七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


第七章【ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする】



s'aunaka uvâca
nirgate nârade sûta
bhagavân bâdarâyanah
s'rutavâms tad-abhipretam
tatah kim akarod vibhuh
7-1





シャウナカ仙は申したり
「おおスータ師よ答えあれ ムニ(ナーラダ)が去られしその後に
聖なる尊者ヴィヤーサは ナーラダ仙が語られし
胸中きょうちゅう意図いと 玩味がんみして いかなることをされしや」




sûta uvâca
brahma-nadyâm sarasvatyâm
âs'ramah pas'cime tate
s'amyâprâsa iti prokta
rishînâm satra-vardhanah
7-2





≪聖仙スータ語られる≫
サラスワティー(河)西岸せいがん
シャミャープラーサと呼ばれたる
聖仙たちの修法しゅうほうを 保護ほごするためのいおりあり




tasmin sva âs'rame vyâso
badarî-sanda-mandite
âsîno 'pa upaspris'ya
pranidadhyau manah svayam
7-3




ヴィヤーサ デーヴァ聖仙は
なつめの樹々にかこまれし おのいおりめて
口をすすぎしそのあとに 心らして瞑想す







71

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


bhakti-yogena manasi
samyak pranihite 'male
apas'yat purusham pûrnam
mâyâm ca tad-apâshrayam
7-4




おのが心に確固かっこたる バクティのもと 築かれし
ヴィヤーサ デーヴァ聖仙と
無垢むく至純しじゅんに満たされし 原初げんしょプルシャ(至上主)の間には
マーヤーにへだてなし




yayâ sammohito jîva
âtmânam tri-gunâtmakam
paro 'pi manute 'nartham
tat-kritam câbhipadyate
7-5




原初プルシャ(至上主)が分れたる 各個かくこ御魂みたまジーヴァは
物質界の三要素 みっつのグナに無縁むえんなり
にもかかわらず人々は 幻術げんじゅつ(マーヤー)により錯乱さくらん
自己じこ(神の分霊)身体からだ(三つのグナから出来ている粗体)同一視どういつし
輪廻りんねの海におぼれゆく



anarthopas'amam sâkshâd
bhakti-yogam adhokshaje
lokasyâjânato vidvâms'
cakre sâtvata-samhitâm
7-6




学識がくしきふかきヴィヤーサは 神に捧げるバクティが
無知のとばりを打ち破る 唯一ゆいつさくさとりたり
無明むみょうあえ諸人もろびとの 苦しみ嘆きのぞかんと
真理しんり経典きょうてんサンヒーター(詩篇)
バーガヴァタ プラーナへんじたり





72

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


yasyâm vai s'rûyamânâyâm
krishne parama-pûrushe
bhaktir utpadyate pumsah
s'oka-moha-bhayâpahâ
7-7




バーガヴァタ プラーナ聴くうちに
至高しこうのプルシャ クリシュナに
献身奉仕する思念しねん 人の心にづる
斯くて悲しみ迷妄めいもうは 跡形あとかたもなく消え失せる




sa samhitâm bhâgavatîm
kritvânukramya câtma-jam
s'ukam adhyâpayâmâsa
nivritti-niratam munih
7-8




偉大な聖者ヴィヤーサは
バーガヴァタ プラーナ編成へんせい
息子のシュカに伝授でんじゅせり
聖仙シュカは若年わかきより
諸々もろもろの地を遊行ゆぎょうして 解脱げだつの道を邁進まいしん




s'aunaka uvâca
sa vai nivritti-niratah
sarvatropekshako munih
kasya vâ brihatîm etâm
âtmârâmah samabhyasat
7-9





シャウナカ仙は訊ねたり
「聖仙シュカは無執着むしゅうちゃく 世俗せぞく興味きょうみ持たぬ方
すでに悟りに達せられ 至福に充ちし聖者なり
ああそれなるに厖大ぼうだいな このプラーナに専心せんしん
再びまななおさんと 取り組まれしは何ゆえぞ」






73

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


sûta uvâca
âtmârâmâs' ca munayo
nirgranthâ apy urukrame
kurvanty ahaitukîm bhaktim
ittham-bhûta-guno harih
7-10





