十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう
第十五章【主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう
15-1
sûta uvâca
evam krishna-sakhah krishno
bhrâtrâ râjn'â vikalpitah
nânâ-s'an'kâspadam rûpam
krishna-vis'lesha-kars'itah
≪聖仙スータ語られる≫
斯くの如くにアルジュナが 親しき友のクリシュナと
引き離されて苦悶くもんする 姿を見たる兄王は
心を痛めきこみて 数多あまたの問いをはっしたり
15-2
s'okena s'ushyad-vadana-
hrit-sarojo hata-prabhah
vibhum tam evânusmaran
nâs'aknot pratibhâshitum
全能ぜんのうの神 クリシュナに 思いをくすアルジュナは
悲哀ひあい 苦痛くつうにさいなまれ 蓮華のごときかんばせ
心がしおからびて
輝く光り喪失そうしつし 兄王からのこまやかな
多岐たきわたれる問いかけに 答えるすべを持たざりき
15-3
kricchrena samstabhya s'ucah
pâninâmrijya netrayoh
parokshena samunnaddha-
pranayautkanthhya-kâtarah
肉眼で見られなきクリシュナに ますます強く愛着し
憧憬どうけい ふかまるばかりにて 心は千々ちぢに乱れたり
過酷かこくな苦痛悲しみで 涙滂沱ぼうだと流れるを
ようやく抑えアルジュナは 指先でそをぬぐいたり
189

十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう
15-4
sakhyam maitrîm sauhridam ca
sârathyâdishu samsmaran
nripam agrajam ity âha
bâshpa-gadgadayâ girâ
戦車の御者ぎょしゃを始めとし その友情やいつくしみ
親しき畏友いゆうクリシュナに 思いがつのるアルジュナは
涙で言葉 まらせつ ユディシュティラ兄王に
斯くの如くに語りたり
15-5
arjuna uvâca
van'cito 'ham mahâ-râja
harinâ bandhu-rûpinâ
yena me 'pahritam tejo
deva-vismâpanam mahat
アルジュナは斯く申したり
「おお兄王よ聞きたまえ
親族として友として 姿られしクリシュナに
吾はあわれに捨てられり
神々さえも驚きし
卓越たくえつしたる武勇ぶゆう 御主おんしゅと共に消え失せぬ
15-6
yasya kshana-viyogena
loko hy apriya-darshanah
ukthena rahito hy esha
mritakah procyate yathâ
愛慕あいぼするクリシュナの 姿くせし瞬間に
すべての界が色せて 廃墟はいきょの如くなりにけり
取り残されしこの吾は いわば死体と同じこと
語る言葉もうしないぬ
190

十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう
15-7
yat-sams'rayâd drupada-geham upâgatânâm
râjn'âm svayamvara-mukhe smara-durmadânâm
tejo hritam khalu mayâbhihatas' ca matsyah
sajjîkritena dhanushâdhigatâ ca krishnâ
その御方おんかた(クリシュナ)の保護により
ドラウパディーの婿選むこえりで ドゥルパダ王の宮殿に
たれる王侯おうこう 王子らの 力をしのぎ打ち勝てり
吾が張りたる弓と矢で まとさかなくだけ散り
ドラウパディーをめとりたり
15-8
yat-sannidhâv aham u khândavam agnaye 'dâm
indram ca sâmara-ganam tarasâ vijitya
labdhâ sabhâ maya-kritâdbhuta-s'ilpa-mâyâ
digbhyo 'haran nripatayo balim adhvare te
インドラ神にひきいらる 神軍団かみぐんだんに勝てたのも
カーンダヴァの森林を アグニの神に捧げしも
るいなき幻術じゅつを仕掛けたる 公会堂(マヤ造営の)が得られしも
そして御身おんみ(兄王)四方しほうから 供儀くぎ御供ごくうが届きしも
すべて御主おんしゅのおかげなり
15-9
yat-tejasâ nripa-s'iro-'nghrim ahan makhârtham
âryo 'nujas tava gajâyuta-sattva-vîryah
tenâhritâh pramatha-nâtha-makhâya bhûpâ
yan-mocitâs tad-anayan balim adhvare te
シヴァの祭儀さいぎ布施ふせ(ジャラーサンダからの)として
献供けんきょうされる目的で
数多あまたの地から王族が とらえて連れて来られたり
一万頭の象のごと 力と武勇あわせ持つ
御身おんみ(兄王)の誇る弟(ビーマ)が 聖クリシュナの力にて
ジャラーサンダを成敗せいばいし 許多あまた捕虜ほりょを解放す
自由になりし王たちは 御身おんみ(兄王)の供儀にさん
献饌けんせんをして感謝せり
191

