一巻 二章 スータ 口伝 の神譚を語り始める
第二章【スータ 口伝の神譚を語り始める】
2-1
vyâsa uvâca
iti sampras'na-samhrishtho
viprânâm raumaharshanih
pratipûjya vacas teshâm
pravaktum upacakrame
【ヴィヤーサ
仙口伝の
神譚】
ローマハルシャナご子息の ウグラシュラヴァー 聖スータ
聖賢たちの
懇ろな
格調高き
懇請に
心満たされ喜びて 感謝の思い述べしあと
ヴィヤーサ
口伝の神譚を 問いに答えて語られる
2-2
sûta uvâca
yam pravrajantam anupetam apeta-krityam
dvaipâyano viraha-kâtara âjuhâva
putreti tan-mayatayâ taravo 'bhinedus
tam sarva-bhûta-hridayam munim ânato 'smi
≪聖仙スータ
2.語られる≫
すべての者の
胸奥に 真理の響き伝えらる
聖仙シュカ
1.に
崇敬の
一礼捧げたてまつる
生まれながらに
解脱者の 師
(シュカ)は
遊行期に入る際
聖紐3.の儀を受けられず ブラーフマナ
(バラモン)の
祭祀をも
顧みもせでご
出立 父ヴィヤーサは耐えかねて
我を忘れて叫びたり 《おお最愛の息子よ!》と
応えしものは
木霊のみ 他は
寂として声はなし
注 |
1. |
シュカ… |
聖仙ヴィヤーサの息子、ヴィヤーサからバーガヴァタ プラーナを口伝された。 |
|
|
|
シュカは父から授かったバーガヴァタプラーナをパリークシット大王に伝えた。 |
|
2. |
スータ… |
スータはその時同席して口伝を聴聞し、それを聖者らに伝授した。 |
|
* バーガヴァタ プラーナの伝承…ヴィヤーサ→シュカ→パリークシット大王。 |
|
|
|
↳スータ→シャウナカ始め聖者達。 |
|
3. |
聖紐…… |
グルと師弟関係を結んだ者が身につける糸(再生者のみ)。 |
9
一巻 二章 スータ 口伝の神譚を語り始める
2-3
yah svânubhâvam akhila-s'ruti-sâram ekam
adhyâtma-dîpam atititîrshatâm tamo 'ndham
samsârinâm karunayâha purâna-guhyam
tam vyâsa-sûnum upayâmi gurum munînâm
聖者のなかの
白眉なる ヴィヤーサ デーヴァご子息の
シュカ
尊聖に
慎みて 一礼捧げ
奉る
憐れみ深き慈悲の師は
無明に
喘ぐ人々を
主の光明で救わんと 伝授なされし要諦(奥義)の
会得なされし真髄を 理解しやすく説きたもう
2-4
nârâyanam namaskritya
naram caiva narottamam
devîm sarasvatîm vyâsam
tato jayam udîrayet
バーガヴァタ プラーナ誦す前に
御主の化身 ナーラーヤナに
真善美なる ナラ化身
智慧の神なる サラスワティー
口伝の聖者 ヴィヤーサに
崇敬捧げ慎みて 深く一礼奉る
2-5
munayah sâdhu prishtho 'ham
bhavadbhir loka-mangalam
yat kritah krishna-sampras'no
yenâtmâ suprasîdati
民救わんと御身1.らが 我に向けたる問いかけは
これこそまさに至上主が 化身なされし主題なり
世の安寧と繁栄を もたらす術は唯一つ
聖クリシュナを探究し その御姿を想うこと
さすれば深き主の愛は 内なる自己2.に流れ入る
注 |
1. |
御身(おんみ)… |
敬意を含んでいう語。 |
|
2. |
内なる自己…… |
ジヴァートマ、ジーヴァ、個別魂。 |
10
一巻 二章 スータ 口伝の神譚を語り始める
2-6
sa vai pumsâm paro dharmo
yato bhaktir adhokshaje
ahaituky apratihatâ
yayâtmâ suprasîdati
この世を生くる者として 実に崇高な正義とは
聖なる化身クリシュナへ 献身奉仕1.捧ぐこと
主への献身極まれば 三苦2.の因は消滅し
内なる光輝 弥増さる
注 |
1. | 献身奉仕… |
つねに聴き讃え、思い、崇めること。 |
|
2. |
三苦……… |
三重の苦とも言う。 |
|
|
* 自らの肉体と心が原因となる苦しみ。 |