≪聖仙スータ語られる≫
自己実現じこじつげんげて 解放されし聖者でも
無因むいんしゅなるクリシュナの そのたぐいなき栄光えいこう
心底しんてい深く魅了みりょうされ 献身奉仕捧げらる




harer gunâkshipta-matir
bhagavân bâdarâyanih
adhyagân mahad âkhyânam
nityam vishnu-jana-priyah
7-11




ヴィヤーサのそく 聖シュカは ハリの美徳びとく心酔しんすい
“主の最高の帰依者よ”と つとに名高きお方なり
ゆえに聖仙シュカ師には しゅ栄光えいこう神譚しんたん
聴くも語るも学ぶのも 永久とわ喜悦きえつにほかならじ




parîkshito 'tha râjarsher
janma-karma-vilâpanam
samsthâm ca pându-putrânâm
vakshye krishna-kathodayam
7-12




パリークシット王仙の 誕生 行為 解放と
パーンドゥ家の息子等の 死出しで旅路たびぢの物語
これより語り聞かせなん
 シュリー クリシュナ神譚の 糸口いとぐちとなる話しゆえ










74

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


yadâ mridhe kaurava-srin'jayânâm
vîreshv atho vîra-gatim gateshu
vrikodarâviddha-gadâbhimars'a-
bhagnoru-dande dhritarâshthra-putre

bhartuh priyam draunir iti sma pas'yan
krishnâ-sutânâm svapatâm s'irâmsi
upâharad vipriyam eva tasya
jugupsitam karma vigarhayanti
7-13・14








カウラヴァ族とパーンダヴァ(族)両陣営りょうじんえい勇者ゆうじゃらは
クシャトリヤとてダルマげ 約束されし天国へ
旅立ちし者 数多あまたあり
パーンドゥ家の次男なる おおかみのごと食思しょくし(食欲)もつ
ビーマにもも(棍棒で)くだかれし
ドリタラーシュトラ長男(ドゥルヨーダナ)
地に伏しているその時に
ドローナチャリヤ息男そくなんの アシュワッターマンおろかにも
ドゥルヨーダナのかん(喜び)んと 野営やえいで眠るパーンドゥの
五人の若き息子らの
(パーンドゥ五兄弟の共通の妻、ドラウパディーの息子たち)
ね それを差し出せり
あまりにひどきその行為 ドゥルヨーダナは嫌悪けんおして
不快ふかいを示し非難ひなんせり



mâtâ s'is'ûnâm nidhanam sutânâm
nis'amya ghoram paritapyamânâ
tadârudad vâshpa-kalâkulâkshî
tâm sântvayann âha kirîthamâlî
7-15




惨殺ざんさつされし子供らの 母親であるドラウパディー
その報告に接するや 息絶えるほど驚愕きょうがく
苦しみもだえ泣き叫ぶ
“花の王冠おうかん戴く”と 世にしょうされるアルジュナは
妻をなぐさめ 斯く言えり



75

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


tadâ s'ucas te pramrijâmi bhadre
yad brahma-bandhoh s'ira âtatâyinah
gândîva-muktair vis'ikhair upâhare
tvâkramya yat snâsyasi dagdha-putrâ
7-16




「おおうるわしきが妻よ そなたの涙ぬぐいとり
深き悲しみ慰めん
われただちにガーンディーヴァ1.の 弓を手に取り矢を放ち
卑劣ひれつきわまるバラモン2.の 首を落として持ち帰り
しかとそなたに捧ぐなり
そなたはそれを足でみ うららせしその後に
愛息あいそくたちを荼毘だび(火葬)に付し  沐浴もくよくをして清めかし」

1. ガーンディーヴァ…… アルジュナの愛弓、強弓。
  2. 卑劣極まるバラモン アシュワッターマンはドローナ(バラモン)の息子。



iti priyâm valgu-vicitra jalpaih
sa sântvayitvâcyuta-mitra-sûtah
anvâdravad dams'ita ugra-dhanvâ
kapi-dhvajo guru-putram rathena
7-17




斯くの如くに愛妻あいさいを 甘き言葉でなだめると
クリシュナ神を友に持ち 戦車の馭者ぎょしゃとする彼(アルジュナ)
よろいかぶとを身にまとい すさまじき弓たずさえて
二輪戦車にりんせんしゃび乗るや グル(ドローナ)の息子を追いかけり



tam âpatantam sa vilakshya dûrât
kumâra-hodvigna-manâ rathena
parâdravat prâna-parîpsur urvyâm
yâvad-gamam rudra-bhayâd yathâ kah
7-18