十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう
15-10
patnyâs tavâdhimakha-klpta-mahâbhisheka-
s'lâghishthha-câru-kabaram kitavaih sabhâyâm
sprishtham vikîrya padayoh patitâs'ru-mukhyâ
yas tat-striyo 'krita-hates'a-vimukta-kes'âh
ラージャスーヤの式典で 聖水により清めらる
美しき束髪そくはつを 悪漢あっかんどもが賭博場とばくば
手荒くつか冒涜ぼうとく
ドラウパディーは泣きながら 主の御足おみあしにすがりたり
主はそののちの戦い(クルクシェートラ)
の妻たちを(夫を殺し)寡婦かふにして
く呪い(ドラウパディーの呪い)成就じょうじゅさる
15-11
yo no jugopa vana etya duranta-kricchrâd
durvâsaso 'ri-racitâd ayutâgra-bhug yah
s'âkânna-s'ishtham upayujya yatas tri-lokîm
triptâm amamsta salile vinimagna-sanghah
ドゥルヨーダナの示唆しさにより 吾らを困窮こんきゅうさせるため
一万人の食う人(弟子)を ひきいる聖仙ドゥルヴァーサス
森に到着とうちゃくいたしたり
常に吾らを守護される 主は食卓の器から
残滓ざんし(米 野菜の)を見つけしょくされり
ゆえに聖者が引き連れし 一万人の弟子たちは
川で沐浴もくよくしたる
三界さんがいすべて満たされし 感覚おぼえ満腹まんぷく1.
1. 三界すべて満たされし感覚おぼえ満腹す…
    すべてに遍在される主が満腹されたので、主の中に在る三界
    のすべてが満たされ、弟子の一人ひとりも満腹感を覚えた。
192

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15-12
yat-tejasâtha bhagavân yudhi s'ûla-pânir
vismâpitah sagirijo 'stram adân nijam me
anye 'pi câham amunaiva kalevarena
prâpto mahendra-bhavane mahad-âsanârdham
パールヴァティ(妻)ともないて 手にほこ持たるシヴァ神は
吾の力闘ちからに驚かれ ご自身の持つアストラ(武器)
自ら与え授けらる
他の神々もまた然り 各種の武器を授けらる
そしてが身は肉体にくのまま インドラ神の神殿で
玉座ぎょくざかち与えらる
聖クリシュナのご威光いこうで これらのえを得たるなり
15-13
tatraiva me viharato bhuja-danda-yugmam
gândîva-lakshanam arâti-vadhâya devâh
sendrâh s'ritâ yad-anubhâvitam âjamîdha
tenâham adya mushitah purushena bhûmnâ
インドラ神の天界で 楽しき余暇よかを過ごすとき
神々ひきいインドラが ニヴァータカヴァチャ殺すため
ガーンディーヴァの弓を持ち 主の御力みちからを戴きて
力と武器をあわせ持つ 吾を頼りて来られたり
ああそれなるに兄王よ 今 現在のこの吾は
至高の神のクリシュナに しりぞけられて無力なり
15-14
yad-bândhavah kuru-balâbdhim ananta-pâram
eko rathena tatare 'ham atîrya-sattvam
pratyâhritam bahu dhanam ca mayâ pareshâm
tejâs-padam manimayam ca hritam s'irobhyah
制覇せいはしがたきカウラヴァの てなき海を唯一人
戦車に乗りて渡れしは 親しき従兄弟いとこクリシュナが 
強き味方の故なりき 多くの富(ヴィラータ王の牛)を取り戻し
敵からりし宝石を 持ち帰りたる事なども
光明のもと クリシュナが みちびかれたるおかげなり
193