|
|
* 他の生き物や他人が原因で生じる苦しみ。 |
|
|
* 神の意思や天災によって生じる苦しみ。 |
2-7
vâsudeve bhagavati
bhakti-yogah prayojitah
janayaty âs'u vairâgyam
jn'ânam ca yad ahaitukam
根原主なるクリシュナに 献身奉仕 捧ぐなば
因無き御主1.はたちまちに 離欲と智慧を授けらる
注 |
1. |
因無き御主… |
ahaitukam《無因》根本原主クリシュナは、 |
|
|
|
トリグナを用いて宇宙を創造されたが、主ご自身は、 |
|
|
|
それらから全く影響されず超越界に永住されている。 |
|
|
|
その主にはトリグナの作用であるカルマはなく、 |
|
|
|
行為の結果を生み出す原因はない。 |
|
|
|
即ち至上主は無因である。 |
2-8
dharmah svanushthhitah pumsâm
vishvaksena-kathâsu yah
notpâdayed yadi ratim
s'rama eva hi kevalam
人と生まれて果すべき 正しき義務を為せるとも
シュリー クリシュナ神譚の 深き真理に魅かれずば
いかなる労も益はなく 徒労と帰して消え失せる
11
一巻 二章 スータ 口伝の神譚を語り始める
2-9
dharmasya hy âpavargyasya
nârtho 'rthâyopakalpate
nârthasya dharmaikântasya
kâmo lâbhâya hi smritah
正義(ダルマ)によりて実利1.(アルタ)を得
解脱(モクシャ)を希求2.(カーマ)することが この世を生くる掟なり
感覚満たす欲望と 現世利益の追求を 捨離し正義を果たすのが
解脱に至る道なりと 説いて聞かせる諸聖賢
注 |
1. |
実利…… |
虚偽を捨てた実益。 |
|
2. |
希求…… |
強く願い求めること。 |
2-10
kâmasya nendriya-prîtir
lâbho jîveta yâvatâ
jîvasya tattva jijn'âsâ
nârtho yas ceha karmabhih
感覚満たす欲望は 個魂(ジーヴァ)を穢す行為なり
個々の生命の基なる 真理の奥義 極めずば
いかなる善も無益なり
2-11
vadanti tat tattva-vidas
tattvam yaj jn'ânam advayam
brahmeti paramâtmeti
bhagavân iti s'abdyate
本質を知る智者達は 不二一元の実在を
主の光輝なるブラフマン パラマートマン バガヴァーンと
異なる御名で讃え呼ぶ
2-12
tac chraddadhânâ munayo
jn'âna-vairâgya-yuktayâ
pas'yanty âtmani câtmânam
bhaktyâ s'ruta-grihîtayâ
知識と離欲具えいて 真理に聡き聖者らは
ヴェーダの英知 聴聞し 主に奉仕せし功徳にて
個我(ジーヴァ)と大我(パラマートマ)を内(フリダヤ)に観る
12
一巻 二章 スータ 口伝の神譚を語り始める
2-13
atah pumbhir dvija-s'reshthhâ
varnâs'rama-vibhâgas'ah
svanushthhitasya dharmasya
samsiddhir hari-toshanam
おお最良のバラモンよ
グルとの深き縁にて 再生されし御身らが
人世の義務と定められし 四姓 四住期それぞれを
成就したるは至上主を 喜ばしむる行為なり
まこと誉れの聖者なり
2-14
tasmâd ekena manasâ
bhagavân sâtvatâm patih
s'rotavyah kîrtitavyas' ca
dhyeyah pûjyas' ca nityadâ
至純の極み至上主は 清き帰依者の保護者ゆえ
心凝らして御教えを 聴聞 讃美 瞑想し つねに崇拝すべきなり
2-15
yad-anudhyâsinâ yuktâh
karma-granthi-nibandhanam
chindanti kovidâs tasya
ko na kuryât kathâ-ratim
行為の果ての束縛の もつれの因を熟知して
剣によりて想い断つ 至上主こそを崇むべし
主の神譚の悦楽を 享受せぬ者いずこにや
2-16
s'us'rûshoh s'raddadhânasya
