二巻 五章 ブラフマー神 ナーラダの問いに答えらる
第五章【ブラフマー神 ナーラダの問いに答えらる】
5-1
nârada uvâca
deva-deva namas te 'stu
bhûta-bhâvana pûrvaja
tad vijânîhi yaj jnânam
âtma-tattva-nidars'ana
ナーラダ仙は申されり
「おお神よ神 始祖の神 全生類の創始者よ
<最高神の本質を 識別し得る妙法を
何卒教え賜れ>と 伏して頂礼奉る
5-2
yad rûpam yad adhishthhânam
yatah srishtham idam prabho
yat samstham yat param yac ca
tat tattvam vada tattvatah
おお偉大なるわが父(ブラフマー神)よ
現存したるこの宇宙 何処の誰が創造し
如何な権威に保護されて この後 如何に成り行くや
<何卒吾にこのすべて 教え導き給えかし>
5-3
sarvam hy etad bhavân veda
bhûta-bhavya-bhavat-prabhuh
karâmalaka-vad vis'vam
vijn'ânâvasitam tava
ブラフマー神わが父よ 御身はこれら万有の
過去 現在や先々の 事象のすべて知る御方
掌中にある実(アーマラカ樹の実・胡桃)のごとく
宇宙に関すそのすべて 胸裡(フリダヤ)に収む御方なり
44
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5-4
yad-vijn'âno yad-âdhâro
yat-paras tvam yad-âtmakah
ekah srijasi bhûtâni
bhûtair evâtma-mâyayâ
深き知識は何れから そして何れに保護さるや
何処の誰に従属し
御身は誰に依り立つや
その御方の意を推し測り 唯お一人で御身様は
五大元素を用いられ
具象の界を創らるや
5-5
âtman bhâvayase tâni
na parâbhâvayan svayam
âtma-s'aktim avashthabhya
ûrnanâbhir ivâklamah
恰も蜘蛛が巣づくりの 糸を倦まずに吐くごとく
おのれ自身の能力を 最大限に引き出して
万有すべて創始さる
5-6
nâham veda param hy asmin
nâparam na samam vibho
nâma-rûpa-gunair bhâvyam
sad-asat kin'cid anyatah
ああ全能のブラフマーよ
名前や姿 属性で 何が為されるべきなのか
地上のことや天のこと 実在のもの 非実在
これらを創る御方は 御身の他に吾知らず
45
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5-7
sa bhavân acarad ghoram
yat tapah susamâhitah
tena khedayase nas tvam
parâ-s'ankâm ca yacchasi
卓越されし御身様が 厳しき苦行一心に
修行されしと聴きおよび 御身を超える御方が
《はて何方に御座すや》と 怪訝な思い抱きたり
5-8
etan me pricchatah sarvam
sarva jn'a sakales'vara
vijânîhi yathaivedam
aham budhye 'nus'âsitah
おお偉大なるブラフマーよ 全ての者の支配者よ
あらゆることを知悉さる 御身に吾は質すなり
<何卒吾がその教え 正しく理解できるまで
教え導き賜れ>と 切に懇望 いたすなり」
5-9
brahmovâca
samyak kârunikasyedam
vatsa te vicikitsitam
yad aham coditah saumya
bhagavad-vîrya-dars'ane
ブラフマー神申されり 「おお愛おしきわが息よ
怪訝に思う事柄を 吾に向かいて訊ねしは
まこと嬉しきことなりき 問いに答えて今ここに
御主の誉れを高々と 喜びに充ち語るなり
46
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5-10
nânritam tava tac câpi
yathâ mâm prabravîshi bhoh
avijn'âya param matta
etâvat tvam yato hi me
おおわが息子 ナーラダよ
其方が述べし事柄は どれも過誤ではなかりけり
絶対者なる存在に 気付かぬ限り究極の
事績のすべてこの吾の 為せるが如く見ゆるゆえ
5-11
yena sva-rocishâ vis'vam
rocitam rocayâmy aham
yathârko 'gnir yathâ somo
yatharksha-graha-târakâh
この輝ける万有が 吾の創始と見ゆるごと
燃えるがごとき太陽や 月や惑星 星辰が
地を照らすかに見ゆれども これらの森羅万象は
自ら光輝 放たれる 至高の御主の顕われぞ
5-12
tasmai namo bhagavate