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15-15
yo bhîshma-karna-guru-s'alya-camûshv adabhra-
râjanya-varya-ratha-mandala-manditâsu
agrecaro mama vibho ratha-yûthapânâm
âyur manâmsi ca dris'â saha oja ârcchat
ビーシュマ カルナ ドローナや シャリア率いる軍団で
武士階級の白眉はくびなる 多くの武士が二輪車で
円陣えんじんを組み居並いならびぬ
おお吾が兄の大王よ わが前に座すクリシュナは(御者として)
戦車の指揮をする者の 寿命じゅみょうと心そしてまた
ちから戦意せんい 一瞥いちべつで うばくしてしまわれり
15-16
yad-dohshu mâ pranihitam guru-bhîshma-karna-
naptri-trigarta-s'alya-saindhava-bâhlikâdyaih
astrâny amogha-mahimâni nirûpitâni
nopaspris'ur nrihari-dâsam ivâsurâni
師のドローナやビーシュマや ブーリシュラヴァー
スシャルマー王 カルナ シャリアやバーフリーカ
ジャヤドラタ王 そのほかの
無敵むてきの戦士 王たちが 放つとがり矢(戦闘用の鋭い矢)飛び来るも
あたかも魔鬼まきの放つ矢が プラフラーダに触れぬごと
心の中に御主みすを置く 吾に触れたる矢玉やだまなし
15-17
sautye vritah kumatinâtmada îs'varo me
yat-pâda-padmam abhavâya bhajanti bhavyâh
mâm s'rânta-vâham arayo rathino bhuvi-shthham
na prâharan yad-anubhâva-nirasta-cittâh
蓮華の御足みあし 崇拝すうはいす 有徳うとくの者の救済きゅうさい
自己を与える至上主は 愚かな吾の謬見びゅうけん
二輪戦車の御者ぎょしゃとして 選びたるのをゆるされり
疲れ果てたる愛馬から 降りて地に立つ吾を見し
敵の戦車に乗る者ら 攻撃しかける者はなし
あの御方おんかた恩寵おんちょうで 退しりぞけられしゆえなりき
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15-18
narmâny udâra-rucira-smita-s'obhitâni
he pârtha he 'rjuna sakhe kuru-nandaneti
san'jalpitâni nara-deva hridi-spris'âni
smartur luthhanti hridayam mama mâdhavasya
おお兄王よお聞きあれ
慈愛に溢れ優雅ゆうがなる 美しき笑み浮かべられ
〈おおプリターの息子よ〉と そして〈アルジュナわが友よ
クル王朝の明輝めいきよ〉と ごとなどをいいながら
呼びかけられしクリシュナの 心をするそのさまは
想いをせるこの吾の 心激しくさぶりぬ
15-19
s'ayyâsanâthana-vikatthana-bhojanâdishv
aikyâd vayasya ritavân iti vipralabdhah
sakhyuh sakheva pitrivat tanayasya sarvam
sehe mahân mahitayâ kumater agham me
ベッドで寝たり座ったり 食事をしたり歩いたり
自慢話じまんばなしを語ったり 親しく時をすごすうち
〈おおわが友は君子くんしよ〉と からかうごとく言いたるに
あたかも友が親友の 戯言ざげんたぐい 許すごと
父がわが子の一切いっさいを ひろき心で赦すごと
吾の愚かなごと
とがめようともなさらずに 面白がりて喜ばる
15-20
so 'ham nripendra rahitah purushottamena
sakhyâ priyena suhridâ hridayena s'ûnyah
adhvany urukrama-parigraham anga rakshan
gopair asadbhir abaleva vinirjito 'smi
わが胸奥きょうおうに住み給い 最愛の友 同胞どうほう(同じ種族)
至高の尊主クリシュナに 取り残されしことにより
おお兄王よ この吾は がらのごとていたらく
主の奥方おくがた警護けいごして 落ちのびてゆく道程みちのり
襲い掛かりし悪童あくどう(牧人)に あたかも弱きのごとく
無残むざんに敗北したるなり!
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15-21
tad vai dhanus ta ishavah sa ratho hayâs te
so 'ham rathî nripatayo yata ânamanti
sarvam kshanena tad abhûd asad îs'a-riktam
bhasman hutam kuhaka-râddham ivoptam ûsyâm
確かに吾が持ちたるは ガーンディーヴァの弓であり
弓につがえるこの征矢そやや 二輪戦車やこの馬や
すべての王がを垂れる 戦車に乗りしこの吾は
前の姿と同じなり
なれど御主おんしゅを失いし その瞬間にそのすべて
跡形あとかたもなく消え失せて あたかも塵にけんじたり
偽善ぎぜんの者が供儀くぎしたり 不毛ふもうの土地にたね
これらの如く無駄むだとなり その価値かちすべてうしないし
15-22 ・23
râjams tvayânuprishthânâm
suhridâm nah suhrit-pure
vipra-s'âpa-vimûdhânâm
nighnatâm mushthibhir mithah

