナ神に深く帰依し、この本の刊行のために絶大なる奉仕を
捧げられました、安倍春美さん、藤巻智一、加奈子夫妻、小野塚律子さん、
そして夫 坂本裕の名を明記し、その誉れを讃えます。


                     2009年 初冬

                   V.K.K.祭主 坂本弘子