vâsudevâya dhîmahi
yan-mâyayâ durjayayâ
mâm vddanti jagad-gurum
至上の御主クリシュナに 帰命頂礼奉る
打ち勝ち難きマーヤーに 惑わされたる人々は
“宇宙の父”と吾を呼ぶ
47
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5-13
vilajjamânayâ yasya
sthâtum îksâ-pathe 'muyâ
vimohitâ vikatthante
mamâham iti durdhiyah
マーヤー女神であろうとも 主の一瞥に羞じらうに
無知蒙昧な人々は そのマーヤーに惑わされ
《吾と肉体は一つぞ》と そして《すべては吾のもの》と
さも得意げに語るなり
5-14
dravyam karma ca kâlas' ca
svabhâvo jîva eva ca
vâsudevât paro brahman
na cânyo 'rtho 'sti tattvatah
おおバラモン(ナーラダ)よ聴きたまえ
五大元素やカーラ(時)や 行為(カルマ)やそして本性(スワバーヴァ)や
個々のジーヴァに至るまで すべて御主の分身にて
ヴァースデーヴァに基づきし ものの他には実際に
役立つものは無かりけり
5-15
nârâyana-parâ vedâ
devâ nârâyanângajâh
nârâyana-parâ lokâ
nârâyana-parâ makhâh
古典ヴェーダの真髄は ナーラーヤナ(クリシュナ)と同義にて
すべての界の神々は 主(ナーラーヤナ=クリシュナ)から生ぜしものなりき
人類始め三界は ナーラーヤナが元祖にて
供儀を受け取る御方は ナーラーヤナであらせらる
48
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5-16
nârâyana-paro yogo
nârâyana-param tapah
nârâyana-param jn'ânam
nârâyana-parâ gatih
瞑想をする目的は ナーラーヤナに向かうため
厳しき行に励むのは 主を喜ばすためなりき
真優れし英知とは ナーラーヤナに気付くこと
それらの道を行くならば 御主の御許に至るなり
5-17
tasyâpi drashthur îs'aya
kûtha-sthasyâkhilâtmanah
srijyam srjâmi srishtho 'ham
îkshayaivâbhicoditah
照覧者にて支配者の 不変不動の至上主が
吾をお創り為されたり
すべてに充ちる御方の 投げかけられし一瞥に
励まされたるこの吾が 宇宙創造したるなり
5-18
sattvam rajas tama iti
nirgunasya gunâs trayah
sthiti-sarga-nirodheshu
grihîtâ mâyayâ vibhoh
宇宙を創り 維持されて やがて破壊をするために
駆使なされたる三グナ(サットヴァ ラジャス タマス)は
無属性なる至上主の マーヤーによる事績なり
49
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5-19
kârya-kârana-kartritve
dravya jn'âna-kriyâs'rayâh
badhnanti nityadâ muktam
mâyinam purusham gunâh
マーヤーに依るトリグナで 創り上げたる諸器官が
明示されたる本来の 姿で機能するならば 呪縛のすべて消失し
解放されしジーヴァ(個我)は 永久の自由を獲ち得べし
5-20
sa esha bhagavân lingais
tribhir etair adhokshajah
svalakshita-gatir brahman
sarveshâm mama ces'varah
感覚器官(を)生みだしし 三種のグナ(マーヤー)で己が身を
隔てられたる至上主を 粗体(人間)の目では見えざりき
ああ然れどもナーラダよ すべての者をそしてまた
吾を制するは御主であり 唯一無二なる依り処なり
5-21
kâlam karma svabhâvam ca
mâyes'o mâyayâ svayâ
âtman yadricchayâ prâptam
vibubhûshur upâdade
マーヤーシャクティ支配さる 偉大な御主クリシュナは
そのマーヤーで御自身を 多様に分化させんとて
〔時〕(カーラ)と〔行為〕(カルマ)と〔本性〕(スワバーヴァ)を
取り出してそを用いらる
50
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5-22
kâlâd guna-vyatikarah
parinâmah svabhâvatah
karmano janma mahatah
purushâdhishthhitâd abhût
均衡保つトリグナが 〔時〕の作用で乱されて
その〔本来の在り方〕(本性)が 大きく揺らぎ変化せり
斯くて〔カルマ〕(行為)が働きて 具象のマハト誕生す
これらすべては全能の 主のご意思にて成りしこと