vârunîm madirâm pîtvâ
madonmathita-cetasâm
ajânatâm ivânyonyam
catuh-pan'câvas'eshitâh
おお兄王よ聞きたまえ
御身おんみによりて尋ねらる 我らの友や親族の
ドワーラカーでの消息しょうそくを 今 明らかにいたすなり
ああ愚かにもバラモンの のろいを受けし親族は
酒や棕櫚酒すろしゅ鯨飲げいいんし 理性失い 酔いれて
あたかも未見みけんの者のごと 互いにけんなぐり合い
人残し息絶えぬ
196

十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう
15-24
prâyenaitad bhagavata
îs'varasya viceshthitam
mitho nighnanti bhûtâni
bhâvayanti ca yan mithah
この世に生きる人々は 互いに養い世話をする
なれどまたぐそのあとで 互いに殺し 殺される
おそらくこれは自在じざいなる 至上の神の御意志ごいしにて
引き起こされる所以ゆえならん
15-25 ・26
jalaukasâm jale yadvan
mahânto 'danty anîyasah
durbalân balino râjan
mahânto balino mithah

evam balishthhair yadubhir
mahadbhir itarân vibhuh
yadûn yadubhir anyonyam
bhû-bhârân san'jahâra ha
水中にむ動物の だいなるものはしょう
きょうなるものじゃくみ 卓越たくえつしたる強者きょうじゃらは
たたかい合いて共に死す
おお兄王よ斯くのごと 他の弱小じゃくしょうの王族を
その武力ぶりょくにて滅ぼせる 最も強きヤドゥ族
偉大な強さ持つことで 大地に過重かじゅう かけしゆえ
すべてのあるじ至上主は ヤドゥとヤドゥお互いに
分別ふんべつもなく戦わせ すべてをぬぐい去られたり
15-27
des'a-kâlârtha-yuktâni
hrit-tâpopas'amâni ca
haranti smaratas' cittam
govindâbhihitâni me
聖クリシュナの御言葉みことばは 場所と時間と目的に
かないてまこと相応ふさわしく 心の悩み 消え去りぬ
それらのことを想うたび
吾の心はクリシュナに きつけられて把捉はそくさる」
197

十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう
sûta uvâca
evam cintayato jishnoh
krishna-pâda-saroruham
sauhârdenâtigâdhena
s'ântâsîd vimalâ matih
≪聖仙スータ語られる≫
聖クリシュナの御足おみあしを 深き愛にて思ううち
何時いつとは知らずアルジュナの
心は澄みて平安と 清新せいしんな気に満たされり
15-29
vâsudevânghry-anudhyâna-
paribrimhita-ramhasâ
bhaktyâ nirmathitâs'esa-
kashâya-dhishano 'rjunah
蓮華の御足みあし ひたすらに 想うことにて弥増いやませる
帰依の心でアルジュナは すべての汚濁おだく ぬぐわれり
15-30
gîtam bhagavatâ jn'ânam
yat tat sangrâma-mûrdhani
kâla-karma-tamo-ruddham
punar adhyagamat prabhuh
戦いの場の前線で 根本原主クリシュナに
説いて聴かさる聖知識(ギーター)
時の経過けいかや世俗での
行為の闇にさえぎられ そを忘れたるアルジュナは
卓越たくえつしたる神のうた(ギーター) 今や再び得たるなり
198

十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう
15-31
vis'oko brahma-sampattyâ
san'chinna-dvaita-sams'ayah
lîna-prakriti-nairgunyâd
alingatvâd asambhavah
主との別れの悲しみを 拭い去りたるアルジュナは
ブラフマンとの合一ごういつで 密着したる物質の
不徳の要素(三グナ)消え失せて 二元性へのまぼろし
徹底的に断ちきりぬ 斯くして彼の微細身びさいしん(五唯)
跡形あとかたもなく消滅しょうめつし 輪廻りんねのカルマ 抜け出せり
15-32
nis'amya bhagavan-mârgam
samsthâm yadu-kulasya ca
svah-pathâya matim cakre
nibhritâtmâ yudhishthhirah
主が御国みくに(ヴァイクンタ)へと旅立たれ
そしてヤドゥの終焉しゅうえんの その経緯いきさつを聞き知ると
ユディシュティラ大王は 御許みもとへのみち 辿たどらんと
不動ふどうの自己を確立し 強く決意を固めたり
15-33
prithâpy anus'rutya dhanan'jayoditam
nâs'am yadûnâm bhagavad-gatim ca tâm
ekânta-bhaktyâ bhagavaty adhokshaje
nives'itâtmopararâma samsriteh
母クンティーはアルジュナに ヤドゥ種族の終焉しゅうえん
主の旅立ちを伝えられ
聖なる化身 クリシュナに 究極きゅうきょくの帰依することで
感官おのれに溶け込ませ 卑俗ひぞくの世から脱したり
199