子供殺せし非道者ひどうしゃ(アシュワッターマン)
たけくるって突進とっしんす アルジュナを見て戦慄せんりつ
かつてルドラを恐れたる 太陽神のさまのごと
あわてふためき狼狽うろたえて 戦車走らせ逃げゆけり



76

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


yadâs'aranam âtmânam
aikshata s'rânta-vâjinam
astram brahma-s'iro mene
âtma-trânam dvijâtmajah
7-19




やがて軍馬ぐんばは疲れ果て 援軍えんぐんもなき有様ありさま
おのが命を護るには 究極きゅうきょく武器ぶき(ブラフマ アストラ)使うより
ほかに手だては無きものと アシュワッターマン決意せり


athopaspris'ya salilam
sandadhe tat samâhitah
ajânann api samhâram
prâna-kricchra upasthite
7-20




生命いのち危機ききさらされし アシュワッターマンおろかにも
武器戻すすべ 知らぬまま 水できよめの儀式ぎしきをし
心をいつに集中し 矢筈やはず(武器を射るため)を弓につがえたり



tatah prâdushkritam tejah
pracandam sarvato dis'am
prânâpadam abhiprekshya
vishnum jishnur uvâca ha
7-21




はなたれしその武器からは 激烈げきれつな火が燃え上がり
あたりり一面おおいたり
が身にせまる火の猛威もうい 危機ききを感じたアルジュナは
 すがる思いでクリシュナに 斯くの如くに申したり



arjuna uvâca
krishna krishna mahâ-bâho
bhaktânâm abhayankara
tvam eko dahyamânânâm
apavargo 'si samsriteh
7-22





アルジュナは斯く申したり
「おおクリシュナよ! クリシュナよ! 強きかいなのクリシュナよ!
現世げんせごうに身をかる 帰依者きえしゃ苦難くなん取りのぞ
御身おんみ無二むにのおかたなり


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七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


tvam âdyah purushah sâkshâd
îs'varah prakriteh parah
mâyâm vyudasya cic-chaktyâ
kaivalye sthita âtmani
7-23




御身おんみは原初プルシャにて プラクリティを超えられし
すべての御主みすであらせらる
神秘な力発揮はっきされ 幻力げんりょくの害受けられず
常に孤高ここうに座すおかた



sa eva jîva-lokasya
mâyâ-mohita-cetasah
vidhatse svena vîryena
s'reyo dharmâdi-lakshanam
7-24




マーヤーによる迷妄めいもうで 闇路やみじをたどる人類に
悟りへの道かさんと
ダルマ(正義)ほか修法しゅうほうを 御身おんみ自身で示されり



tathâyam câvatâras te
bhuvo bhâra-jihîrshayâ
svânâm cânanya-bhâvânâm
anudhyânâya câsakrit
7-25




御心みこころによりこの度も 地球の重荷のぞかんと
はたまた無限むげん実在じつざいの 御主おんしゅを常に瞑想めいそう
帰依する民を救わんと 化身けしんとなりて降下こうかさる



kim idam svit kuto veti
deva-deva na vedmy aham
sarvato mukham âyâti
tejah parama-dârunam
7-26



おおクリシュナよ! クリシュナよ!
あたり一面おおいたる このすさまじき光焔こうえん
はて何処いずこよりきたりしや 理解しがたきこの事態」


78

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


s'rî-bhagavân uvâca
vetthedam drona-putrasya
brâhmam astram pradars'itam
naivâsau veda samhâram
prâna-bâdha upasthite
7-27





聖クリシュナはのたまわく
『ブラフマー神が管理する 火炎を放つ兵器なり
せまり来る死の恐怖から アシュワッターマンその武器ぶき
引き戻すすべ知らぬまま 打ち放ちたるものなりき




na hy asyânyatamam kin'cid
astram pratyavakars'anam
jahy astra-teja unnaddham
astra-jn'o hy astra-tejasâ
7-28




これに対抗たいこうできるのは 名だたる射手しゃしゅ御身おみのみぞ
閃光せんこう放つその武器を 制御せいぎょせしむる手立てだてとは
御身おみ強弓ごうきゅう引きしぼり 射撃しゃげきするほかなかりけり』




sûta uvâca
s'rutvâ bhagavatâ proktam
phâlgunah para-vîra-hâ
sprishthvâpas tam parikramya
brâhmam brâhmâstram sandadhe
7-29