5-23
mahatas tu vikurvânâd
rajah-sattvopabrimhitât
tamah-pradhânas tv abhavad
dravya jn'âna-kriyâtmakah
主が自らを転変し 具象化されしマハトから
サトヴァとタマス ラジャスなる
理知や物質 行動を 具えし界が生じたり
5-24
so 'hankâra iti prokto
vikurvan samabhût tridhâ
vaikârikas taijasas' ca
tâmasas' ceti yad-bhidâ
dravya-s'aktih kriyâ-s'aktir
jn'âna-s'aktir iti prabho
おおナーラダよ
このマハトより生じたる アハンカーラと称される
多様化の因 自意識が 純なるものと激性と
暗性(鈍性)を持つトリグナの そのシャクティで変化させ
理知や 物質 行動に 順次配分したるなり
51
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5-25
tâmasâd api bhûtâder
vikurvânâd abhûn nabhah
tasya mâtrâ gunah s'abdo
lingam yad drashthri-dris'yayoh
グナが開展したるもの ターマサアハンカーラから
最初に出現したるのは 微細元素の【音(声唯)】なりき
そして粗大な元素なる[空]が顕現したるなり
斯くて見る者(パラマートマ・根原主) 見らる者(ジーヴァ)
二つの相に分化せり(多様化の第一段階)
注 |
… |
25節~29節の【】内は【タンマートラ(五唯)】を表記し、 |
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[] 内は五大元素(粗大元素・ブータ)を表記。 |
5-26
nabhaso 'tha vikurvânâd
abhût spars'a-guno 'nilah
parânvayâc chabdavâms' ca
prâna ojah saho balam
[空(粗大元素の一)]が自ずと転変し
微細元素の【触(触唯)】生まる そして粗大な元素の二
[風]が発生したるなり 【音(声唯)】から生まる[空(粗大元素の一)]ゆえに
[空]は【音】なる性質を帯び
粗大な元素二の[風]は 【音】と【触】とを保有せり
それらはすべてプラーナ(生命力)を 強めるための力なり
5-27
vâyor api vikurvânât
kâla-karma-svabhâvatah
udapadyata tejo vai
rûpavat spars'a-s'abdavat
カーラ〔時〕とカルマ〔行為〕 スワバーヴァ〔本性〕
それらが転変することで [風]は【色唯(形)】具現せり
斯くて【音】【触】【色】を持つ 粗大元素(三)の[火]が生ず
52
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5-28
tejasas tu vikurvânâd
âsîd ambho rasâtmakam
rûpavat spars'avac câmbho
ghoshavac ca parânvayât
而して[火]は転変し
【味】の性質を具有する [水]の元素(粗大元素の四)が生じたり
[水]の元素は【味】の性質と 【色(形)】【触】【音】を有すなり
5-29
vis'eshas tu vikurvânâd
ambhaso gandhavân abhût
parânvayâd rasa-spars'a-
s'abda-rûpa-gunânvitah
[水]は【香】へと転変し 而して[地]元素(粗大元素の五)生じたり
【香】の特性 有す[地]は グナが開展したるもの(ターマサアハンカーラ)
微細元素の性質である 【味】【色】【触】【音】伴いぬ
5-30
vaikârikân mano jajn'e
devâ vaikârikâ das'a
dig-vâtârka-praceto 'svi-
vahnîndropendra-mitra-kâh
更に純性自意識(サートヴィカアハンカーラ)が 変じてマナス(心)生じたり
更に純なる意識(サートヴィカアハンカーラ)から
十柱の神 出現す
ディグデーヴァター(方位) ヴァーユ神(風)
ヴァルナ(水)の神やアシュヴィン(双神・神々の医師)
ヴァフニ(火の神)インドラ(天国を支配する神)ウペーンドラ
ミトラ(アディティの息子の一人) カー(プラジャーパティの一人)なる諸神なり
53
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5-31
taijasât tu vikurvânâd
indriyâni das'âbhavan
jn'âna-s'aktih kriyâ-s'aktir
buddhih prânas' ca taijasau
s'rotram tvag-ghrâna-drig jihvâ
vâg-dor-medhrânghri-pâyavah
更に激性自意識
(ラージャシカアハンカーラ)が