十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう
15-34
yayâharad bhuvo bhâram
tâm tanum vijahâv ajah
kantakam kantakeneva
dvayam câpîs'ituh samam
あたかもとげを抜くときに 棘を用いて抜くごとく
ヤドゥの者らあらそわせ 地球の重荷 のぞかれし
御主おんしゅにとりてその両者 まったく等しきものなりき
斯くて目的げられし 不生ふしょう御主おんしゅクリシュナは
その肉の身を捨てられり
15-35
yathâ matsyâdi-rûpâni
dhatte jahyâd yathâ nathah
bhû-bhârah kshapito yena
jahau tac ca kalevaram
斯くの如くに至上主は マツヤ(魚)その他に化身して
俳優わざおぎのごと演じられ やがてその身を捨てられる
ゆえに此度こたびもクリシュナは 世界の重荷 のぞかれて
その肉の身を捨てられり
15-36
yadâ mukundo bhagavân imâm mahîm
jahau sva-tanvâ s'ravanîya-sat-kathah
tadâhar evâpratibuddha-cetasâm
abhadra-hetuh kalir anvavartata
至上の御主おんしゅクリシュナは 聴聞ちょうもんすべき真正しんせい
価値ある神譚しんたん 残されて 自身の肉体からだ捨てられり
まさしくその日その時に いまだ目覚めざめぬ人々に
災禍さいかもたらすカリの世が ついに到来とうらいしたるなり
200

十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう
15-37

yudhishthhiras tat parisarpanam budhah
pure ca râshthre ca grihe tathâtmani
vibhâvya lobhânrita-jihma-himsanâdy-
adharma-cakram gamanâya paryadhât
於いてもそしてまた 都でもまた自宅でも
更には人の心まで 貪欲どんよくや悪 不正直
暴力などのアダルマが 増加してゆくさまを見て
カリが活動始めしを 悟りし覚者かくしゃ 大王は
旅立つ準備(この世からの)始めたり
15-38
sva-rât pautram vinayinam
âtmanah susamam gunaih
toya-nîvyâh patim bhûmer
abhyashin'cad gajâhvaye
ユディシュティラ大王は 吾と等しき徳を持ち
つつしみ深き嫡孫ちゃくそん(パリークシット)
ハスティナープラの都城とじょうにて
海にかこまる大陸の 帝王としてかせたり
15-39
mathurâyâm tathâ vajram
s'ûrasena-patim tatah
prâjâpatyâm nirûpyeshthim
agnîn apibad îs'varah
てマトゥラーの都では クリシュナ曾孫そうそんヴァジュラをば
シューラセーナの王として 即位させたるその後に
ユディシュティラ大王は プラジャーパティに火を捧げ
究極地きゅうきょくちへの旅立ちを 自分自身に受け入れり
201

十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう
15-40
visrijya tatra tat sarvam
dukûla-valayâdikam
nirmamo nirahankârah
san'chinnâs'esha-bandhanah
美々しき衣服 腕飾うでかざり すべてを城に置き棄てし
ユディシュティラ大王は
利己りこの意識が消えゆきて この世のきずな 断ち切りぬ
15-41
vâcam juhâva manasi
tat prâna itare ca tam
mrityâv apânam sotsargam
tam pan'catve hy ajohavît
死に至るとき大王は
マナスで器官(行為器官と感覚器官)制御せいぎょして
五大要素に分解し 微細なたいに溶け込ませ
アハンカーラに同化さす
15-42

tritve hutvâ ca pan'catvam
tac caikatve 'juhon munih
sarvam âtmany ajuhavîd
brahmany âtmânam avyaye
偉大な賢者 大王は
体組織さんたいそしき1.マヤコサ2.を プラクリティーにけこませ
それをプルシャに帰入して
不滅の梵(ブラフマン)にジーヴァ(個我)
永久とわ融合ゆうごうさせるなり