≪聖仙スータ語られる≫
主の御言葉みことばを聴きしのち“殲滅者せんめつしゃよ”とたたえらる
武勇ぶゆうすぐれしアルジュナは
清めの水に手を触れて 主を周回しゅうかいしその後に
ブラフマーより賜りし
アシュワッターマン放ちたる 同じ武器をば(弓に)つがえたり





79

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


samhatyânyonyam ubhayos
tejasî s'ara-samvrite
âvritya rodasî kham ca
vavridhâte 'rka-vahnivat
7-30




打ち上げられし双方の 矢が空中で激突げきとつ
紅蓮ぐれんほのお 天空てんくうを がさんばかりに燃え上がり
猛火もうかすべてをおおいたり
その灼熱しゃくねつ光球こうきゅうは 太陽のごと輝きて
世の終焉しゅうえんも斯くや…とも


drishthvâstra-tejas tu tayos
trîl lokân pradahan mahat
dahyamânâh prajâh sarvâh
sâmvartakam amamsata
7-31




ぶつかりあいし双方そうほうの 武器が発する光焔こうえん
三界さんがい隅々すみずみに 燃え広がりて焼き尽くす
人々は皆狂乱きょうらんし 宇宙がほろほのおぞと
阿鼻叫喚あびきょうかんさま てい


prajopadravam âlakshya
loka-vyatikaram ca tam
matam ca vâsudevasya
san'jahârârjuno dvayam
7-32




人々のなんそしてまた 地球の危険見てとりし
聖クリシュナの御意志ごいしにて
アルジュナはそく 双方そうほうの 武器を撤収てっしゅうしたるなり



tata âsâdya tarasâ
dârunam gautamî-sutam
babandhâmarsha-tâmrâksah
pas'um ras'anayâ yathâ
7-33




怒りのために目を赤く 燃え上がらせしアルジュナは
アシュワッターマンすぐらえ あたかも犠牲獣ぎせいじゅうのごと
ロープで固くしばりたり


80

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


s'ibirâya ninîshantam
rajjvâ baddhvâ ripum balât
prâhârjunam prakupito
bhagavân ambujekshanah
7-34




しばりあげたる悪漢あっかんを 力まかせに引きずりて
わが妻が待つ陣営じんえいに 運ばんとするアルジュナに
蓮華れんげまなこクリシュナは 怒りを込めて申される





mainam pârthârhasi trâtum
brahma-bandhum imam jahi
yo 'sâv anâgasah suptân
avadhîn nis'i bâlakân
7-35




聖クリシュナはのたまわく
『おおアルジュナよ聞けよかし
なれらえし悪人に 情けをかける要はなし
この堕落だらくせしバラモンは みっつの罪を犯したり
まだ頑是がんぜなき少年を 熟睡じゅくすいしたる陣営で
夜陰やいんにまぎれ殺したる 卑劣ひれつなる者なるぞ





mattam pramattam unmattam
suptam bâlam striyam jadam
prapannam viratham bhîtam
na ripum hanti dharma-vit
7-36




ダルマや人の本分ほんぶんを くわしく知りし者たちは
酔っている者 無頼漢ぶらいかん 狂気の者や眠る者
子供と女性 愚か者 おびえし者や難民や
戦車くせし者達を 殺すことなど有りなし







81

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


sva-prânân yah para-prânaih
prapushnâty aghrinah khalah
tad-vadhas tasya hi s'reyo
yad-dosâd yâty adhah pumân
7-37




他者たしゃ犠牲ぎせいの上に立ち おのれ保身ほしんはかる者
この無情むじょうなる悪漢あっかんは 殺されてこそ救われる
彼が命をばすなば 尚一層に罪重ね
堕落だらく一途いっと 辿たどるゆえ





pratis'rutam ca bhavatâ
pân'câlyai s'rinvato mama
âharishye s'iras tasya
yas te mânini putra-hâ
7-38




更にそなたは吾が前で 愛する妻の悲しみを
慰めんとてねんごろに
息子殺せし悪漢の 〈首を必ず取り来る〉と
固く約束したるなり





tad asau vadhyatâm pâpa
âtatâyy âtma-bandhu-hâ
bhartus' ca vipriyam vîra
kritavân kula-pâmsanah
7-39