転変したることにより 十の器官が生じたり
感覚器官の耳(聴覚)と皮膚(触覚) 目(視覚)と舌(味覚)鼻(嗅覚)の五種類と
行為器官の発声と 操作(手) 生殖そしてまた 移動(足)排泄五種なりき
そしてメーダ(識別)とプラーナ(呼吸)も ラジャスが生みしものなりき
5-32
yadaite 'sangatâ bhâvâ
bhûtendriya-mano-gunâh
yadâyatana-nirmâne
na s'ekur brahma-vittama
ヴェーダよく識るナーラダよ
五大元素(ブータ)やインドリヤ マナスやグナの諸要素が
順序正しく適切に 結びつかなき場合には
ジーヴァの器(肉体)構築は 成り得ぬものと知覚せよ
5-33
tadâ samhatya cânyonyam
bhagavac-chakti-coditâh
sad-asattvam upâdâya
cobhayam sasrjur hy adah
その時直ぐに至上主は 非顕現なる自らの
シャクティ与えることにより 相互の結合(個我と肉体)促さる
斯くて両者が合体(個我と肉体)し 地球世界を生み出せり
54
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5-34
varsha-pûga-sahasrânte
tad andam udake s'ayam
kâla-karma-svabhâva-stho
jîvo 'jîvam ajîvayat
斯くの如くに至上主が 創造されし宇宙卵
幾千年の長き間を 浄き水面に漂いぬ
〔時〕が至 りて至上主は
〔本性〕〔カルマ(行為)〕用いられ 其(宇宙卵)に生命を与えらる
5-35
sa eva purushas tasmâd
andam nirbhidya nirgatah
sahasrorv-anghri-bâhv-akshah
sahasrânana-s'îrshavân
而して後 至上主は この宇宙卵 仕分けして
千余にのぼる(数多の)腿や足
腕や眼 顔や
頭を持ちて輝ける 普遍の相を顕さる
5-36
yasyehâvayavair lokân
kalpayanti manîshinah
katy-âdibhir adhah sapta
saptordhvam jaghanâdibhih
この宇宙体創られし 普遍相なる御身体の
腰から上の部分には 高位世界が七つ在り
腰から下の部分には 七つの低き界 在りと
智者 賢者らは見做すなり
55
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5-37
purushasya mukham brahma
kshatram etasya bâhavah
ûrvor vais'yo bhagavatah
padbhyâm s'ûdro vyajâyata
ブラーフマナは御口から クシャトリヤ等は腕から
御主の腿からヴァイシャ達 シュードラはその御足から
それぞれ生まれ きたるなり
5-38
bhûrlokah kalpitah padbhyâm
bhuvarloko 'sya nâbhitah
hridâ svarloka urasâ
maharloko mahâtmanah
ブールローカ(地)は主の御足
ブヴァルローカ(地界と天界の間に在る空界)は御主の臍
スヴァルローカ(天界)は心臓に
マハルローカ(偉大な神仙の界)は主の胸に 相当すると言わるなり
5-39
grîvâyâm janaloko 'sya
tapolokah stana-dvayât
mûrdhabhih satyalokas tu
brahmalokah sanâtanah
ジャナローカは 御主の首 タポローカは唇に
ブラフマー神住処なる サティヤローカは主の頭部
対応すると見做されり
56
二巻 五章 ブラフマー神 ナーラダの問いに答えらる
5-40 ・41
tat-katyâm câtalam klptam
ûrubhyâm vitalam vibhoh
jânubhyâm sutalam s'uddham
janghâbhyâm tu talâtalam
mahâtalam tu gulphâbhyâm
prapadâbhyâm rasâtalam
pâtâlam pâda-talata
iti lokamayah pumân
アタラローカは主の腰に ヴィタラは腿に配せらる
スタラローカはその膝で タラータラ界 脛なりき
マハータラ界踝に ラサータラ界 足の甲
パーターラ界 足の裏
斯くのごとくに至上主は 十四の界(高位7界・低位7界)を配せらる
5-42
bhûrlokah kalpitah padbhyâm
bhuvarloko 'sya nâbhitah
svarlokah kalpito mûrdhnâ
iti vâ loka-kalpanâ
他の人はまた斯くのごと 地
空
天と区分して(三界
)
ブールローカ(地界)は主の御足 ブヴァルローカ(空界)は主の臍で
スヴァルローカ(天界)は頭ぞと 主の御身体に相当てしなり」
第五章 終了
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