1. 三体組織… アンターカラナ (チッタ、ブッティ、アハンカーラ)
  2. マヤコサ… パンチャコーサ (アンナマヤコサ、プラーナマヤコサ、
      マノマヤコサ、ジュニャーナマヤコサ、アーナンダマヤコサ)
202

十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう

15-43

cîra-vâsâ nirâhâro
baddha-vân mukta-mûrdhajah
dars'ayann âtmano rûpam
jadonmatta-pis'âcavat
anavekshamâno niragâd
as'rinvan badhiro yathâ
襤褸らんるおのまとい 食を断ちたる大王は
あたかも愚者ぐしゃ瘋癲ふうてんか はたまた鬼かとまごうほど
髪を乱してもだしまま 何も聞こえぬ者のごと(聾唖者の如く)
己が姿を示しつつ すべてを無視し 立ち去らる(城から)


15-44

udîcîm pravives'âs'âm
gata-pûrvâm mahâtmabhih
hridi brahma param dhyâyan
nâvarteta yato gatah
そしてそれから大王は
最高原理ブラフマン(クリシュナの光輝を)
心の奥に思いつつ 古今ここんの聖者 辿たどりたる
帰ることなきその道を
(ヒマラヤ)に向かいて歩きたり
15-45

sarve tam anunirjagmur
bhrâtarah krita-nis'cayâh
kalinâdharma-mitrena
drishthvâ sprishthâh prajâ bhuvi
地上における人々が カリユガによるアダルマ(不正義)
手を掛けられる(襲われる)さまを見し
ユディシュティラの同胞はらから(兄弟)
兄に等しき決意をし あとに従い 立ち去りぬ
203

十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう

15-46

te sâdhu-krita-sarvârthâ
jn'âtvâtyantikam âtmanah
manasâ dhârayâm âsur
vaikunthha-caranâmbujam
この世のつとめ果たしたる パーンダヴァの五兄弟
ヴァイクンタ(最高神の界)にて住みたもう
普遍ふへん御主おんしゅクリシュナの
蓮華の御足みあしそれのみを 心にしかと確立す
15-47 ・48

tad-dhyânodriktayâ bhaktyâ
vis'uddha-dhishanâh pare
tasmin nârâyana-pade
ekânta-matayo gatim

avâpur duravâpâm te
asadbhir vishayâtmabhih
vidhûta-kalmashâ sthânam
virajenâtmanaiva hi
唯一の神に傾注けいちゅうし 心尽くせしバクティで
浄化されたる心域しんいきに 到達したる兄弟は
至上の御主おんしゅ クリシュナの に向けて出発す
五感に心 奪われし 世俗に生きる者等ものらには
がたきその界は
この世の汚濁おだく拭い去り 清らになりし者のみに
与えらるべき境地なり
15-49

viduro 'pi parityajya
prabhâse deham âtmanah
krishnâves'ena tac-cittah
pitribhih sva-kshayam yayau
アンターカラナ(を)個人我(ジーヴァ)
溶け込ませたるヴィドゥラは
聖クリシュナに集中し プラバーサにて肉体を棄てて
迎えにきたる祖霊それいらと 自身の界(ヤマ。冥界)へ帰りたり




204

十五章 主の捨身しゃしんとパーンドゥ五兄弟の北帰行ほっきこう

15-50

draupadî ca tadâjn'âya
patînâm anapekshatâm
vâsudeve bhagavati
hy ekânta-matir âpa tam
五人のおっと いずれもが 妻を顧慮こりょせず旅立つを
ドラウパディーは確認し ヴァースデーヴァ クリシュナに
ただ一筋に集中し ついに秘境(究極の地ヴァイクンタ)に到達す
15-51

yah s'raddhayaitad bhagavat-priyânâm
pândoh sutânâm iti samprayânam
s'rinoty alam svastyayanam pavitram
labdhvâ harau bhaktim upaiti siddhim
斯くのごとくにしゅを信ず ハリへの深き献身者
パーンドゥ王の息子らが
究極きゅうきょくの地へ旅立ちし 祝福に満つ経緯いきさつ
心ゆくまで聞く者は
クリシュナ神にでられて けがれがすべて浄化され
成就じょうじゅいきたっすらん
第十五章 終了



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