武勇勝れしアルジュナよ 幼き子供殺害し
一族の名をはずかし
主人(ドゥルヨーダナ)にさえも見放さる
この悪辣あくらつ罪人つみびとは 殺されてこそしかるべき』









82

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


sûta uvâca
evam parîkshatâ dharmam
pârthah krishnena coditah
naicchad dhantum guru-sutam
yadyapy âtma-hanam mahân
7-40





≪聖仙スータ語られる≫
斯くの如くにアルジュナは
“如何にダルマを守るか”を 聖クリシュナに試されり
偉大な御魂みたまアルジュナは
主に『殺すよう』指示さるも
子等の命を奪いたる ドローナ息を殺さざり




athopetya sva-s'ibiram
govinda-priya-sârathih
nyavedayat tam priyâyai
s'ocantyâ âtma jân hatân
7-41




ゴーヴィンダ(クリシュナ)よ!と親しみて
戦車の馭者ぎょしゃとする彼(アルジュナ)
わが陣営に帰るなり 
非道ひどうに死せる子ら想い 打ちひしがれしが妻に
アシュワッターマン引きえて 捕らえしことを知らせたり



tathâhritam pas'uvat pâs'a-baddham
avân-mukham karma-jugupsitena
nirîkshya krishnâpakritam guroh sutam
vâma-svabhâvâ kripayâ nanâma ca
7-42




動物のごと縛られて
連れてこられし罪人つみびと(アシュワッターマン)
恥じて項垂うなださまを見て 慈愛に富めるドラウパディー
子らを殺せし憎むべき 師の息子なる咎人とがびと
憐憫れんびんじょうこみ上げて 頭を低く下げられり



83

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


uvâca câsahanty asya
bandhanânayanam satî
mucyatâm mucyatâm esha
brâhmano nitarâm guruh
7-43




心優こころやさしきドラウパディー 見るにえざるそのさま
常にもあらず荒々あらあらと 斯くの如くに申したり
「すぐさまばくを解き放ち 彼に自由を与うべし
ブラーフマナの家系かけいなる 尊敬すべきお方なり



sarahasyo dhanur-vedah
savisargopasamyamah
astra-grâmas' ca bhavatâ
s'ikshito yad-anugrahât
7-44




弓矢ゆみやじゅつやその奥義おうぎ 武器のち方もどし方
御身おんみに教え給いしは 師のドローナにほかならず



sa esha bhagavân dronah
prajâ-rûpena vartate
tasyâtmano 'rdham patny âste
nânvagâd vîrasûh kripî
7-45




大恩だいおんのあるドローナは
彼の息子の姿とり 今 眼前がんぜんりたもう
師の令夫人れいふじんクリピーは 息子を得たるほまれれにて
つま御跡みあと(殉死じゅんし)に従わず 今 存命ぞんめいであらせらる



tad dharmajn'a mahâ-bhâga
bhavadbhir gauravam kulam
vrijinam nârhati prâptum
pûjyam vandyam abhîkshnas'ah
7-46




ダルマに通じに強く 理知にすぐれしわがつま
尊敬すべき名門めいもんの グルの家族の皆様が
御身様方おみさまがたの手によりて 悲しみ 痛み受けるのは
許されるべきことならず


84

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


mâ rodîd asya jananî
gautamî pati-devatâ
yathâham mrita-vatsârtâ
rodimy as'ru-mukhî muhuh
7-47




最愛の子ら失いて われの嘆きや悲しみは
たとえようなく深きもの
アシュワッターマンお母上 ドローナ夫人ガウタミー
おっとを神とあがめたる この純情なご婦人に
同じ悲嘆ひたんを与えまじ 涙でほほらさまじ




yaih kopitam brahma-kulam
râjanyair ajitâtmabhih
tat kulam pradahaty âs'u
sânubandham s'ucârpitam
7-48




嘆き悲しみ 激怒げきどした ブラーフマナの恨みにて
王家おうけの者はことごとく 燃やし尽くされ滅ぶらん
それらの事態じたい 起きしなば
未熟みじゅく自己じこの罪なりと 心に銘記めいきなされませ」




sûta uvâca
dharmyam nyâyyam sakarunam
nirvyalîkam samam mahat
râjâ dharma-suto râjn'yâh
pratyanandad vaco dvijâh
7-49