vâsudeva-kathâ-rucih
syân mahat-sevayâ viprâh
punya-tîrtha-nishevanât
清き聖地を巡礼し 高き聖者に仕えるは
バラモン達の念願を 叶えるための聖務なり
斯くて彼らに芽生えるは
“聖クリシュナの神譚”を 聴聞したき願いなり
13
一巻 二章 スータ 口伝の神譚を語り始める
2-17
s'rinvatâm sva-kathâh krishnah
punya-s'ravana-kîrtanah
hridy antah stho hy abhadrâni
vidhunoti suhrit satâm
根本原主クリシュナが 説き給いたる御教えを
拝聴せんと渇望し 御名を崇めて唱うれば
心(フリダヤ)の内に住み給う 主は人々の友ゆえに
災禍を祓い浄めらる
2-18
nashtha-prâyeshv abhadreshu
nityam bhâgavata-sevayâ
bhagavaty uttama-s'loke
bhaktir bhavati naishthhikî
聖クリシュナに身を挺す お仕え人に奉仕して
バーガヴァタ プラーナ学ぶなば あまたの穢れ滅ぼされ
不易不変の信愛が 炎のごとく燃え上がる
2-19
tadâ rajas-tamo-bhâvâh
kama-lobhâdayas' ca ye
ceta etair anâviddham
sthitam sattve prasîdati
ラジャス タマスに基因する 快楽求む欲望や
無慈悲なる性 持つ者も
帰依が溢れしその時に 心(フリダヤ)に住まう至上主が
至高の光輝放たれて サトヴァ(清純)な質で満たされる
2-20
evam prasanna-manaso
bhagavad-bhakti-yogatah
bhagavat-tattva-vijn'ânam
mukta-sangasya jâyate
主への信愛深まりて 心にサトヴァ満ちしとき
至上主これを愛で賜い 真理と英知 授けらる
かくて世俗の束縛は 解き放たれて霧散せり
14
一巻 二章 スータ 口伝の神譚を語り始める
2-21
bhidyate hridaya-granthis'
chidyante sarva-sams'ayâh
kshîyante câsya karmâni
drishtha evâtmanîs'vare
心を覆う迷妄が 跡形もなく霧散せば
すべての危険 潰え去る
悪しき行為の成り行きは 無効となりて消滅し
至純となりし魂は 梵我一如を会得する
2-22
ato vai kavayo nityam
bhaktim paramayâ mudâ
vâsudeve bhagavati
kurvanty âtma-prasâdanîm
聖なる御主クリシュナに 献身捧ぐ功徳にて
悟り開きし聖者らは 無上の至福与えらる
斯くて至純の魂は 本来の相(梵我一如の姿)顕せり
2-23
sattvam rajas tama iti prakriter gunâs tair
yuktah parah purusha eka ihâsya dhatte
sthity-âadaye hari-virin'ci-hareti samjn'âh
s'reyâmsi tatra khalu sattva-tanor nrinâm syuh
唯一者なる至上主は ヴィシュヌ ブラフマー シヴァ神に
万象組成法則1.の 基盤の知識授けらる
それらの宇宙三神は サトヴァ ラジャスとタマスなる
プラクリティのトリグナ(三要素)を その御姿に具えらる
全人類の安寧は サトヴァの相のヴィシュヌより
恩寵としてあたえらる
注 |
1. |
万象組成法則… |
創造、維持、破壊の循環により宇宙が成り立つという法則。 |
15
一巻 二章 スータ 口伝の神譚を語り始める
2-24
pârthivâd dâruno dhûmas
tasmâd agnis trayîmayah
tamasas tu rajas tasmât
sattvam yad brahma-dars'anam
動かざるもの大地から 生まれ育ちし喬木は
不活発なる無知の象(タマス)
三種ヴェーダが薦めたる 供儀の祭火は激性(ラジャス)の
様相示す徴なり
無知のタマスにより優る 激性ラジャス更に超え
純性(サトヴァ)こそが神性ぞ
人世の民を救うのは 絶対真理
顕現の
サトヴァの相のヴィシュヌのみ
2-25
bhejire munayo 'thâgre