≪聖仙スータ語られる≫
おお神聖なリシたちよ
ダルマのそくと称されし ユディシュティラ大王は
ダルマにかな公正こうせいで あわれみに満ち平等びょうどう
正しき道をしめす 愛する佳妃かひ(ドラウパディー)べしこと
すべてを歓迎せられたり





85

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


nakulah sahadevas' ca
yuyudhâno dhanan'jayah
bhagavân devakî-putro
ye cânye yâs' ca yoshitah
7-50




ナクラ サハデーヴァ サーティヤキ
アルジュナそしてクリシュナら
居合いあわす女性男性が 王妃おうひべし考えに
賛意さんいひょうし同意せり




tatrâhâmarshito bhîmas
tasya s'reyân vadhah smritah
na bhartur nâtmanas' cârthe
yo 'han suptân s'isûn vrithâ
7-51




ビーマ怒りて唯一人 処刑しょけいもとめて主張しゅちょうせり
此奴こやつはなんと卑怯ひきょうにも おのがためにも主人にも
なんのえきにもならざるに 眠れる若き子供らを
惨殺ざんさつしたる犯罪者はんざいしゃ 死を与うのが至当しとうなり」





nisamya bhima-gaditam
draupadyas ca catur-bhujah
alokya vadanam sakhyur
idam aha hasann iva
7-52




ビーマセーナ(ビーマ)とその妻(ドラウパディー)
二人の話聞きしのち 頬笑ほほえみ浮かべ クリシュナは
揶揄やゆするごとき仕草しぐさにて アルジュナの顔 眺めつつ
斯くの如くに語られり










86

七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


s'rî-bhagavân uvâca
brahma-bandhur na hantavya
âtatâyî vadhârhanah
mayaivobhayam âmnâtam
paripâhy anus'âsanam

kuru pratis'rutam satyam
yat tat sântvayatâ priyâm
priyam ca bhîmasenasya
pân'câlyâ mahyam eva ca
7-53・54












聖クリシュナはのたまわく
『たとえ価値かちなきバラモンも 虐殺ぎゃくさつされるべきでなし
なれど凶徒きょうとは殺すべし
あれまさしく聖典せいてんに その両方りょうほうに従へと
述べて教えしはずなりき
ゆえにそなたは両方を ダルマによりて勘案かんあん
ただしきさばくだすべき
そしてそなたは愛妻を なだすかしてちかいたる
約束果たす責務あり
ビーマセーナやドラウパディー そして私がりて
納得なっとくできる裁決さいけつを そなたは下すべきなりき』




sûta uvâca
arjunah sahasâjn'âya
harer hârdam athâsinâ
manim jahâra mûrdhanyam
dvijasya saha-mûrdhajam
7-55





≪聖仙スータ語られる≫
即座そくざにハリの御心みこころを 得心とくしんしたるアルジュナは
つるぎ取り上げバラモン(アシュワッターマン)
頭頂とうちょうにある宝石ほうせきを かみもろともに切りとりぬ








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七章 ヴィヤーサ シュカに神譚しんたん伝授でんじゅする


vimucya ras'anâ-baddham
bâla-hatyâ-hata-prabham
tejasâ maninâ hînam
s'ibirân nirayâpayat
7-56




子供殺せし罪過ざいかにて
ほませたるバラモン(アシュワッターマン)
光り輝く宝石を 剥奪はくだつされて悄然しょうぜん
ばくかれてはなたれし



vapanam dravinâdânam
sthânân niryâpanam tathâ
esha hi brahma-bandhûnâm
vadho nânyo 'sti daihikah
7-57




頭頂の髪落とされて ざい没収ぼっしゅうされしうえ
領域りょういきからの追放ついほうは 罪おかしたる僧侶そうりょ(バラモン)への
死刑しけい比肩ひけんするほどの もっとも重きばつなりき



putra-s'okâturâh sarve
pândavâh saha krishnayâ
svânâm mritânâm yat krityam
cakrur nirharanâdikam
7-58




息子むすこ失い悲嘆ひたんする パーンドゥ家の人たちは
ドラウパディーとちて いくさで死せる勇士ゆうしらの
火葬かそうやその他ふさわしき 告別こくべつぎょうじたり



第七章 終了







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