bhagavantam adhukshajam
sattvam vis'uddham kshemâya
kalpante ye 'nu tân iha
修行重ねし聖者らは 聖なる化身クリシュナを
純の極みと崇拝す
主に仕えたる功徳にて 浄化されたる魂は
<世の安寧を賜れ>と 伏して恩寵こいねがう
2-26
mumukshavo ghora-rûpân
hitvâ bhûta-patîn atha
nârâyana-kalâh s'ântâ
bhajanti hy anasûyavah
解脱を願いひたすらに 修行に励む者たちは
怒りの姿顕せる タマス ラジャスの神達を
否定はせねど関わらず
サトヴァの域に到達し 罪祓われし者たちは
寂静の気を漂わす ナーラーヤナや化身たち
至純の粋を崇拝す
16
一巻 二章 スータ 口伝の神譚を語り始める
2-27
rajas-tamah-prakritayah
sama-s'îlâ bhajanti vai
pitri-bhûta-prajes'âdîn
s'riyais'varya-prajepsavah
物質要素トリグナの タマス ラジャスに在る者は
富の支配や後裔を 強く欲する性ゆえに
祖霊 精霊 被造者ら 同一のグナもつ者を
心を込めて崇拝し 現世の利益 懇願す
2-28・29
vâsudeva-parâ vedâ
vâsudeva-parâ makhâh
vâsudeva-parâ yogâ
vâsudeva-parâh kriyâh
vâsudeva-param jn'ânam
vâsudeva-param tapah
vâsudeva-paro dharmo
vâsudeva-parâ gatih
絶対者なる至上主は 愚者を覚醒させる為 ヴェーダ聖典 啓示さる
絶対者なる至上主は 献身奉仕する者の 供儀を受け取るお方なり
絶対者なる至上主は ヨーガ行者が目指したる 修行の最終目的地
絶対者なる至上主は 行為の果実受けとりて 応報与う御方なり
俗世の知識 学ぶより 最上界の至上主を 知る事こそが真知なり
厳しく荒き難行は 最上界の至上主を 覚ることへの方途なり
絶対者なる至上主が 制定されし法則は 真理に生きる者の糧
絶対者なる至上主は 真理探究する道を 究めし者の永久の郷
2-30
sa evedam sasarjâgre
bhagavân âtma-mâyayâ
sad-asad-rûpayâ câsau
gunamayâguno vibhuh
全能の神クリシュナは 御自らの幻力で 宇宙開闢なされたり
されど常世の至上主は 夢と現の様相や プラクリティの幻想を
超越されて毅然たり
17
一巻 二章 スータ 口伝の神譚を語り始める
2-31
tayâ vilasiteshv eshu
guneshu gunavân iva
antah-pravishtha âbhâti
vijn'ânena vijrimbhitah
根原主なるクリシュナは プラクリティのトリグナで
物質界を顕され
パラマートマの様相で その内奥(フリダヤ)に入り給い
真と非真を見分けさせ 光輝への道開けたもう
2-32
yathâ hy avahito vahnir
dârushv ekah sva-yonishu
nâneva bhâti vis'vâtmâ
bhûteshu ca tathâ pumân
薪を焼べし篝火の 燃え上がりたる炎から
無数の火の粉はじけ跳ぶ
絶対真理クリシュナは 唯一なれど分身し
多様のごとく見ゆるなり
2-33
asau gunamayair bhâvair
bhûta-sûkshmendriyâtmabhih
sva-nirmiteshu nirvishtho
bhunkte bhûteshu tad-gunân
具象の世界顕現し 生命体の誕生を 意図なされたる至上主は
グナ三要素 組み合わせ タンマートラと五原素と
十の器官とマナスにて 創りたもうた人間の 心の
内に入られて
グナの作用と反作用 心の動き行動を
具に御覧遊ばされ 感官の実を享受さる
18
一巻 二章 スータ 口伝の神譚を語り始める
2-34
bhâvayaty esha sattvena
lokân vai loka-bhâvanah
lîlâvatârânurato
deva-tiryan-narâdishu
根本原主クリシュナは 御自らのご意志にて
宇宙創造なされたり
神と生物(動植物) 人々で 青き地球を創られて
化身となりて降下され
楽しむ如く振る舞いて 人を至純に導かる
19